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[翻訳] Plant science leads the way in understanding biological timekeeping

以前、Gatsby The Plant Science TREEのサイトにあるOPEN LECTURESのAndrew Millar教授のセミナーのJapanese Translationを依頼されたのですが、数年たっても一向公開される気配がないので、ここで公開しておきます。

http://www.gatsbyplants.leeds.ac.uk/index.php

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Prof Andrew Millar, University of Edinburgh
Plant science leads the way in understanding biological timekeeping
Summer School Lecture 2012, Open Access lecture

Japanese Translation by Shigeru Hanano and Daisuke Shibata
Kazusa DNA Research Institute
2-6-7 Kazusa-kamatari, Kisarazu, 292-0818 Japan

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 再びこのサマースクールで講義をすることができて光栄です。私が最後にこのスクールでお話をしたのは2005年でした。その間に様々な進展がありましたが、6枚のスライドは前回にも使用したものです。
 これは、アメリカ中部に在住の植物生物学者Roger Hangarter博士が家の裏庭に咲いたヒマワリを24時間観察した映像です。玄関灯を灯したままにしておいたので、夜間も含めて24時間の間にヒマワリがどのように動いているかを観察することができます。まず明け方、ヒマワリの葉は東を向いています。真昼に太陽が真上に上ると、葉も真上を向きます。日の終わりには動いている影を観ることができます。植物は太陽を追いかけています。葉の角度は光をとらえるために変化しているのです。真夜中には葉は下を向いていて、陽が昇ると太陽を追いかけるのです。このヒマワリの動きについて覚えておいてください。後でもう一度出てきます。
 この講義の主題は生物時計についてです。植物も体内時計を持っています。時計は植物にとっても価値があるのです。時間はとても身近なものです。腕時計を身につけていない人は手を挙げてみて? あっ、意外といるのですね。2005年に私が同じ質問した時には、ほとんどみんなが腕時計をつけていたのだけれど…。たぶんみんな携帯電話なので腕時計をする必要はないかもね。興味深いです。

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 まず、なぜ私たちが植物の研究をしているか、私たちがやっている研究はどんな内容かについて説明をすることから始めましょう。これはとっても重要なことです。あなたたちはこれまでに食糧危機への挑戦について耳にしたことがあるかもしれません。いつもすべての人々に十分な食糧が行き渡る必要があり、その食糧供給システムが維持されなければなりません。これはかなりの難問ですが、同時に魅力的で生物科学の未来で解決できる課題です。

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 食糧供給システムの基本はその一次生産、すなわち光合成にあります。現実の問題として、私たちの食糧生産システムは不十分であり、世界では10億の人々が食糧不足か栄養失調で苦しめられています。「10億人」という数は、エイズと結核およびマラリアで亡くなる人数の総計よりも多いのです。それは、植物科学にとって根幹となる挑戦の場です。私たちは、地球上の人口が90億人に達する2050年にどうあるべきか考えなければなりません。そのためには、植物科学、光合成、植物発生生物学、そしておそらく概日時計を使って、新しい解決策を見つける必要があるのです。今日私が話そうとしていることの一つは、その新しい手法です。数理モデルを使って生物科学を理解する方法です。もしかしたら、あなたたちはすでにLシステムモデリングを使ったことがあるかもしれません。
 このグラフは、アジアの人口(x軸)に対しての、1961年から2000年までの米の収穫量(数百万トン、y軸)の推移を示しています。そして、この論文の著者は簡単な数式を使って、2050年まで線を伸ばしてみました。私たちは2050年までに食糧生産量を50から100%増産する必要があります。でも、どうやって実行しましょうか? もしあなたがさらにいくつかの年のデータを知っているのならば、その挑戦がどれだけ大変かわかるでしょう。米、小麦及び他の作物の生産高の推移は人口増加のスピードに追いついておらず、このグラフのように直線的に伸びていないのです。むしろ下降傾向です。このような傾向は、限られた耕作地、水、そして限られた窒素やリン酸肥料を使って、やるべきことがたくさんあるということを示しています。2050年までに必要とされる収穫量を得るために。

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 植物科学で魅力的なことの一つは、実験室で行っている科学をスケールアップすることで、とても大きなスケールで問題の解決策を見出すことが可能ということです。だから、私は、もしかしたらあなたたちはすでに聞いたことがあるかもしれないシロイヌナズナについて話をします。私たちは、シロイヌナズナを研究する様々な略称を持つ多くの異なるプロジェクトに従事しています。私たちは、細胞内での基礎的なレベルでシロイヌナズナを研究していますが、同時に広い耕作地の景観の規模を見渡し、作物の収穫量増産を生み出す科学を理解できるのです。

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 これから私が話そうとしている時間スケールは、腕時計や携帯電話で測ることができるような日々の時間から年単位の活動についてです。植物は日々の単位よりも季節の周期によってことを成し遂げます。特に、植物にとって一つの重要な選択はいつ花を咲かせるかということです。これらは実験室で作り出した冬(短日)及び夏(長日)条件下で生育させたシロイヌナズナです。夏条件下で生育させたものはとっても早く花を咲かせました。その時期は概日時計に依存しています。あなたたちの携帯電話は時計と同時にカレンダーを持っているでしょう。私は、これら両方の機能を持っている生物学的な一面を紹介します。

