古代日本人の治療法(スキンケア編)

「医心方」と呼ばれる医学書は、平安時代に作られました。この書には、隋や唐との交流以前に伝わった人々の知識をまとめた医療や健康に関する重要な情報が含まれています。東洋医学の歴史において、とても重要な位置を占めています。

この医心方には、古代の日本人がケガや病気になった時の治療法が紹介されていて、宗教や天文、占相、哲学、呪術、あらゆる願望の対処法なども医療の一分野として扱われ、多数のカテゴリーに分けて記載されています。

その分類の中には美容に関する記述もあり、養生や発毛促進、ツヤ髪にする方法や美肌になる方法に加え、ニキビ治療法などが紹介されています。現代人と変わらぬ悩みを抱えていたことがうかがえます。

ただ、同じ困りごとを持つ現代と古代の日本人の違いは、治療に使う”薬”です。古代の人々は技術的な理由もありますが、本当の天然のものを薬として使用していました。

例えば、シミやソバカスを消すのに、地中にいる昆虫スクモムシ(主にカブトムシやコガネムシなどの硬い羽を持つ虫)の汁や蜂の子が浸かったお酒を顔に塗っていました。また、黒髪の似合う色白の肌になるために、ウノトリ(鵜:う)の白い糞をそのまま顔に塗ることが美白ケアとして実践されていました。

そして、現代では円形脱毛症と言われている「鬼舐頭(きしとう)」の治療法として、子猫の糞を焼き、猪の脂で練り、”鬼に舐められた”部分に塗れば脱毛は治ると人々は信じていました。

猫を飼った経験がある方なら、猫の排泄物の臭いはご存知でしょう。それを薬として皮膚に塗るとは、現代人には相当勇気がいることです。他にも、イボの治療に牛のヨダレを繰り返し塗布すると自然に消えると紹介されています。当時の人々は自然が生み出すものには格別の力が存在すると信じていたのでしょう。

古代人の体験が集積されて知恵になり、治癒する方法だと信じて昔の日本人は実践してきました。これらの”治療法”が理にかなっているかどうかは不明ですが、紹介されている内容によっては、現代でも通用する効果的な処方もあります。自然と共存する日本人だからこそ身近にある自然の秘めた力を知り、それによって人々は多様な悩みを解決していたのでしょう。

※参考文献:医心方 巻四 美容篇