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「マイセル(Mycel)」が目指す、分散型ドメインインフラとは?(「進捗2Earn」プロジェクトインタビュー)

「マイセル(Mycel)」取材レポート公開!

shiftbase/UNCHAINのweb3開発助成金プログラム「進捗2Earn」で、先日早くもテストネットを公開したプロジェクトがある。「マイセル(Mycel)」だ。

マイセルは、分散型ネームサービスのインフラストラクチャプロトコルで、様々なブロックチェーン上に存在するネームサービスと分散型ID(DID)プロトコルの基盤となることを目指すレイヤー1ブロックチェーンだ。

今回の shiftbase note では、マイセルの共同創業者 Aki Tarumi氏と原沢陽水氏を、shiftbaseの日原翔と「あたらしい経済」の設楽悠介氏が取材した内容をレポートとして公開する。


マイセルとは? 何ができる?

設楽悠介(以下 設楽):そもそもマイセルを作ろうと思った背景を教えてください。

Aki Tarumi(以下:Tarumi):マルチチェーンに対応してるネームサービスがなく、またウォレットアドレスだけでなく、Webやメールなど含めた広義のドメインという文脈で作られているものがないと感じたからです。

それらを提供できるブロックチェーン版を作りたいと思ったことが背景にあります。そこでマイセルというL1ブロックチェーンを作り、そこで色々なチェーンをサポートして様々なウォレットアドレスを一つの名前で解決できるサービスを考えました。

設楽:具体的にユーザー視点では、マイセルを使うとどんなことができるのですか?

原沢陽水(以下 原沢):まずマイセル上で、例えば設楽さんのやってるメディア「あたらしい経済(New Economy)」の「.neweconomy」のようなトップレベルドメインが発行できます。「neweconomy.eth」ではなく、「.neweconomy」を作ることができる。

例えば「shidara.neweconomy」のような、「任意の文字列.neweconomy」といった、サービス/ユーザー名などをつけたサブドメインも発行できます。

そしてそれらをマルチチェーンで使えることが特徴です。EVMやIBCだけではなく、ビットコインとかソラナとか、アプトスとかスイ等、多くのチェーンで使えるドメインが、マイセル上で発行できる仕組みです。

日原翔(以下 日原):インターネットのDNS(Domain Name System)との相互運用性はあるんですか? マイセルで取ったアドレスを、ネットのIPアドレスに対して紐づけることは可能なんでしょうか?

Aki Tarumi(以下 Tarumi):できます。 クリプトのウォレットアドレスだけでなく、Web3サイトやメールメールアドレス、また例えば、X(旧Twitter)のようなソーシャルIDなども、1つのマイセルのアドレスにまとめることが可能です。

原沢:Layer0 for ID、Layer0 for domain をコンセプトに進めているプロジェクトです。

日原: Webとブロックチェーンをネイティブに繋げるという意味で、すごく画期的なプロジェクトですね。クリプトのウォレットでも、ネットのIPでも、それぞれのアドレスに私たちは名前を必要としたわけで、その共通点からネームリゾルバの必要性を技術的にブリッジできるのはすごいです。

設楽:つまりマイセルで取得したドメインは、ビットコインでも、イーサでも、いろんなチェーンから暗号資産を受け取るウォレットとしても使えるし、Webサイトを表示するアドレスとしても使えるようになるというわけですね。

さらに企業などサービス主体側がそのトップレベルのドメインをとることで、例えばその企業のプラットフォーム利用ユーザーに、各自のユーザー名を使ったサブドメインみたいなウォレットアドレスとかを発行できるということですか?

原沢:はい、可能です。そのサービスがサブドメインを無料で配布することもできますし、例えば販売いただくことも自由です。web3で現在コミュニティを抱えているプロジェクトであれば、そこに対してweb3のゲートウェイとしてドメインを販売することも想定できると思います。

また大手企業などがweb3に参入する時、web3に慣れていないユーザー向けに複雑なウォレットアドレスを使ってもらうのではなく、「ユーザー名.企業名」といったアドレスを案内することができたりします。

設楽:仮に「X(旧Twitter)」がマイセルを使ってユーザーにそれを配布すれば、「Xのユーザー名.x」をウォレットアドレスに使えるわけですね。

日原:ちなみに同じドメインに対して、ウォレットと webドメインをそれぞれ紐づけることも可能なんですか? つまり同じドメインにブラウザのGETリクエストが来たらWebサイトを表示させ、トークントランスファーのようのブロックチェーンのトランザクションが来たら送金の処理するというようなことが、モジュラー化されているんでしょうか?