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 問題はとても複雑です。どのようにしてその遺伝子回路が働くのかを理解することは、ただ単に実験を行うよりもずっと大変です。私たちの研究方法はシステム生物学と呼ばれています。研究の基になる収集されるデータは大規模であるかもしれないが、必ずしもそうである必要はありません。データは解析され統計的に処理されているかもしれないし、そうでないかもしれません。重要な点は、あなたが分析から導き出した理解が形式的な数理モデルにおいて捉えられるということです。システムが複雑になった時、数理モデルの助けなしに、それらを説明するのは困難でしょう。しかし、また数理モデルを簡単に作るためのソフトウエア無しにモデルを使うのも難しいでしょう。私はソフトウエアについてはお話ししませんが、それも重要です。
 モデルを分析することから私達は予測を立てて、その予測は新しい実験をデザインします。新しい実験を行うことによって、モデルを再構築するデータを得ることができます。私は2つの例を示します。このモデル-実験サイクルでのポイントは、モデルを構築することでも、ソフトウエアを作ることでも、予測を行うことでもありません。ポイントは、生物の仕組みがどのようなものであるかを理解することです。人間の理解はとってもとっても単純です。私たちは、何かを理解したとモデルを示すことも言うこともできません。私たちがそれについて話をする時に理由を示すことができるだけです。人間の理解力は低次元なので、私はモデルから導き出されることを示すことはできるけれども、モデルは常に現実と同じではありません。

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 私たちは、エジンバラ大学の合成システム生物学センター(SynthSys)と呼ばれる研究所で仕事をしています。私は、少しだけ合成生物学についても簡単に紹介します。

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 このスライドの左側の列に、私たちの研究所のメンバーを紹介しています。中央は過去のメンバーで私の最初の大学院生から始まって、2005年の学生がこのカラムの最後です。実験科学者は黒で、理論科学やモデル構築に関わった人たちを青で示しています。ざっと見ると、2005年までのほとんどの人たちは実験科学者で、2005年以降は実験科学と理論科学の人材がまぜこぜになっているのがわかると思います。最近は多くのメンバーが実験科学と理論科学の中間のどこかで仕事をしています。私の研究室には、実験科学と数理科学の異なるスキルをミックスさせたデュアルな専門家がいて、それはまさに私が何をしたいのかを表しています。横断的な知識をミックスさせて研究を進めていくことは、これからあなたたちがキャリアを積んでいく上で一つの重要なキーになるでしょう。そういった技能は非常に価値があります。
 私たちは多くの共同研究者と一緒に仕事をしています。今日は、Warwick大学の数学者David Rand博士とMatthew Turner博士とともにスタートした仕事について話をします。私たちは、ドイツのMark Stitt博士、バルセロナのPaloma Masと仕事をしています。

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 私は、概日時計について話をして、カレンダー(年周期)の話をし、最後にモデルから導かれた結論について紹介して終わろうと思っています。

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 あなたたちは、生物時計について知っていますか? 生物時計は睡眠と覚醒のサイクルをコントロールして、多くの時差のある場所へ旅行した時に時差ぼけを生じさせます。生物時計は、交替勤務で働く人たちの20%が夕方や夜勤シフトを簡単にできるか、あるいはトラブルを抱えるかどうかを決定しています。
 私たちはヒトの体内時計について知っています。なぜならば、人間は、ここで示すように、朝夕を通して記録することができるからです。これは、スリープダイアリーと呼ばれる睡眠記録です。寝入る時間が記されて、白いバーで示されている部分が眠っている時間帯です。彼は、ここで就寝し、ここで起床しています。同じ日が2回表示されており、下の段のプロットには、次の日が続けて示されています。9か月分のデータがあります。見て分かる通り、この男は多くの日に規則正しい生活をしています。5日間同じ時刻に起きて2日間遅い時刻に起きています。これは生物学の一面、あるいは社会学の一面です。実はこの部分は週末で、社会学の影響を受けており、ヒトの生物時計を観察しているわけではありません。目覚まし時計、携帯電話、朝のコーヒーなどの影響を取り除かなければなりません。

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 ヒトもしくは他の生物を、私たちがコンスタント環境と呼んでいる条件に連れて行くことは、ヒトに関してはとっては難しいことです。私たちは様々な時間のきっかけに敏感です。したがって、私たちは日常とは異なるどこかへ彼らを連れていく必要があります。そして一箇所そのような場所があります。英国南極調査のホリー基地です。南極の冬は数カ月間にわたって暗闇に閉ざされ、夏には白夜が訪れます。もしかするとあなた方がコンスタント環境と思っていたかもしれない私が先ほどお見せした記録は、この基地の労働者からのデータであり、彼の環境は非常に制御されていました。基地は元軍隊上級曹長を雇用しており、毎朝特定の時刻に非常に大きなベルが鳴って基地全体が起床するのです。したがって、そこはとてもいい場所とは言えませんが、それでも南極は24時間周期のリズムまたは体内時計を勉強するにはふさわしい場所です。幸運にも、一般に元軍隊上級曹長を雇用しない組織で比較対象となるグループがありました。それはグリーンピースです。

