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ワーケーションができなくて

やってみたけど、うまくいかないんだ

 ワーケーションというものが、しばらく前からはやっている。リモートワークとの相性もよく、2020年の新型コロナウイルス感染拡大に合わせ、盛り上がりを見せた。

 クルマを走らせて地方取材をする私にも、「ワーケーションについて記事書いてくれれば載せるよ」というお声がかかった。そんな訳で、地方取材のついでにご飯が美味しそうな宿にも泊まってみた。ところが、一向にワーケーションに関する記事は書けそうにない。

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 そもそも、ワーケーションとは、どういうことなのだろう。そこからひもといて、私がワーケーションの記事を書けない理由を追ってみたい。

ワーケーションとは、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地でテレワークを活用しながら、働きながら休暇をとる過ごし方。「新しい日常」の奨励の一環として位置づけられる。
-Wikipedia「ワーケーション」より抜粋

 つまり、会社にいて働くべきところを観光地に行って仕事とバケーションを重ね合わせることと言っていいだろう。実際に楽しんでいる人を見ると、ワークとバケーションをノータイムで切り替えられるところが最大の魅力と感じる。

 で。これって。ワークとハウスワークとホリデーとバケーションがもともと隣接しているフリーランスにとっては、単なる日常だ。特に私のように1ヵ月に1度くらいの頻度で数日の旅をしながら取材をする人間にとっては、ワークとバケーションは1日の中で混在している。特別なことではなく、ひとつのワークスタイルでしかない。

 たとえば、2016年には四国取材の合間を縫って、88ヵ所の札所巡りを敢行した。取材と取材の間に数日の空き時間があり、一度関東に戻るのは現実的ではないので、以前から行きたかった場所に行っただけ。

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 つい先週も徳島、兵庫、愛知に行ってそれぞれの土地で地元の人にお勧めされた美味しいものを食べてきた。これもその土地を知り、取材のバックグラウンドになる知識を得ることと、旅の楽しみを重ねただけだ。ワークにバケーションを乗っけているのだ。

バケーション+ワークか、ワーク+バケーションか

 ここまで整理してわかったのは、最近騒がれているワーケーションとは「わざわざどこかにバケーションに行き、そこでワークもする」というスタイルだということ。私のワークスタイルは、ワークが前提にあり、そのついでにバケーションをしている。この差は、言葉の違いよりも大きいと思う。

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 ワークのついでにバケーションをするのは、「仕事で出張しとるのに、行った先で遊ぶなどけしからん」ということになりかねない。逆にバケーションの合間にワークをするのは「休みを与えたけどその間も仕事を進めてくれてありがとう」てな具合だろう。

 そう、そもそものベースが違うのだ。私はワークのついでに遊んでくる。でも、最近注目されているワーケーションは「遊びに行っていいよ、仕事もしてね」ということなのだ。この差は、私が気になっている格差にもつながってくる。

バケーションで勝てなければワーケーションでも勝てない

 ワーケーションの文脈で、人を呼び込もうと動いている自治体がある。バケーションしながら仕事ができるよと、コワーキングスペース、電源とWi-Fiなどの設備をアピールする。しかしバケーションしつつ仕事もできる、という考え方なら、行き先は自由である。そうなれば当然、観光資源のあるところが選ばれるだろう。私の観測範囲ではあるが、ワーケーションの経験談を語るブログ記事やSNSの投稿を見ていると、おおよそ次のような内容になっている。

・いい景色を見ながら仕事できて幸せ。
・食事がおいしくてやる気が出る。
・滞在地の設備がよくて仕事が捗る。
・アクティビティが気分転換にいい。
・普段行かない場所に来て刺激を受ける。

 つまるところ、良い景色、良い宿、うまいメシ、そんな観光資源を持つ場所が勝つ。何のことはない、観光誘致の延長だ。サテライトオフィスやコワーキングスペースを整備したって、観光地には勝てない。ワーケーションの文脈では新たな人を呼び込むことはできないのだと思う。

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 逆に私のように、ワークにバケーションを乗っけるスタイルだと、行き先は選べない。仕事で行く先がまず決まっており、そこで楽しめるものを探す。四国に行けば札所巡りをし、九州に行けば温泉に行き、といった具合だ。

ワークとバケーションの相性は悪くない

 旅先で仕事をするに当たり、コワーキングスペースの充実はある程度参考にするものの、実はそれほど重要ということもない。というのも、私ほど旅慣れてくると電源も通信環境も自前で完結できるように整備しているからだ。地方に取材に行って「Wi-Fiない詰んだ」とか言っていられない。電源も、クルマに400Whのポータブル電源を積み込み、取材バッグには26400mAhのモバイルバッテリーを常備している。

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 まあつまるところ何を言いたいかと言えば、「私はワーケーションを楽しめない」ということだ。バケーションしながらワークすることを楽しめない、という意味において、だ。

 しかしバケーションとワークの相性が悪いとは考えていない。むしろ、ワークの合間にバケーションがあるから、遠方の取材を楽しめるのだ。バケーションありきではなくワークありきだからこそ、自分の選択だけでは行かない場所に行くチャンスが生まれる。それは、新しい世界への扉を開くチャンスだ。47都道府県を制覇したのはもう何年も前だが、各県のすべての地方に行ったことがあるわけではない。まだ知らない市町村があり、そこに知らない魅力がある。観光地や有名旅館で仕事をするワーケーションよりも、一周か二周先を行っていると自負している。

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