「炎上」するもしないも、印象次第。

このご時世に、大丈夫か?と心配になるキャッチを見た。


『顔採用、はじめます。』

第一印象は、不完全燃焼のネット民にいきなり燃料投下かよ!である。


これが世に出たのは3月で、それからまったく炎上話を聞かない。むしろ女性から好評だったということで以下の販促会議の見出しになるのだが、自分なりにその訳をちょっと考えてみた。


メッセージは以下。
相変わらず”企業メッセージ”らしく抽象的な表現も多いけど、納得できる。


しかしこの手のメッセージでこれまでも山ほど燃えていたじゃないか。
一体どうしてこれが燃えないのか。


燃えない理由を紐解いてみた

・新卒採用目的の告知物であること。

「ウチを受けるならいわゆる就活スタイルではなく、自分らしい服とメイクで応募して!」と呼びかけるもので、ターゲットが新卒リクルーターに限定されていること。
彼女らが就活に息苦しさを感じているのは容易に想像できる。何十年も前だけど、自分だってそうだった。だからそんな風に言われたら単純に嬉しいだろう(わたしも流れに反してカラーシャツ着たりしてた)。

・化粧品メーカーを希望する層に限定されていること。
例えば金融を目指す人にリーチする必要がない。
金融はスーツの色がグレーだってダメだとか言われてた。紺じゃないとダメって。わたしの頃の話なので現代の就活トレンドスタイルは知らないけど、ニュースや街でリクルーターの姿を垣間見るに、昔よりもっと規制が細かくなっている気がする。

「好きなメイクでいきいきしたあなたらしい姿で」というメッセージから、自分の美意識が判断基準とされるだろうなということは感じられるから多少のプレッシャーにはなるにせよ、メイクやオシャレに関心がない人は、そもそも化粧品メーカーを希望しないだろうから(まったくとは言い切れないにせよ、多少なりとも共感できない企業や業界には受からないだろうし)その観点から行くと、ストレスを強いるものでもない。など、意図を届けたい先が狭いのが一つの理由か。


とはいえ炎上騒ぎは大体ターゲット外から火の手が上がるもので、何故そうならなかったか?最大の理由は、伊勢半という企業に理由がある気がした。


あなたが言うと、嫌味がない。

実は、今回社名を初めて知ったのだけど、ビジュアルの右下のロゴを見てなるほど、と思った。キスミーはドラッグストアでおなじみのプチプラコスメブランド。このたび調べてみたら、パッケージにベルばらタッチのイラストを採用しているヒロインメイクもそうだった。そして会社自体は老舗なんだってことも。

この強いメッセージも、プチプラブランドが言うと嫌味がない…気がした、あくまで私の感想だけど。

そしてブランドタグラインを「私らしさを、愛せるひとへ。」としているからこその今回の『顔採用=自分らしさを出してくれ』というワードにつながるわけで、単なるバズ目的のキャッチーな展開というのとも違う。


とはいえ一応フォローしている。そりゃそうだ、いつどこで発火するかわかったもんじゃない。


女子の気持ちを「わかってる」。

しかし、この注釈がまさに女子の心を捉えて秀逸で、
『“就活メイク”で自分を偽ることなく…』
という表現をしている。
就活メイクは自分を偽ることだと誰かが言ってくれたことで、どれだけの就活女子のモヤモヤした気持ちが晴れただろう。

よくよくサイトを見ると3/1〜10日間のエントリーとしていたようで、そりゃ人目に触れづらい。さらにこの特別サイトからのエントリーを『企画・マーケティング・広報』の業種に限っているというのも唸る。
確かにその分野を目指すキャラってもはやインフルエンサーとニアリーイコールであると言えるんではないかな。

彼女たちが、自分を偽った就活スタイルで本来の”映え力”を発揮できずくすぶってる中、得意を生かして!となったら「わかってる〜!」となるだろうし、さらに企業側としても広報が今後ブランドの顔となってメディア露出することを考えたら、映え力の強い女子を確実に掴んでおきたいという理由もわかる。まさにウィンウィンの仕掛けと言える。


10日間のキャンペーンで、しかも炎上しなかったどころか女性たちに共感を得て、冒頭の販促会議の見出しの通りエントリー数が前年比2倍。それだけ広告の結果が出たということ。

広告というには目的は求人なのでちょっと毛色が違うにせよ、そこまでの結果に繋がったということには違いない。就活には関係のない世代の私にも、この企業やブランドの考え方っていいな、という印象を与えただけでも十二分に成功だ。近頃は二次派生的な拡散によって本来の意図と異なるバズを生む。(ゆえによく燃える)


もしこのキャンペーンを○○○がやっていたら…

それで、ふと思ったのだけど、この一連のキャンペーンがお高いデパートコスメがやったら、あるいは普段からかなりカッコつけてるブランドだったら、かなり鼻につくのでは…?

試しにメインビジュアルの、KISSMEのロゴをSHISEIDOにしてみたらどうだろう…ええと、資生堂にまったく恨みも偏見もなくて、あくまでもビッグネーム代表という意味で。

なんだか途端に印象が変わりはしないか…。

外資系デパコスブランドが『顔採用』って言っても「ええそうでしょうよ、おたくの美容部員はみんな顔面偏差値もプライドもお高いもんな〜」ってひがみの一つも出てきそうである。これぞ女子の面倒な心理…


一方でフレンドリーブランドが強いメッセージを押し出しているから、好感を持つし、なんだか応援したくなる。

これって、我が身の投影なのかもしれないな。

映画でもドラマでも、いつの時代も、強いものに立ち向かっていくヒーローやヒロインが人気だ。なんだかそれと同じ構図を見た気がした。


何を言うか、よりも、誰が言うか。

今年は正月からコンスタントに大手の百貨店や小売りがボンボン燃えてたけど、最近の炎上って、強者に対する反感なんだろうか。

その強者というのも実態うんぬんではなくて、あくまでも”印象上”の、なのだけど。


共感も反感も、その手法やタイミングばかりではなく、『誰が言うか』が最大のファクターなのかもしれない。



↓伊勢半「顔採用はじめます。」サイトはこちらから。
※エントリーはすでに締め切られています。


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