Tarumi:はい。各プロトコルごとにインターフェイスが用意されています。

設楽:ちなみにすでに「google.com」はICANNにすでに登録されていますよね? 例えばマイセルで「.com」をとることはできるんですか? そして僕が「google.com」を作るみたいなことが可能なんですか?

Tarumi:まず基本的には「.com」など既存のICANNのドメインはマイセルでは取得できないようにしています。

日原:できないというよりは、ネームスペースが別なので、多分できるけど、複雑になるのでできないようにするということですね。

Tarumi:そうですね、だから将来的にはそれらを解決するためにブラウザの機能拡張や、私たち自身がマイセル専用ブラウザを作ることなども考えています。

ドメインサービスにブロックチェーンを使う理由

設楽:ちなみに様々なアドレスを管理するのであれば、 ブロックチェーンを利用しなくても実現可能だと思います。今回マイセルがブロックチェーンである理由は何ですか?

Tarumi:現状のDNSの仕組み上、ルートサーバーがあり、それをコピーして、どんどん下に繋がって、一番下のところに私たちがアクセスし、一番上に問い合わせてくというルートになってます。

木を想像してもらうと分かりやすいんですけど、枝の先にある葉っぱに私たちはアクセスしているわけで、その途中の枝が何か汚染されていたら、おかしなことになる。それが現在のDNSの構造なんですよね。

それをブロックチェーンでやれば、ノードは全部同じ高さにある、そしてトランザクションとして情報を全部共有して、それをお互いに監視し合う状態を作ることができる。ドメイン管理には、その方が構造的に適していると考えています。

日原: 現在、ブロックチェーン上のdAppsのフロントエンドは、既存のICANN / IANAが管理するドメインを利用してますよね。だから仮に政府当局からの検閲を受け、個人の権利が不当に侵害される可能性はあります。

原沢:まさにそうで、web3の領域において、スマートコントラクトは分散できましたが、まだ分散できてないものがいくつか残っていますよね。その一つがIDとドメインだと思ってます。

ICANNも体制的には分散化されているようですが、もっと分散化できるんじゃないかと。だからマイセルはドメインの分散化を目指しているプロジェクトだと考えていただくと分かりやすいかと思います。

ICANNは善意によって成り立っていますよね。でもマイセルでは、ノードを建てると、ドメインによって生まれた収益がそれぞれのノードを建てた人にちゃんと入ってくる仕組みです。ドメインを善意ではなく、ブロックチェーンを使った経済的インセンティブでちゃんと分散化させ、ある種公共財にしていくことが目標です。

日原:ちなみにマイセルではドメインをNFTで表現していると思います。その理由は?

Tarumi:マイセルのNFTは、ドメインのレコードをアップデートできる権利となるものです。そしてドメインは売り買いされることが多いと思うので、そのような仕組みを今後実装していく予定です。

設楽:NFTのメタデータの中にドメインのレコードデータを入れているわけではないんですよね。そうするとレコードデータはどこに保管されているんでしょうか?

Tarumi:NFTにレコードデータは入っていなくて、マイセルのブロックチェーン自体に保管されます。

日原:ということは、マイセルドメインのレジストリーのレコードは全部パブリックで見られるってことですよね。

そこで質問なんですが、DNSの場合はプライバシー保護のような仕組みがあるじゃないですか。例えば僕は「shiftbase.xyz」をコントロールしてるわけですけど、この「whois情報」は事実上僕が購入した先のドメイン管理企業の内容になっていて、社名や僕の名前は出てこない。この部分はマイセルではできないということでしょうか?

Tarumi:その点に関しては、マイセル上では別に「whois情報」は必要ではないという回答になると思います。基本的にはEOA(Externally Owned Account:外部所有アカウント)がどのドメインの所有者になります。

日原:なるほど、いわゆる普通のブロックチェーンみたいな考え方ですね。ブロックチェーン上の情報はパブリックだけど、そのアドレス情報を利用者本人が自分と紐づけるかは、個人に委ねられるというような。

Tarumi:そうですね。そして逆に「証明したい」という場合もあると思うんです。だから今DID(分散型ID)のプロトコルと組もうと考えています。証明したい場合はDIDのプロトコルが検証してくれるというような仕組みも作っていきたいです。

設楽:ちなみにマイセル自体がブロックチェーンとのことですが、そうなるとマイセル上にdAppsを作ったりすることもできるんですか?

