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視座を移してみる

『辺境から眺める』テッサ・モーリス=鈴木 著 / みすず書房2000年第1刷発行

イギリス生まれで専攻は日本経済史、思想史で、この本の時期はオーストラリア国立大学教授であった著者によるハードカバー本。みすず書房らしい読み応えのある一冊だ。

帯の一文から紹介すると、日本とロシアはアイヌなどの先住民族をどのように国家に組み込んできたのかーーとある。

この短い文章の中だけでも、我々にさまざまな問題提起がなされていることに気づく。

ここでは日本とロシアは同列、すなわち大国として「辺境」の土地や民族を支配、包摂する側であったということ。「アイヌなど」とあるように、北方の島々にはアイヌ以外の民族もいてそれらが確かに先住していたこと。そして、国家に組み込んできたという、決して学校の歴史では教えられない歴史があったということ。

現代では、例えば北方領土(四島といい変えても同じこと)は日本かロシアかという「帰属問題」が言われて久しいが、歴史を紐解けばそのどちらでもなく、そこに住んでいた北方の民族が先住民である。彼らにしてみれば、日本もロシアも後から来た侵略者でしかない。

本書では、そういった辺境(ここでは北方の島々であり支配されたアイヌなどの側)に視座を移して歴史を見るという作業を行っているものである。その事によって、ステレオタイプ的な固定した見方から脱却し、何が本質的なことで重要なのか見極めて行く必要性が求められるのである。

まずは、本書を読めば、この国がアイヌの土地で何を行ってきたのかを知ることが出来るし、またどのような歴史が形作られてきたのかを知ることが出来るだろう。そしてそこから読み手の思考が永続的に始まることになる。

ちなみに本書は訳本(大川正彦)だけれど優れていると思われ、読みにくさは全くない。

大国の理論が強大になり支配的になっている現代こそ、その危うさと傲慢さに自覚的になり謙虚になるためにも、休日にでも本書のような本をじっくり読むことをおすすめしたい。

また同時に、同じような視座を持つ本として、網野善彦や小熊英二の書籍もおすすめしたい。

どうやら新装版が出ているようです。


網野善彦 / 「日本」とは何か

小熊英二 / 民主と愛国


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