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展覧会レポート ガウディとサグラダ・ファミリア展 名古屋市美術館

会期 2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)

年を跨ぐ前にと年末に出かけたサグラダ・ファミリア展。

現地へは11年ほど前に家族で訪問している。展覧会から帰宅後、11年前の写真をあさり、見返してみた。

2012年11月
2020年
2023年1月

同じ角度の写真が見つけられず、比較が難しい部分もあるが、確実に成長していることはわかる。

140年もの期間建設し続けているとのことだが、近年の目覚ましい成長ぶりには、技術の発達と潤沢となった建設資金が主な理由であるようだ。

資金難により建設中止に追い込まれた期間もあったというが、それでも長い年月をかけて地道に少しずつでも建設を続けたことで、「未完であること」に価値を感じて訪れる人が増え、結果的に入場料金による資金回収につながるという好循環を生んでいるということだろう。

さて、この展覧会では、4つの章に分けてガウディと未完の大聖堂サグラダ・ファミリアに迫っている。

1 ガウディとその時代

ガウディは大の写真嫌いで、現存するポートレイト(無帽)は5枚のみとか。レウス市で生まれ育ち、1878年に建築士資格を取得。

フランスの建築家ヴィオレ=ル=デュクの建築理論に傾倒していたことは、自身が建築論について書き記したノートに記載されている。

1878年パリ万博に出展した革手袋店のメタルフレームのショーケースをデザインしたことがきっかけとなり、その後大パトロンとなる資産家グエル氏に出会うこととなる。

1884年から1887年のグエル別邸、1886年から1888年にグエル邸、1900年から1914年にかけてグエル公園を建築しており、1906年には公園内に住居を移したという。

2 ガウディの創造の源泉

「創造は人を介して途絶えることなく続くが、人は創造しない。人は発見し、その発見から出発する。」「すべては大自然の偉大な本から出る。人間の作品は既に印刷された本である」

上記ガウディの言葉からもわかるように、自然を観察して見つけた幾何学的造形を取り入れることが、彼の建築理論となる。植物の石膏で型取りをして作った模型を建築に取り入れたりもしている。

初期の作品

スペインでは、1492年までイスラム帝国に支配されていたこともあり、イスラムと融合したムデハル建築なるものが存在。この様式を取り入れた建築が初めて手がけた邸宅、カサ・ビセンス。ガウディ作品に多く見られる曲線はそこにはなく、まるでレゴブロックで作られたようなデザインだ。

カサ・ビセンス 1883-1885年

その後世界の建築を学び、ガウディの建築論ノートにも記載されているフランスの建築家ヴィオレ=ル=デュクの考え方にもつながる、過去の建築様式をリバイバルする、ネオゴシック、ネオローマ、ネオビサンティン様式を取り入れていく。

グエル別邸の建設時に考案した「粉砕タイル」は、外壁や排気孔の煙塵対策としても有効。不良品のタイルを使って、曲線のある壁面をタイルで覆った。
この粉砕タイルの手法は、サグラダ・ファミリアの塔のてっぺんを形作っている「鐘塔頂華」にも採用されている。

1888年にはバルセロナ万博にて、ラ・トラサトランティカ(大西洋横断社)のパビリオンにも携わる。

この1800年後半から1900年の前半にかけての万博における影響力を考えると、この時代の建築家にとって、万博に関わることはとても大きな意味があったんだろうなと思う。

1878年のパリ万博で作られたトロカデロ水族館は洞窟の中のようなデザインで、壁水槽としての展示としては世界初となったとか。1800年代後半の水族館建設ブームの際は水温を一定に保つために地下に作られる傾向があったという。

1878年パリ万博 トロカデロ水族館

吊り下げ実験とガウディ

スペインにて撮影
コローニア・グエル教会堂計画 逆さ吊り実験

1898年にバルセロナ郊外にてコローニア・グエル教会建設を依頼される。
教会建設にあたり、より自然で強度が高いものを作るための逆さ吊り模型の制作になんと10年間を費やし、着工は1908年。半地下部分のみ完成。当初予定していた二階部分は未完の教会となっている。

「自然の法則に合致すれば成功する」「建築も従う自然の原理」という言葉にもあるように、教会建設にあたっては、より自然で、より丈夫なものを研究。おもりや重力を使って作り上げたパラボラアーチを上下反転させた構造が、自然で丈夫な構造であるという考えに至ったようだ。

いびつにみえる曲線に、耐久性を疑問視する声もあったが、耐久実験も行い、外野をだまらせることにも成功している。

そんな完璧にみえる構造も、実は手を加えすぎて不合理な部分もあったという説明も。なんとも人間臭さも感じる。

また、ガウディの造形はすべて直線でできているという展示もなかなか興味深かった。

東京工芸大学山村健研究室が制作した単双曲線面模型、双曲放物線図模型なるもの、難しくて説明ができないけれど、乱暴に言うと直線もねじったり、置き方をかえると曲線になるよねーと解釈。。。