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 これらは、ベースからそれほど遠くない南極沿岸にあるグリンピースに滞在していた4人のボランティアの睡眠日記です。9ヶ月分のデータを見ることができます。彼らは明暗サイクルのある南極の春に滞在を始めました。ここでは、非常に規則正しい睡眠覚醒サイクルを見ることができ、お互いのサイクルが同期しています。なぜなら、彼らの睡眠覚醒サイクルは明暗サイクルと同期しているからです。南極の夏になると、記録が右側にずれていく、すなわち誰もが毎日1、2時間ずつ遅く起床して、1、2時間遅く眠りにつくのが確認できます。ヒトの体内時計はこの条件ではゆっくりになり、24時間を刻みません。この現象はほとんどの人に当てはまる観察です。人によってばらつきはありますが、平均的に遅くなります。ヒトは24時間の周期を持っていないにもかかわらず、明暗サイクルに戻った時には、また24時間に同期し始めます。睡眠覚醒の時間は外部の明暗サイクルに同期します。時差ぼけを避けたければ、明るい太陽光がベストです。いつも太陽の日差しがさしているわけではないスコットランドでも、少し太陽の光を見るだけで光の量は十分かもしれません。鋭い人は、このグラフを見て真夏のある時に幸福な出来事が起こったことに気づくかもしれません。これら2人の記録はお互いに同期しています。これは、二人がともに起床し、一緒に就寝していることを意味しています。ちなみに、彼らのうちの一人はキャプテンでした。

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 これらデータから得られた単純なアイディアは普遍的で、それらはすべての生物の生物時計システムに当てはまります。生物時計のシステムは、厳密に24時間ではないが24時間に近い周期やリズムを作る振動子を含んでいます。外部環境に振動子を同期させるために、明暗サイクルに振動子を同期させることができる入力系を持っています。そして、私たちのホルモンレベル、アルコール耐性、痛覚、睡眠覚醒など、明らかなリズムを制御する幾つかの出力系もあるに違いありません。このような時計システムは、ラン藻、ショウジョウバエおよびハムスターでも確認されています。
 私が話していないことが一つあります。振動子のとても変わった特徴についてです。ほとんどの生化学反応は温度が上昇するに従って速度が速くなるのですが、生物時計は温度が暖かくても冷たくても同じ速度を保ちます。この生物時計の温度補償性は生化学反応としては普通ではない一面です。もちろんその特徴が進化的に適応していることはわかるでしょう。寒い日だって惑星は回転速度を落とさないのですから。生物時計は周期的に生じる外部環境の変動を予期するために必要なので、外部環境に同期し且つ非常に頑強でなければなりません。では、私たちはどのように生物時計を作っているのでしょう? 時計の中ではどのようなことが起こっているのでしょう? ここで幾つかの棒線を使ったステップを示します。CがDを活性化させて、DがEを活性化させて、EがFを活性化させて、FがCをオフにします。これはネガティブフフィードバックを意味しています。

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 私たちは、なぜネガティブフィードバックが働いていると思うのでしょう? それは非常に単純な概念だからです。私はこれから2つの概念を示しています。様々な振動子を持つ多くの異なった生物システムで共通の概念です。このケースは、ネガティブフィードバックと遅延の2つの成分を持つ遺伝的システムです。これはどのようにして振動を作っているのでしょう? ここに一つの遺伝子があります。その遺伝子からRNAが作られ、そのRNAからその遺伝子にコードされているリプレッサータンパク質が作られます。そして、リプレッサータンパク質が転写を止めます。最初RNAはだんだん増えていき、リプレッサータンパク質が作られる直前にRNA量は最高レベルに達します。リプレッサータンパク質が最高レベルに達する時にはRNAは姿を消します。転写が止まって、最終的にはRNA量は減っていくのです。重要なことに、RNAがなくなるとタンパク質も分解して減少に転じます。リプレッサータンパク質がなくなると、再びRNAが作られ、周期が現れるというわけです。このとってもシンプルなモチーフがどのようにして振動周期を作るのか理解していただけましたでしょうか? 実際にそうなのです。しかし、システムが上手く動くには、タンパク質がすぐにRNAを消し去らないように、遅延のしくみが必要です。タンパク質がハイレベルに達して維持する十分な時間があってから、物事をオフにしていく必要があります。

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 遅れは、あらゆる手段で作ることができます。一つのステップかもしれないし、多くのステップで作られるかもしれません。このケースでは、 AがB,C,D,E,F,GそしてHを活性化させて、HがAを抑制しています。この仕組みが働くことをどのようにして理解しましょうか? 作ってみるのです。合成生物学でテストしてみて、振動子を持たない生物で振動子を作ってみるのです。

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 これから、尊敬に値するMichael ElowitsとStan Leibler博士の革新的な仕事の一部を紹介します。彼らは、3つのリプレッサーによる回路を作りました。このケースでは、中間のステップがすべてネガティブになっていますが、前のスライドで述べたことと本質的には同じことです。これはlacリプレッサーです。それはtetリプレッサーを抑制し、tetリプレッサーはλリプレッサーC1を抑制し、λリプレッサーはlacリプレッサーを抑制します。それらはすべてプラスミドにコードされています。それらプラスミドをGFPリポーターとともに大腸菌に形質転換しました。もし、この矢印通りに反応が起これば、この特別な細胞は、GFP蛍光をオフ-オン-オフ-オン-オフ-オン-オフ-オン…と繰り返すでしょう。実際に振動を確認できます。これが時間的な遅れを持ったネガティブフィードバックが振動を作り出すと私たちが信じる強い証拠です。なぜなら、私たちはそれを目にして、デザインすることができたからです。

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 では、最初の要約です。生物時計は、自立した継続的なリズムを作り出します。そこには、明暗サイクルは必要ありません。リズムは明暗サイクルのない南極大陸でも続くのです。リズムは日周変動に同期します。太陽の影を利用する「日時計」とは違います。最初に見せたヒマワリの話を覚えていますか?ヒマワリは、夜が終わる明け方にどのように動いていましたか? すべての葉は真夜中にはだらんとぶら下がっていましたが、太陽が昇る前の夜の終わりにはすでに東の方に向いていたのです。これが生物時計の利点です。時計を持っていれば、生物は予期できる変化にあらかじめ対応できるのです。もし日時計しか持っていなければ、生物時計を持っている時のようには適応できません。その時計のメカニズムは何でしょうか? どのようにして、遺伝子やタンパク質がネガティブフィードバックと遅延を作り出しているのでしょうか?

