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Rhizobium rhizogenes 毛状根形質転換法

ここでは、Rhizobium rhizogenesを用いた毛状根形質転換法を紹介します。

Rhizobium rhizogenesは、通常の植物形質転換法でよく用いられるRhizobium radiobactor (旧名:Agrobacterium tumefaciens)と異なり、カルスではなく毛状根を誘導する。この菌を用いた形質転換法では、遺伝子を導入した形質転換体を個体として単離・維持することは難しいが、遺伝子導入時可能な植物種の宿主レンジが広い、根の形態を直接観察できるといった利点がある。

N. benthamianaに感染させた例

Rhizobium rhizogenesは、
Ri (root-inducing) plasmidをもち、植物から不定根をつくらせる(毛状根病を引き起こす)
遺伝子導入可能な植物種の宿主レンジが広い。
遺伝子導入した個体で根の形質を直接観察可能。
ただし、毛状根から形質転換体の個体を得ることは難しい。

Rhizobium radiobactor (旧名:Agrobacterium tumefaciens)は、
Ti (tumor-inducing) plasmidをもち、植物細胞をカルス(腫瘍)化させる。
双子葉植物、いくつかの単子葉植物(イネ)へ遺伝子導入可能だが、植物種が限定される。
カルスから植物体を再分化させることによって形質転換体を得ることが可能。

私たちは以下の文献の方法を参考に簡略化して、さまざまな植物種に形質転換を行なっています。

Sharafi, A., Sohi, H.H., Mousavi, A. et al. A reliable and efficient protocol for inducing hairy roots in Papaver bracteatum. Plant Cell Tiss Organ Cult 113, 1–9 (2013).
https://doi.org/10.1007/s11240-012-0246-2

Valimehr, S., Sanjarian, F., sohi, H.H. et al. A reliable and efficient protocol for inducing genetically transformed roots in medicinal plant Nepeta pogonosperma. Physiol Mol Biol Plants 20, 351–356 (2014). 
https://doi.org/10.1007/s12298-014-0235-5

Daspute, AA., Yunxuan, X., Gu, M., et al. Agrobacterium rhizogenes-mediated hairy roots transformation as a tool for exploring aluminum-responsive genes function. FUTURE SCIENCE OAVOL. 5, Published online (2019).
https://doi.org/10.4155/fsoa-2018-0065

Materials
1)    Rhizoboium rhizogenes strain (いくつかの系統がある。私たちは、主に千葉大の三位先生らのグループにより単離された国内株A13株を使用している。海外株の利用には植物防疫の許可が必要)
2)    YEB固体培地プレート(LBでも可)
3)    YEB 液体培地(LBでも可)
4)    次亜塩素酸ナトリウム
5)    70% エタノール
6)    滅菌水
7)    200 mg/ml cefotaximeストック溶液
8)    1M acetosyringone ストック溶液
9)    10 mg/ml meropenome ストック溶液
10)  Murashige and Skoog植物培地塩類
11)  1000x Murashige and Skoogビタミン溶液
12)  Sucrose

Procedure

A. Rhizobium rhizogenesへの遺伝子導入
通常のAgrobacteriumへの遺伝子導入と同様にエレクトロポレーション法で行う。

抗生物質耐性はRhizoboium rhizogenesのstrainによって異なる。
例)A13株はRif/Str、AR1193株はRif/Carb、AR12株はRif/Km耐性。

Wen jun, S. and Forde, B. Efficient transformation of Agrobacterium spp. by high voltage electroporation. Nucleic Acids Research 17: 20 8385. (1989)
https://doi.org/10.1093/nar/17.20.8385


B. 毛状根形質転換

a. 種子の滅菌と植物体の準備

  1. 種子をEtOHで洗浄し、0.5-5% 次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えて5分間振盪し、滅菌する。

  2. 滅菌水で2-5回洗浄してMS-1%Sucrose 0.9 % Agar plateに種子を広げる。

  3. プレートを2-3日間暗所4℃で保管したのち、培養室で発芽させる。

*植物種によって次亜塩素酸ナトリウムの濃度や処理時間は調節する。
TritonやTweenなどの界面活性剤を0.01-0.1%程度入れておいた方が良い。
植物種によっては種子の表面をやすりがけする、濃硫酸で処理するなどの操作が必要な場合もある。
また、冷蔵保存による春化処理など、休眠打破が必要なものもある。

b. Rhizobium rhizogenesの準備

  1. 遺伝子を導入したRhizobium rhizogenesを抗生物質入りのYEBあるいはLB plate上で28℃、2-3日培養する。

  2. コロニーをpick upして2 mLのYEBあるいはLB液体培地で培養する(28ºC, 160 rpm, 14-20 hrs)

  3. 100 µL のcultureを5 mLのAcetosyringone入り(final 100 µM)YEBあるいはLB液体培地に移植して培養する(28ºC, 160 rpm, 14-20 hrs)

  4. 3000 x g, 10 min, RTで集菌する。

  5. MS-1% Suc溶液で洗浄する。

  6. 集菌した菌を5 mL MS-1% Suc溶液に懸濁する。

c. Rhizobium rhizogenesによる植物の形質転換

  1. 植物切片を切り出して、MS-1% Suc懸濁液に15minから30 min浸す(切り出す際には地下部は含まないようにする)

  2. 滅菌水でリンスしてペーパータオル上で少し乾かす(省略可)

  3. MS-1% Suc, 100 µM Acetosyringone plate上で2-3日間培養・栽培し、感染させる(暗所で22-25℃)

  4. 2-3日後、植物をpick upして滅菌水でリンスする。

  5. MS-1% Suc(cefotaxime, meropenome入り)培地に移植し、通常の植物栽培条件で栽培する。

  6. 1-2日後、plateを立てて栽培する。

*タバコなどの場合には葉に感染させても毛状根が出てくるが、他の植物種で葉から毛状根が形成させることは難しいのでseedling切片を使う。
Seedlingに感染させる場合にはアルミ箔でプレートを包み、etiolateさせたのち、胚軸を切断して切り口に感染させる。

*出てくる毛状根には、形質転換されたものとされていないものがあるので、導入遺伝子をクローニングしたplasmidには35S:GFPなどの蛍光タンパク質をマーカーとして載せておいた方がよい。rhizogenesのコンタミネーションと区別するために、蛍光タンパク質をコードする遺伝子はイントロン入りの方がよい。


(例)F. vesca(野生イチゴ)での毛状根形質転換

発芽した苗を1週間暗処理して切りやすいように胚軸を伸長させる。

ナイフで胚軸をカットして植物切片を調製する。

rhizogenes懸濁液につける。

Acetosyringone入りのMS-1% Sucrose Agar plate上で2-3日間共培養する。

共培養した苗

水でリンスする

除菌してMS-1% Suc(cefotaxime, meropenome入り)培地に移植する。

2-3週間栽培すると、形質転換された毛状根が現れる。
このケースでは35S::GFPを導入している。

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