こちらも東京工芸大学山村健研究室制作

パソコンのない時代に、より自然な造形を独創的な方法で生み出そうとしていたガウディ。類まれなる才能の持ち主だったのだと痛感する。

3 サグラダファミリア聖堂の軌跡

建設が計画されたその当時、バルセロナは産業革命による近代化が進むことで著しい貧富の差を生む社会となっていた。

そんな貧しい人たちをための教会を作ろうとしたのがブカベーリャ。宗教団体聖ヨセフ信心会を作り、聖堂をつくることに。出版業で集めたお金や、献金システムによりなんとか建築費用を捻出し、建築家ビリャール・イ・ロサーノに建築を依頼する。

このビリャールが、サグラダファミリアの最初の建築家で設計責任者。最初に計画された聖堂は、ずいぶんこじんまりとしていたようだ。

しかし、1年7か月後の1883年に、ガウディが二代目の建築家として担当することになった。

そこから10年間で完成を目指していたものの、1891年に巨額の寄付金があったことで、より大きくシンボリックなものの建築へ方向転換。豪華な降誕の正面を作り上げた。

日本人彫刻家 外尾悦郎氏が担当した彫像 降誕の塔正面
楽隊の人数が明確に決められていなかったため、3の倍数である9人としたとか。


内戦の関係で、一時中断を余儀なくされた際に、サグラダファミリアに専念すると宣言し、その後の全人生捧げることとなった。

生前のガウディは多くの時間を聖堂に身を置き、聖堂がガウディを作り、ガウディが聖堂を作ったともいわれた。

通常教会は、日が昇る東側を正面とするが、初代責任者ビリャールが北側を正面と設定したことがガウディのインスピレーションを刺激。
日が昇る東側を降誕の正面、日が沈む西側を受難の正面、南を栄光の正面として設計した。

聖堂全体模型 現地にて撮影
1/200の聖堂全体模型


現地でも印象的だった、聖堂内の天井の木漏れ日とステンドグラス。
森に見立て、木漏れ日のように日がさしこむ樹木式構造となっている。

柱は二重らせん円柱と呼ばれる構造で、上部に行くに従って、八角形、十六角形、三十二角形、六十四角形と、限りなく円に近づくように作られている。いたるところに自然と融合した幾何学の法則に沿った造形がちりばめられている。

聖堂内 現地にて撮影
光が差し込むステンドグラスは影も美しい。

ガウディの死後、1936年には内戦により工事は中断。図面も模型も多く消失。残された破片からの模型の復元から始め、デッサンや口伝に頼りながら工事は再開された。

サグラダファミリア内の模型工房 現地にて撮影

大地と天が結ばれるような鐘塔頂華。

鐘塔頂華の模型

そして1954年着工された西側の受難の正面は、ジュゼップ・マリア・スビラクスが彫刻を担当。無装飾でキュビズム風でガウディのイメージを踏襲しないスビラクスの計画図を聖堂建設委員会は承認し、1977年完成する。

ガウディはサグラダファミリアの建築に多様な建築家が建築に携わっていくことについても言及している。

多様な建築家によって手を入れられ、長い年月をかけ成長し続け、様々な人の思いが重なり合うことそのものに意味があると思っていたのかもしれないと想像する。

4 ガウディの遺伝子

1926年6月10日、路面電車に轢かれ逝去。死亡証明書まで展示。
身内のみでの葬儀を執り行ったが、ガウディを運ぶ馬車の後に、死を悼む市民の行列が1.5キロメートルも連なった。それだけ、ガウディは有名人で慕われていたのだろう。

1917年ごろに書かれたイグナシオ・ブルゲラスのニューヨーク・オフィスビル計画案は、サグラダファミリアを見た依頼主が、ガウディの様式に合わせての設計を要望されたもの。また、日本の建築家でも、磯崎新の上海ヒマラヤ・センターの特徴的な造形や、坂茂の樹木式構造などもガウディの建築の影響を感じられるとのこと。

磯崎新 上海ヒマラヤセンター


ガウディは、「人は創造しない。人は発見し、その発見から出発する」と言っていたが、ガウディ自身が後世の建築家達に発見される側となったという説明がとても印象的だった。

また最後にはNHKが制作した4Kのサグラダファミリアの映像が大きなスクリーンで楽しめ、綺麗な映像と幻想的な音楽に引き込まれた。

NHKといえば、本展覧会とのコラボ企画としてフランスの制作者と共同制作した4K画質のVR体験も実施。晩年のガウディが過ごした工房を忠実に再現した15分間の映像が楽しめるとか。

2024年1月11日から2月12日の期間限定で名古屋放送センタービルにて開催。
予約不可で当日朝整理券を配布。また13歳未満は体験不可。人数制限もあるためかなり厳しいが、無料。期間中に是非チャレンジしたい。

展覧会受付にて配布されてたチラシ

サグラダファミリアの9代目設計責任者であるジョルディ・ファウリ氏によると、ガウディ没後100年となる2026年に全体が完成するとのこと。未完であるからこその価値が、完成をしてしまうことでどのように変わっていくのかも楽しみだったりする。

建築の展覧会ということで、正直どこまで楽しめるか未知数だったが、気がついたら3時間も滞在。なかなかに興味深い展覧会でした。

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