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 それが、まさに生物時計メカニズムの本質的な問いです。では、続いて見ていきましょう。

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 これからは一般的な話から切り換えて、植物での特色について話を進めていきます。特にほとんどはシロイヌナズナでの話です。シロイヌナズナはCheltenhamにある私の家の舗道にも生えています。こんなコーラの蓋くらいの大きさの植物です。それでも、典型的な24時間のリズムを観察できます。これら植物は恒光定温条件で育てていますが、それでも生育が一定の速度ではないことがわかるでしょう。その生育は「伸長して休んで、伸長して休んで」を繰り返しています。毎回伸長を止めて子葉を展開させています。毎日夕方に伸長して、朝には伸長を止めます。その背景では、マイクロアレイの写真の中に見られるように各々の細胞の中で生物時計がたくさんの遺伝子を制御しています。ここには、夕方、夜、朝、日中から次の夕方に発現する遺伝子が示されています。すべての遺伝子のうち、およそ30%の植物遺伝子群が時計によって制御されています。これら遺伝子群の一部は開花時期を制御しています。

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 生物時計の遺伝子発現という生物体内の目に見えないリズムを、少しだけ目で観て研究するために、私たちは蛍の発光レポーター遺伝子を使いました。そう、その当時はまだレポーター遺伝子という概念も一般的に広まってはなかったのですが。私たちは、植物が何をしているのかを見たかったのです。リポーター遺伝子を用いなければ他の方法では研究することが困難でした。私たちは、植物の制御機構の一端を明らかにするために、シロイヌナズナから得られた時計遺伝子のプロモーター制御領域に蛍の発光ルシフェラーゼを融合させたヘテロの遺伝子を用いました。この融合遺伝子を導入した形質転換体植物を作製して、非常に感度の高いカメラでイメージングしました。ルシフェラーゼ発光の量は、植物遺伝子の転写量を反映しています。私たちは、個々の植物からのルシフェラーゼ発光リズムを見ることができます。今、マーカーが手に入りました。植物を破砕することなしに時計を見ることができるのです! 私が大学院生だった頃に設計した各々の植物とこの手法は、とても一般的に使われています。現在、ショウジョウバエ、マウス、ラン藻などの生き物が、リズミカルに光っています。

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 現在、私たちは各々の細胞で起こっている現象に近づいて見ることができます。これは蛍ルシフェラーゼを融合させた植物のリズムを刻む遺伝子一つです。顕微鏡下でこの葉に注目すると、葉の上で発現の波を観察することができます。毎日その中心近くのどこかで発現の波が始まります。なぜそれが起こるかは私に訪ねないでください。それを説明するための十分なアイディアを持っていません。しかし、この状況ですべての細胞がリズムを刻んでいるということはわかるでしょう。現在、全ゲノム上の遺伝子の30%と言われているリズムを刻む遺伝子の幾つかは実際に時計の分子機構の一部であることが知られています。それらは蛍の遺伝子のようにただ単に時間を知らせる時計の針ではありません。蛍の遺伝子は歯車としては何も機能していません。しかし、植物でリズムを刻むおよそ20個の遺伝子は歯車として機能しているのです。ここに示したものはその一つです。これは、CCA1 (Circadian clock associated gene 1)と呼ばれる朝に発現する遺伝子で、LHY1(Long Hypocotyl 1)と一緒に働いています。

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 それらはモーニング遺伝子であるために十分な条件を備えています。ルシフェラーゼレポーターや他の方法を使って、世界中の研究室でリズミックな遺伝子群の全体像が同定されました。それら名前のすべてを覚える必要はありませんが、ネガティブフィードバックと遅延があることは覚えておいてください。私は3つの遺伝子について話をします。それは信号機の緑と同じです。CCA1とLHYは協調して働きます。それらは転写因子です。時計で制御される遺伝子のプロモーターに結合して、転写をストップさせます。信号は赤になります。CCA1とLHYは朝に発現を抑えるので、その下流の遺伝子は夕方まで発現しません。その一つのTOC1(Timing of CAB expression 1)遺伝子に注目しましょう。TOC1はCCA1とLHYを間接的にオンにします。緑のラインです。ネガティブフィードバックと遅延を生じさせる十分なコンポーネントがあります。しかし、このネガティブフィードバックループは一つではありません。TOC1はPRR (Pseudo-Response Regulator)遺伝子をコードしているのですが、そのファミリー遺伝子もCCA1-LHYとネガティブフィードバックを作ります。それはネガティブフィードバックですが、もっと複雑です。私はちょっとだけ正確に説明します。このスライドでは2つのことが言えます。これらタンパク質は進化的に保存されていません。動物、菌類、ラン藻の時計では保存されていません。しかし、それらは他の植物では重要です。PRR7は大麦の開花時期を調節します。CCA/LHY1を調節するキナーゼは、イネの開花時期をコントロールしています。エンドウで同定された夕方遺伝子の一つELF4と大麦遺伝子のELF3は様々な植物種において開花時期を制御していることがわかっています。

