「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく その音が響きわたれば ブルースは加速していく」のであり「The people on the edge of the night」は見えないのだ。

『近年、一般に、さまざまな問題に対して世論はリベラルな態度を支持するようになっているが、それとは裏腹に、社会の底辺にいる人々へのスティグマ化[ネガティブな意味のレッテルを貼ること]は強化されている。~こうした現象はとくに新しいものではない。社会学者のステファニー・ローラーとレス・バックは、労働者階級はまともに扱われることはまずないし、中流階級の人々からは、非常に「見分けやすい」人たちだとはじめから見なされていることが多いと主張している。ローラーの調査によれば、労働者階級の人々は特定の階級の一員とされたことはほとんどなく、「不快な存在」として言い表されることが多い。これは、たいていは労働者階級の人たちを表す符号として使われるシェルスーツや大きな金色のイヤリングといった、身体や服装などを標的にする見下した表現からきているのだという 。身体、外見、振る舞い、装飾品は、貧困層を符号化する際の中心になっている。それらの符号が特定の居住空間のイメージ、とくに「公営住宅」のような言葉と結びつくと、人々は「病的に見える点を結びつけて」その状況を理解しようとする。つまり、ある種の装いや話し方、住まいは、軽蔑される「階級であるということだけでなく、根底にある病理」をも暗示していると理解してしまうのだ。ローラーとビバリー・スケッグスは、労働者階級の文化的活動は「悪趣味」と評価されるだけでなく、病的であると決めつけられ、非道徳的で正しくない犯罪的なものとして符号化されていると強く抗議している。これは、労働者階級は一般に、プレカリアートの場合はとくに、文化を「持たない」とか、「まともな」水準に達した文化を持たないと決めつけられているという状況につながっている。スケッグスは、このようなスティグマ化の結果、貧しい労働者階級を価値のないものとして改めて決めつけることは、新しい形態の階級差別化を生み出す文化やメディアを通じて、新たな搾取の方法を作り出す元になっていると主張している。社会の最下層の階級を突き止めることは、その階級の人たちに烙印を押す行為に加担するリスクを冒すということだ。確かに、英国階級調査自体が社会の最下層の人々をさげすむ効果を持つ策略に加担してしまっていた。階級算出装置のパロディーがいくつも作られたことは、私たちの調査が下層階級への嫌がらせに利用された証左だと言える。英国階級調査が憎悪の渦に巻き込まれた事実は、階級分類と他者をおとしめたいという動機が結びつく力を、強烈に明らかにしている。このような構図が、都会で貧しく暮らす人々の生活に影響を与えている。公営住宅が残るロンドン東部を社会学の研究のフィールドにしているリサ・マッケンジーは地元の人々に話を聞くために、よくパブに足を運ぶ。店内は重苦しく、気が滅入るような雰囲気に包まれている。パブにいる人々の多くは、雇用形態は自営業ということになっているが、ロンドンの建築現場で働く、身分が不安定な下請けの労働者だ。女性たちもパートタイムで働いている。地元のパブやすぐ近くの金融街のオフィスの清掃などが仕事の一例だ。高騰する家賃の支払いのために福祉の補助金に頼り、低所得のために税金の控除を受ける人も多い(これは実質的に減少の一途をたどっている)。女性たちの状況も男性たちと同様に不安定である。このような不安定な生活をしている人たちはイギリス全土に存在する。ノッティンガムでは、貧しい女性や子どもたちが崩壊寸前の公営団地に住んでいる。そこではあらゆる生活資源が不足している。図書館や、貧しい子どもたちの健康や教育を支援する「シュア・スタート」センターやコミュニティセンターの閉鎖も珍しくはない。買い物をしたり、集まったりする場所も限られている。あるのは、古びた郵便局や食料雑貨のほかに宝くじや安酒などを売る小さな商店だけだ。イングランド中部や北部の都市や町の公営団地から聞こえてくるのは、そんな荒れ果てた現状ばかりだ。~このように、社会のヒエラルキーの底辺に近いことへの不安は、特権階級との間に引かれた境界線や不平等への不満に向けられるのではなく、「アンダークラス」への憤りに変換されている。労働者階級の人々の怒りは、自分と同じ立場にいる人たちとの連帯という形で表れるのではなく、自分は彼らとは違うということを明確にしたいという強い思いになっていたのだ。~プレカリアートの存在はちゃんと見えるのに、彼らを「悪趣味」と決めつける論法によって、その価値を認めようとしない。今日の階級の文化は、特権階級にあまりにも都合よくできているのだ。』

ヒトは独りでは生きてゆけないくせに集団になると小さな差を基に更に小さな集団へと区別という差別をしてゆく。「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく その音が響きわたれば ブルースは加速していく」のであり「The people on the edge of the night」は見えないのだ。

なぜ社会の底辺にいる人々は「見えない」のか
「7つの階級」調査が示す「貧困ポルノ」の誤り
https://toyokeizai.net/articles/-/318615

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