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海外事業本部企画(2) − マーケティング

 これは海外事業に限ったことではないのですが、マーケッティングはある意味確率論だと思っています。

売上=客数(認知数×集客率×購入率)×購入単価

という数式で決まってしまいます。

 訪問販売とか、店舗に降ろす販売とかで、この数字が店舗数とか、訪問客数とか変化しますが、基本はこの形です。また相談ビジネスでは、集客率=購入率になりますが、それもバリエーションの一つと言えます。そして、そのどこに問題があるかで打つ手も決まってきます。

・認知数:広告、宣伝、広報活動の強化
・集客率:販促プロモーションを強化
・購入率:セールストークや店頭展示の見直し
・購入単価:メニューや価格の見直し

 これ以外にも様々な要素はありますが、基本はこれだけです。シャープではマーケティング全般に関わることはあまり出来ませんでしたが、部分部分では参画することができました。ですから、海外事業企画という訳でもないのですが、少しマーケッティングの話をさせていただきます。

 日本では多くの人が自分なりのマーケティングを説明されるケースが多く、聞いている方は混乱したりします。ですから最初にお断りしたいのは、これは私なりのマーケティングの定義であり、世の中の多くのマーケティングの専門家とかマーケッターという方々の話とは少し違うかもしれないということです。

 よく混同される概念に、セールスとマーケッティングというものがあります。これは全く正反対の概念なのです。セールスはお客様に商品やサービスを売り込む活動ですが、マーケティングは逆にお客様に買いに来てもらう仕組み作りになります。

 ですから、お客様がどういう商品やサービスを望んでいるかを調査する市場調査も、それに基づいて商品やサービスを開発することも、その良さを広告宣伝で広く告知することも、全てがマーケティング活動ということができます。

 例えば、ガンが100パーセント治る薬が開発されたとします。多分セールスする必要は全くないでしょう。このように売れる商品とかサービスを作るとか、仕組みを作るということが、マーケティングの基本となります。

 私がブランドと販促に携わったということは、この認知数、集客率、購入率の部分に携わってはいるのですが、海外事業の場合、実際に販売するのは海外の販売会社なので実務として関わった訳ではありません。仕組みとして理解しているという感じです。でも、シャープを退社後、いろいろな人の相談に乗るのに役に立っています。

 そしてシャープの実務ではないのですが、マーケットの変化を強く感じています。そのことに言及している人が少ないのでここに書いておきたいと思います。それはマスという市場が既に消滅して、クラスター型の小さな市場が沢山できているという現象です。これは、インターネットの普及に深く関係しています。

 インターネット以前、情報というのはマスメディアが流していました。テレビ、ラジオ、新聞、そういう媒体です。マスメディアの情報はある程度バリエーションはあるにしろ一律です。従って、その情報を受け取る方も同じような価値観になります。

 30代の独身サラリーマンならこういう感じの価値観を持つとか、40代の主婦ならこういう価値観を持つといった傾向が出てくるので、市場調査なりでその価値観を認識して商品やサービスを開発し、テストマーケティングでそれを検証する、みたいな戦略が成り立ちました。

 しかし、インターネットの普及によりこれが激変します。インターネットから流れる情報は多種多様です。今まで一律の価値観しか知らなかった人が多様な価値観を知ることになります。もちろん、年代によりこの傾向は違いますが、若い人ほど多様な価値観に向き合うことになります。

 またインターネットのSNSを見ると理解いただけるように、同じ価値観の人同士がコミュニティを作り出します。分かりやすい例でいうと、右翼系とか左翼系で意見の合う人同士が繋がる傾向になります。

 こういう小さなコミュニティが無数にできている訳です。ブドウの房のことをクラスターと言うのですが、クラスターのような市場が無数にできている社会、それがインターネット後の世界だと思います。

 こういう社会、市場を前提として考えた場合、マスマーケティングという概念は成り立ちません。それよりもクラスターマーケティングとかコミュニティマーケティングといった概念が必要になってくると思います。

 その代表例がオンラインサロンです。キングコングの西野さんのオンラインサロンは、2万人を超えたといいます。新しい形のコミュニティです。そのコミュニティをベースにして、新しいサービスをしたり、コミュニティの中で参加者のビジネスをサポートしたり、様々な試みがなされています。

 オンラインサロンは、新しい時代のマーケット構造というだけでなく、新しい時代のユーザーニーズの参考にもなります。なぜオンラインサロンに参加するか、それは参加することにユーザーがメリットを感じているからです。

 それはもちろん情報を受けられたり、オフラインのミーティングに参加したりという、受け身のメリットはあるのですが、そのコミュニティに参加し、何かのプロジェクトに参加することで、受け身ではない喜びを得られているのだと思います。

 イベントに参加したり、イベントをボランティア的に手伝ったり、新しいサービスの立ち上げに参画したりという、自分が何かをする、もしくは何かを直接しなくても何かをするグループに所属するという点にメリットを見出しています。

 貧困化や経済格差の話を別とすれば、日本では生活必需品は行き渡り、生活インフラも整備され、モノ余りの状況にあります。ですから消費ニーズはあまりなく、あるのは参加ニーズとでも呼ぶべきものなのだと思います。

 西野さんがオンラインサロンを成功させる秘訣として、具体的に参加できるものを提供し続けることと書かれていましたが、この具体的にというのがポイントで、オンラインサロンに参加して、何かのイベントやサービスの立ち上げに参加して、日常では得られない喜びを感じる、そういうことがオンラインサロンの核なのだと思います。

 オンラインサロンが分かりやすい事例ですが、マス型マーケットが消滅して、クラスター型のマーケットが主流になってくるという全体的な傾向があるでしょう。

 ネットワークビジネスもその流れの一つです。日本人はネットワークビジネスというものを極度に嫌う傾向があるようですが、世の中の流れがクラスター型の流れになるのであれば、商品やサービスを受けるにも属するコミュニティからという流れは必然かと思います。単純に適切なネットワークビジネスと、詐欺的なネットワークビジネスや人間関係を破壊しやすいネットワークビジネスがあるだけです。

 こういう流れの中で、もう一つ存在するのは「物を媒介にしないサービスの増加」という話です。モノ余り時代において、消費型のニーズが無くなっていると言いました。そして、それは参加ニーズだけでなく、相談ニーズとでもいうべきものへ流れる傾向にもあります。

 コンサル、コーチング、セラピー、占い、チャネリング、ヒーリングなど、モノを他人の悩みの相談に乗るビジネスです。相談だけでなく、モノを媒介にしないビジネスが今後増えていくと思いますが、この「モノを媒体にしない」というビジネスは、その種類にかかわらず、お互いにそのサービスの価値を確認するというプロセスが必要になります。

 現在、ここの技術の話をする人は多いのですが、「モノを媒介にしない」ビジネスの本質とは何かを説明する人はほとんど見かけません。今後はそういうことが必須になってくると私は考えています。

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