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 私たちはどのくらいそれについて知っているのでしょうか? これら回路はつながっています。その方法は完全に従来の遺伝学によるシンプルな論理でわかっています。モーニング遺伝子のLHYとCCA1に着目しましょう。それらはお互いとても似ています。そして、それらの機能はほぼ等しいくらい近いので、どちらをスタートにしても同じです。
 ここでは、LHY1とCCA1を非常に多く発現している植物からスタートします。私たちはTOC1の発現を検出することができます。ここでのy軸はTOC1のレベルです。黒い部分は夜中、それから白いバーで示している部分は、植物をコンスタント光条件に移動したことを示しています。野生株では、TOC1の発現は朝にダウンし、夕方にアップします。それは恒光条件に移した後も、このリズムは続きます。LHYを過剰発現させた植物では、このTOC1のシグナルはなくなります。私たちはLHYを過剰に発現する形質転換体植物では、どの時間帯でもTOC1の発現をほとんど検出することができません。変異体でその標的遺伝子がオフになることは驚くべきことではありません。TOC1レベルが非常に少なくなることで、植物の生物時計も止まります。LHYはリプレッサーです。では、TOC1はどのような機能を持っているのでしょう。このループはどのように完成するのでしょう? TOC1が非常に少ない変異体でLHYまたはCCA1の発現を見てみましょう。LHYとCCA1はパートナーを組んでおり、朝に発現し、夕方にはなくなり、次の朝にまた発現します。TOC1がないときには、LHYとCCA1は非常に少なくなり、時計が速くなります。TOC1は時計を通常のスピードに保つのに重要であり、CCA1を活性化させます。TOC1はこのネガティブフィードバック回路を閉じているのです。
 それはすでに適度に複雑なシステムです。それは、私のGatsbyによりサポートされた学生James Lockeが構築した数理モデルです。そのモデルによって、シンプルな図が完成し、データを説明できました。私はPowerPointのスライドを用いてあなたたちに説明しているけれど、人間の脳はそれほど利口ではないので、モデルの助けなしにどのくらいの現象がどのくらいの効果を与えているかといった定量的な力学を推察はできません。

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 私はJamesが作った二つのスライドを示します。Jamesが作ってくれたのは微分方程式のパワーポイントのスライドです。LHYはTOC1のリプレッサーであり、TOC1はLHYを活性化します。私たちのモデルでは、細胞質のタンパク質プールと核内のタンパク質プールがあります。各々のタンパク質プールは方程式で表されており、この式はLHYの量を示しています。このモデルはかなり直接的です。LHY mRNAは転写によって生成され、そしてmRNAは分解します。核内のTOC1は転写を活性化させます。私は「TOC1がLHYの転写を活性化させる」と言いました。これがその方程式です。私はここに書かれているvとkの値について話をしていませんでした。これらは転写や分解のレート(速度)などです。私たちは、この時にはJamesが行っていることについて半信半疑でした。
 このモデルを見て思い出しました。Jamesは私の研究室を去った後、 Michael Elliottと仕事を始めています。Michael Elliottはリプレッサーモデルを作って、現在英国に戻ってきてSainsbury 研究所で働いています。

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Jamesは各々のコンポーネントのための方程式のセットを書き残していました。

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 彼は、この小さな回路がうまく動作して実験データを再現するようなvsとksのセットを見つけるために多くのパラメーターのセットをテストしました。たくさんの種々のパラメータを組み合わせたテストをした結果、私たちは短い答えを導き出しました。私たちのモデルは自然の生物時計を再現できるけれども、満足できるレベルではないと。私は「リプレッサーが時間をずらして働くためにはネガティブフィードバックと遅延が生物時計には必要と推察されます」と言いました。私たちのモデルはモデルとしては動くけれども、まだこの仕事からは何もわかっていませんでした。

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 私たちはいつかの新しいデータをモデルに加えるまで何もわかりませんでした。もしこのモデルが正しければ、コンポーネントの一つを取り去っただけで、全体のフィードバックが停止するでしょう。ループが完成しなければ時計は停止するはずです。そこで、このデータです。これはLHYとCCA1を両方欠いた二重変異体におけるルシフェラーゼレポーターのデータです。短い周期で18時間程度になっていますが、明らかにリズムを刻んでいます。ということは、先ほどのモデルは不完全ということです。シングルループモデルは十分ではありません。LHY/CCA1なしでも時間を刻む何かがなければなりません。私たちは気づきました! 実験から最善の考えを取り入れて、さらにデータを取り入れた新しいモデルを作る必要があります。それは多くの進歩をもたらすでしょう。

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 私たちは2005年の最初のモデルをJamesの2010-2011年モデルに発展させました。このモデルは現在非常にずっと複雑ですが、少し簡素化してお話をします。2010年のモデルはまだネガティブフィードバックの中にLHYとCCA1がTOC1を抑制し、TOC1がLHYを活性化する過程が含まれています。実験的に示された多くの他の遺伝子セットが振動子の一部として加えられました。それが大きな改良点です。