Tarumi:できます、スマートコントラクトを誰でも書けます。

原沢:例えば事業者がマイセルを使った際に、複数のチェーンを紐づけて利用すると思うんですが、その場合、例えばアナリティクスツールなどの需要があると思うんですよね。

そういったものをマイセル上のdAppsとして、私たちが用意したり、他プロジェクトから誘致したりできるようになっています。

設楽:例えばですがDEX(分散型取引所)なども作れるんですか? 

Tarumi:まずパブリックチェーンなので、特に何が作れないとか制限はないです。ただおそらくマイセル上でDEXを作る人はいないんじゃないかと思ってます。特段マイセル上でつく理由がないと思います、トランザクションがめちゃくちゃ早いわけでもないし、オラクルもオンチェーンで提供されているわけではないので。

マイセルのビジネスモデル

設楽:ここまでお話聞いてると、マイセル上で「.dao」を取りたくなってきました、そしたら多くのDAOに、サブドメインとして売れるかもしれない(笑)。ちなみにユーザーがトップレベルのドメインをマイセルで取得時に、どのようなコストがかかるのでしょうか?

原沢:マイセルでドメインを発行するためには、USDCなどで年間の登録料を支払ってもらうことが必要になります。それが利用者のコストになります。

設楽:ちなみにユーザーによって利用の度合いも違うと思います。トップドメインをとってサブドメインを100万人に配るケースや、逆にサブドメインを10人しか使わないケースなど。その場合、登録に必要なトークン量は変わるのですか?

原沢:はい、その辺りはテーブルを設けて行こうと思っています。またその応用でいうと、僕たちはブロックチェーンなので、そこで得たそのプロトコルレベニューやあらかじめ設けた予算を元に、グラント(助成金)を出して行こうと考えています。先程話したようなdAppsの誘致などもしていきたいですね。

現在マイセル自体は僕たちが開発してますが、今後調達をして、メインネットをリリースのその先にはファウンデーションにしていく予定です。そしてインターネット上のIDを軸にしたエコシステムを作っていきたいと思っています。

日原:マイセルについてはshiftbaseの「進捗2Earn」を通じて初期から追わせていただいていたんですが、今日改めて詳細のお話を聞けて、より理解が深まりました。ほんといいプロジェクトですね。

マイセルは現在「進捗2Earn」の最終段階のフェーズです。今後最後の助成金を獲得いただいて、その後もshiftbaseとしては企業の紹介やマーケティングについても伴走していきたいと思っています。

原沢:ありがとうございます、ぜひよろしくお願いします。そしてマイセルでは、7月末からテストネット「SHUGYO Network」を立ち上げています。

このテストネットでは、Bitcoin・Ethereum Göerli・Ethereum Sepolia・Polygon Mumbai・Aptos・Sui・Solanaをサポートしています。

ぜひ複数のテストネットにドメインを紐づけて、トークンの送受信を試していただければ嬉しいです。

(取材/編集:あたらしい経済 設楽悠介)

Mycel関連リンク

・Mycel公式サイト

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株式会社shiftbaseは「Dynamic collaboration for dynamic shifts(コラボレーションを促進し、社会に飛躍的な変化を生む)」をミッションに、web3領域に特化した技術主導のビジネス開発チームです。web3エンジニアコミュニティ「UNCHAIN」を主軸に、手を動かし未来をかたちづくる人たちのコラボレーションを促進するための持続可能なエコシステムの構築を目指しています。当社は、Polygon、Polygon Studios、NEAR、ASTAR Network、HashHub、Fracton Venturesとオフィシャルパートナーシップを締結し、アーティストのスプツニ子!、ソフトウェアウェレット「MetaMask」創業者のkumavisにアドバイザーとしてご参加いただいています。

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プログラムの目的は、個人の金銭的なリスクをゼロにして、世の中に”挑戦者”を増やすこと。参加者への助成金配布方法は当社が独自に開発した「進捗2Earn」方式を採択し、6段階の審査基準を満たしたチームは累計200万円の助成金を獲得することができます。また、助成金は日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」を活用することで、審査基準を満たした本プログラム参加者へと即時給付するスキームを構築します。2023年2月13日(月)から10月1日(日)まで開催していました。

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