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 しかし、このモデルはまだ多くのデータを説明していません。特にTOC1を制御する2つの遺伝子についてのデータです。ZTLはTOC1タンパク質を分解します。そして、PRR7とPRR9についてもです。2010年のモデルでは、これらについて説明することができませんでした。2010年のモデルでは他の多くのデータを説明できたのですが、私たちのモデルはまだ何かを欠いていたのです。そして、私たちは多くの考えを廻らせました。そして、「TOC1はアクティベーターではないかもしれない。TOC1はリプレッサーに違いない」と思いました。実際のところ、同じファミリーの他のPRRはリプレッサーであることが知られていたからです。私たちはTOC1をリプレッサーとしてモデルを描いて、シミュレーションして新しいモデルを探しました。そのモデルからの予測が、こちらのスクリーンの下に描かれています。中央の野生株では、LHYのmRNAは朝にピークがあり、夕方には消えて、次の朝に発現が上昇してきます。toc1変異体では、LHY/CCA1の増加を確認できます。このシミュレーションでも同様です。TOC1過剰発現体ではLHY/CCA1は抑えられます。これが予測です。これは以前見せたモデルと逆の予測です。以前、TOC1変異体がLHY/CCA1を減少させると言いましたが、条件を変更するために私たちが提案したモデルでは、私たちが実験で確認する必要もあります。私たちが、実際に実験をして予測した結果を得たときには、TOC1とCCA1の曲線はちょうど夜の終わりのこの部分に出てくるでしょう。ここにCCA1を強く発現する過剰変異体があります。LHYはそれほどでもありませんが。このシンプルな実験結果は私たちのモデルが正しいことを示しています。しかし、以前のデータはマッチしていません。私たちはさらによりよく説明できるようにモデルに手を加えています。新しいモデルは私たちの以前のモデルを否定したけれども、それらはデータとよりよく適合しているように思えます。

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 いくつかの改良を得て、私たちは最新の時計モデルを構築しています。それは非常に複雑で、現時点で35個の方程式から構成されています。このモデルではTOC1はリプレッサーです。私たちの知らないうちに、スペインとアメリカの2つの研究室で同様の仮説がテストされていました。

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 今年早々、異なる実験手法でTOC1はDNAに結合する転写因子というだけではなくリプレッサーであるということを示した2つの論文が出てきました。過去のモデルがうまく動かなかったために私たちが新しく構築したモデルによって提唱された予測は2つの独立した研究室によって有効性が示されました。私が主張したい「生物システムが複雑になればなるほどモデルを使うことが有用である」という一つ目の例です。数理モデルは、予測によって試験すべき具体的な実験を提唱します。

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 私はいつもこんなふうに感触を抱いています。これらループのどれかの真ん中からスタートして、最初にスタートしたどこからでも遺伝子制御のループをもっともっと歩き回りましょう。もしあなたがこのスライドからスタートしたら、あなたはすべてのループを理解することはできないでしょう。これは重要な観点です。モデルが示していることは非常に複雑に見えますが、物事をシンプルに説明するのにモデルは有用であると言うことは同様に重要です。

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 モデルを書き留めたので、私たちは遺伝子のネットワークのすべての中で3つのリプレッサーが働いていることを簡単に見ることができます。LHY/CCA1はイブニング複合体と呼ばれる新しい遺伝子セットによって抑制されています。イブニング複合体はTOC1を含むPRR遺伝子群セットによって抑制されています。そして、PRRはLHY/CCA1によって抑制されています。そこにはネガティブフィードバックがあります。しかし、最初に私達がTOC1について誤解していたアクティベーター因子は、一つもありません。実のところ、あなたたちはこういった図を前に見ています。ElowitzとLeiblerのリプレッサーです。これは抽象的な概念図です。本当に単純化していますが、これは私達が理解できて、あなたが実験をデザインするときに簡単にモデルを使うことができますというメッセージです。
 どのように私たちの考えに変化がもたらされたかについてもう一度繰り返すと、もともとTOC1のようなイブニング遺伝子はLHY/CCA1のようなモーニング遺伝子群を活性化させると考えられていたのですが、実際にはそれらはモーニング遺伝子の抑制因子を抑制していたのです。そのコネクションはここに示されています。それは同じ信号ですが、異なるメカニズムを持っています。

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 2番目の要約です。植物の時計は多くのリズムを制御しており、30%の遺伝子は、動画で示したような器官の運動、リズミックな成長を制御しています。生物時計の歯車はネガティブフィードバック回路を形成するリズミックな遺伝子群であり、それは複雑です。一方、動物にも同じような遺伝子はあるけれど、それは生物時計以外の働きをしています。しかし、本当に同様の回路はあります。動物の生物時計の仕組みはちょうど同じくらい複雑ですが、ずっともっと複雑というわけではありません。だいたい同じくらい複雑です。私たちにはどうしてだかわかりませんが。それは私たちが理解したいことの一つです。モデルは、それによって新しい実験をデザインするための、詳細にテストすることができる予測を立ち上げます。そして、モデルはすべての分子の詳細にかかわらず、どのようにしてシステムが動いているかを理解できるように簡便な概念をもたらします。なぜ植物は時間を測定しているのでしょうか? 私たちが時計を持つことによって利点を得ているように、生物時計は植物にどのような利点をもたらしているのでしょうか? 

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 私は、これから講義の最後のパートとして、カレンダーとしての時計についてお話しします。日の長さと年周期には密接な関係があります。日の長さは1年を通して変動しているので、日の長さを通して月日を知ることができます。時計を使って日の長さを測れば、季節を知ることができます。それがキーとなるトリックです。

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 多くの作物は、光周性の情報を使っています。日の長さの情報を使って花を咲かせるタイミングを決定しています。開花の時期は収穫の時期を決定します。もちろん開花時期には他にも多くの制御機構が関わっています。作物の開花は徹底的に育種され改良されてきました。私たちはこのプロセスについてシロイヌナズナの中に作物の生理現象の一部を見ることができます。実験室内での冬条件では開花は遅くなり、夏条件では開花は促進されます。ここでの私たちのチャレンジはその開花時期を決定する仕組みがどのようなものかを理解することです。どのようにして日の長さを測定して、その変化に対して植物はどのように行動しているのでしょうか?

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 ここに、最も成功した作物モデルを示します。小麦の成長に関する大量のモデルからのモデルの非常に簡単なアウトプットをお見せします。x軸は観察された開花時期で、y軸はモデルからの予測です。モデルがフランス国内のいくつかの場所を通しての多種多様な小麦が2年間の収穫データが予測と美しくマッチしていることがよくわかります。これらのモデルはとても上手く出来ていて、農家がどの品種を植え付けるかを決めることができるようになります。

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 モデルで開花時期を決定することはとても複雑です。緑のラインはモデルです。シロイヌナズナでは、日長が短い短日条件では開花が遅延します。日長が長いときには開花が早くなります。直線とデータは一致しています。下の線は分子メカニズムです。作物科学のモデルを作るためにシロイヌナズナが使われました。私たちが現在理解している分子メカニズムは、シロイヌナズナで明らかにされました。これは2番目の概念です。ネガティブフィードバックより1段階複雑です。最初のfloweringと時計を融合したモデルは1930年代にErwin Bunningによって作られました。彼は豆のフィールドについて夢を見て、夢から覚める時にこのアイディアを思いつきました。それはとても生産的な夜の睡眠でした。アイディアは簡単です。時計からの出力因子があります。ここではCOを時計の出力とします。そのCOの出力ピークはSDでは日没後です。SDはshort day(短日条件)です。SDでは光が灯っているときには、COは常に不活性です。とても低いレベルのままです。一方、長日条件では日長は長く、日没は遅くなりCOがピークになった後に日暮れが訪れます。つまり、植物はCOからのタイミングと光の2つの情報を統合しています。長日では光はCOのタイミングと一緒になったとき、そのシグナルが開花促進因子FT遺伝子を誘導するのに利用されます。長日条件では、光はCOと一緒に花を咲かせます。短日条件ではCOは光が灯っている間には出現せず、そのピークは短い日照時間帯には観察されません。したがって、開花を誘導する遺伝子FTの発現は低く、なかなか花が咲きません。George Couplandの研究室や世界中のいくつかのグループが一つのキーとなる遺伝子を見つけました。これがcoの変異体です。この変異体は光条件によって開花の時期を変更できません。光と時間を組み合わせる能力を失っているので、この変異体はいつも遅咲きです。

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 私達は同じプロセスを見てきました。これは、データを使って、モデルを構築し、モデルを改良する2番目の例です。モデルは、時計を出発点として、時計の出力COをコントロールする部分を持っています。光シグナルは時計の出力と融合して、開花促進遺伝子を活性化させます。これが最初のモデルです。2番目の部分はその時計回路の中にあります。開花の出力系の代理として夕方遺伝子TOC1を例にしましょう。およそちょうどいい時間にピークがあります。このモデルは2009年の論文に書かれています。

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 基本的に次の2つのスライドは、私たちが生物時計を作ったのと同じような方法で、どのようにしてモデルを作ったかについてです。これの詳細について覚える必要はありません。次の絵は、どのようにしてシステムが組織されているかを示しています。ここでは、時計からの出力であるCOのRNAを示しています。短日条件と長日条件の時のCOです。FT遺伝子の発現は短日条件のデータでは低く、ダイヤモンドで示された長日条件のデータでは高いです。それはとても簡単にシミュレーションできます。私は、さっきのスライドで、花の咲かせるのにはCOと光が必要と説明しました。COが低いと花が咲かず、日中に時計からの出力のレベルが高いと花が咲きます。このモデルは、データセットがお互いに適合しているよりも、さらによくデータセットと一致しています。これよりも単純でうまく動くより良いモデルを作ることはできないでしょう。

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 それでは、開花のモデルを生物時計のモデルとつなげてみましょう。興味深いことに、短日から長日に変更した時には時計のピークの時間がずれます。そこで、日の長さを伸ばしていったときのモデルを作る必要があります。ここに時計出力系のスムーズなシミュレーションがあります。それは、ちょうどいいところにピークがありますがデータの中にあるコブのような盛り上がりがありません。データはスムーズなカーブではありません。1日の終わりにはコブがあります。これはCOのモデルにはなりません。1日のうちに2つのコブを作るのは生物時計のメカニズムではありません。一つはここ、もう一つはこちらに。COのシミュレーションは、fkf1と呼ばれる変異体からの、ここに*印で示したデータにもっと似ています。私たちのデータは野生株のデータよりもfkf1変異体のものにフィットしているのです。fkf1変異体では、COの量が減少して、開花が遅くなることが知られています。光シグナルとの同調が減少し、COが減少するのです。そして、FTは減少し、遅咲きになります。

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 私たちのモデルは、期待していたようにデータと一致しなかったので、そのモデルに何らかの問題を抱えていると予想しました。短日条件では私たちのモデルは大丈夫です。ここにFTのデータとモデルからの予測があります。実際、短日条件下のFTの量は低く、長日条件の1/4の値しかありません。これは以前に示した出力のモデルです。私はこのモデルをどのくらいFT RNAがあるのかを予測するために用いました。長日条件下でのFT RNAの量は、実際の野生株のデータよりも少なく見積もりました。私たちは短日条件下ではFT RNA量が少ないことを期待したし、実際少なくなりましたが、それでもまだ問題を抱えていました。その差は想像よりも大きくはありませんでした。変異体では、長日条件下ではこのくらいの量のFT RNAができるはずでした。fkf1変異体植物では、私たちの予測ではFT RNAが40%減少するのですが、実際の植物では95%減少していました。モデルでは、この変異体のCOの量はもっとFTができるはずと示していました。モデルは野生株の多くのデータセットとは一致していましたが、fkf1変異体では一致していませんでした。それは全然違うものでした。私たちの予測とは違い、fkf1ではもっとFTが減少するはずでした。FKF1はCOに何らかの機能を持っています、それはほとんど肩の曲線を作りません。COの下流の何かに働いています。fkf1変異体は光条件でCOを作ります。FTはこのくらいの量しか作らないので、開花を成し遂げません。

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 FKF1はCO遺伝子の出力に影響を与えているけれども、下流でも何かをしているに違いありません。よし!そのモデルを作りましょう。これがそのモデルです。肩の部分を持っていて、野生株でFTの量に完全に適合しています。Ok。生物時計の変異体で失われた遺伝子でも確認しました。それは、COとほぼ同時間に発現し、光条件下で機能しています。私たちはその特徴をモデルに取り込みました。これがモデルから得られたことです。

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 現在のモデルは変異体のデータと一致しているでしょうか?ここに変異体でのシミュレーションの結果を示します。それには肩の部分はなく、変異体でのFT遺伝子の発現データと一致しています。この図はFKF1遺伝子について2つのことを示しています。FKF1は時計出力CO RNAの肩の部分を作り出します。そして、CO RNAの量と関係のない部分でも下流遺伝子でも何か機能を持っていて、FTタンパク質を作り出すことができません。これは全く知られていないメカニズムです。予測から、このようなことが推測されているけれども、実際にどのようにして機能しているのかについてはわかっていません。

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 非常に幸運なことに、私たちが最初のモデルで使ったデータにとても影響を受けたアメリカの研究者が、彼の研究室で彼の最初の研究費で最初のポスドクを使って、そのメカニズムを見つけてくれました。モデルなしでは、彼はFKF1の2つのメカニズムに気づかなかったでしょう。その結果を示した論文があります。とても複雑な因子FKFはCOタンパク質を安定させています。

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 詳細はもっと複雑ですが、モデルは構築されました。2つのメカニズムがあります。FKF1はCOタンパク質に正の調節をし、COとFT RNAの両方に影響を与える抑制因子に負の制御をしています。これは驚きです。私たちはモデルで効果を見つけることを予測していましたが、2つもあったとは驚きです。それを予測する手立ては他にはありませんでした。モデルは有益でした。なぜなら変異体モデルのバージョンで2つの機構両方が作動する必要があることを示したからです。その変異体については、その影響を破壊するような変異体を遺伝学的に作り出すことはできませんでした。十分に分からなかったで、効果を分離する方法も全然ありませんでした。これは野生株の予測に対してのFT量です。fkf1変異体ではFTは低く、もし2つもメカニズムのどちらかを欠いていれば、FT RNAの量は少ないのです。これらメカニズムの両方は植物体内で動作しており、多くの異なるシナリオに対しても当てはまると言えます。

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 最後の要約です。植物は日の長さを測るために外的符合 (external coincidence )メカニズムを用いています。Bunningの夢は有益な夜でした。回路は複雑です。このケースでは私たちはなぜこういった回路ができたのかは理解できていません。時計について、私たちは幾つかのアイディアを持っています。動物のシステムもおよそ特徴が明らかにされていません。季節性繁殖は羊や鶏、養殖された鮭において非常に重要です。しかし、そのベースにある分子機構は植物のシステムと同様にはあまり理解されていません。他の生物でも実験を導くためにモデルは手助けとなるでしょう。私たちは現在マウスの研究室とともに、脳下垂体におけるチロキシンの制御がどのようにして動物の繁殖を調節しているかについて理解しようと挑戦しています。私は、最後にまさにどのようにそれが使われているかを示す1枚のスライドを見せたいと思います。今、私たちは分子回路と開花時期の制御を理解したのです。

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 私はこれが作物モデルに重要であると言いました。

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 Karen Halliday の研究室でROBuSTプロジェクトに従事している学生Yin-Hoonは、私たちの小さな時計と光周性経路を植物科学の他の部分を含むフレームワークモデルに組み込みました。光合成や成長している植物の葉の構造を含むモデルです。このモデルは、ただ単にはや枝分かれを示すLシステムと異なり、成長に必要な炭素と光合成を通しての炭素固定をきっかけとして、コンピュータ上で目に見えるように植物を成長させます。それは入手可能な炭素量に基づいて成長します。私たちは同じモデルの一部である時計を用いて調節する方法で調べています。

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 私は、モデルの手法を次の20年、今から2030年の間に取り入れていくべきであると思っています。生物多様性の利用、ゴミの削減、よりよい農業、それらの全ては非常に重要です。次の20年、植物を理解することで穀物収穫量を増加させることができると思っています。光合成や植物の発生といった各々の断片としてではなく、光合成や発生、そして生物時計のような生命現象を融合したシステムとして、植物を理解することで。生物時計は有益です。なぜならは、それは生物学の興味深い一面であり、ヒトの時計を部分的に理解しています。私はそう思っています。時計は、複雑な生命現象を理解するための新しい手法を開発するのにとても有益なモデル系です。新しい方法が、収穫量を増産させなければならない次の40年に必要である様々な系の全てに適用可能であるべきなのです。

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 私はそう考えています。願わくば、今日聴いてくださった皆さんが、そういった仕事に興味を持っていただいてくれればと楽しみにしています。ご静聴ありがとうございました。

Abbreviations

TOC1- Timing of CAB expression
CO – Clock output/ Constans
FT - Flowering time/Flowering Locus T
PRRs - Pseudo-response regulators
FKF – Filthy complicating factor/Flavin-Binding, Kelch repeat/F-BOX protein
CCA1 – Circadian clock associated gene 1 (CCA1)

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