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「指導と評価の一体化」のためのテストのありかたについて  ~ 中間テストを休止し、単元テストを実施して見えてきたこと ~                                 大泉 志保   岡部 雄紀


1.「単元テスト」実施のきっかけ

 令和2年度の学校生活は休校で始まり、それは6月まで続いた。学習の遅れを取り戻すために学習課題を生徒にいかに提供するかという議論が全国の学校で沸き起こった。一般的だったのが授業動画を撮影し、その動画を配信するというものであったが、学習塾がすでに配信しているもののほうがとても精選された内容であったりして、学校が作成する授業動画はその労力の割には効果的とは言えないこともあった。
 そんな中、授業動画ではなく、どうやって自分で学習をすすめたらよいかという、いわゆる「学習プラン」をうまく動画にして学校ホームページ上に掲載していた教師もいた。そういう教師はふだんの授業から「学習プラン」を生徒に示し、講義一辺倒の授業ではなく、生徒がその授業で何をすべきかを自ら考え、生徒同士で話し合いながらすすめていく授業を展開していた。
 毎時間の学習の道筋を「学習プラン」で示すだけでなく、単元のはじめの時間に「単元プラン」を示し、その単元の終わりにはどういう力をつけてほしいかを明確に示しておくと、生徒は学習の見通しや目標が立てやすくなる。単元の終わりにはあらかじめ示してあった目標にどれだけ到達しているかを確認するために「単元テスト」を実施することで、生徒も自分の学びを単元ごとに振り返ることができる。
 私たちは、授業改善の鍵となるのは「単元プラン」を作成し、それをきちんと生徒に示すことだと考えた。バックワードデザインで授業を作ることが授業改善の第一歩である。そしてそれこそが「指導と評価の一体化」につながっていくのではないだろうか。
 実際、ふだんからそういう授業を展開している教師に、「定期テストがなくても成績をつけることができるか」と尋ねると、「『単元プラン』の中に観点ごとの評価規準があるのでまったく問題はない」という答えが返ってきた。だとすれば、どの中学校でも昔から行われてきた定期テストがなくても、「単元プラン」と「単元テスト」で授業改善がすすむのと同時に、「指導と評価の一体化」がはかられるのではないかと考えることができる。
 しかし、全国的に広がっている「定期テストを廃止した中学校」が、一体どんな理由でそういう決断に至ったのかを調べてみると「生徒にとっても教師にとっても、定期テストが通知票のためのものになってしまっていた。子どもたちの学ぶ意欲を引き出すのに、本当に役立っているのか疑問があった(東京都中学校校長)」という言葉に代表されるように、定期テスト廃止の主たる理由として定期テストがもたらす問題点をあげている学校がほとんどであった。定期テストよりも「単元プラン」と一体で行われる「単元テスト」へ移行するほうが、授業改善につながるのではないかというその有効性に着目した考え方が先行しているわけではなかった。
 そこで、令和3年度、本校では1学期の中間テストのみ「中止」して、その期間に「単元テスト」を実施し、従来どおり実施する期末テストと比較し検証をしてみることにした。定期テストに問題があると考えて「廃止」するのではなく、「単元テスト」の有効性がどのくらいあるのかを探ってみたいと考えた。

2.「単元テスト」からバックワードデザインでの授業づくり

 令和3年度がスタートし、計画してきたとおり1学期の中間テストを中止してそれぞれの教科のタイミングで「単元テスト」を行うことにした。一番早い教科では4月30日の6限に実施することを発表し、新年度がスタートするとすぐに学年の廊下に告知文を貼りだした。これまでであれば定期テストの2週間前に全教科のテスト範囲一覧表を配布して告知していたが、それが難しくなるために、告知のタイミングは各教科に委ねた。ただし全ての教科担当者ができるだけ早くテストの範囲と内容を発表することを目標にした。バックワードデザインで授業を組み立てることが「単元テスト」を実施する目的の一つだったからである。
 以下は最初に実施した3年生社会科「単元テスト」の告知文である。

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 授業者は学校全体にこの告知をすると同時に、授業のはじめに次のような「単元プラン」を生徒に提示している。

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 この場合は、教科の授業時間内で「単元テスト」を実施するのではなく、全クラス共通のテスト時間を設け、他教科(理科)のテストと抱き合わせにして実施した。しかし、共通のテスト日を設定して実施するとなると、単元の終わりを全クラスでできるだけそろえなくてはならないことや、総合や学活の時間にテストの時間を割り当てざるを得ないという問題がある。逆に、各教科の授業の時間内でそれぞれ実施するとなると、他クラスへの問題の流出が当然起こりうる。
 さらに、再テストチャレンジについてもいろいろな意見があがった。再テストの結果をどう成績に反映させるのかという公平性の問題である。これについては、再テスト用にアレンジしたものを準備しておくようにしたが、生徒自身がテストの結果をふまえて、もう一度チャレンジをしようとすることが、まさに「学びに向かう力」として評価できるのではないかと考えることにした。
 要するに、この単元でどんな力をつけたいかによって、その実施方法、内容、再テストの有無については一律にすべきでないということである。実際、この教員も次の単元の終わりには、実施方法を変え、今回は再テストをしないというルールで以下のような「単元テスト」を実施している。

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 この単元ではどうしても生徒に覚えさせたい歴史用語などがたくさんあり、授業者はそれをテストでおさえたかったという意図がうかがえる。この単元では「知識・技能」の習得をめざした学習内容が多かったことと、「思考・判断・表現」については授業時間内の課題でじゅうぶん評価できていたということである。さらに、授業で学んだ内容を、時間をあけずにタイムリーに確認させたいという理由で、クラスごとに授業時間内で実施した。前回と違い再テストは実施していない。他クラスへの問題の流出を防ぐための工夫もうかがえる。
 同様に、他教科においても4月末~6月はじめにかけて様々な形態・内容で「単元テスト」を実施し、6月28日からは例年通り期末テストを一斉に実施した。

3.「単元テスト」の効果と課題

 授業改善および指導と評価の一体化をはかるために、「単元テスト」と期末テストを1学期の間に両方実施することができた。期末テストが終わった時点で、教職員と生徒にアンケートを実施した。教職員向けのアンケートでは、学習の定着への有効性と授業者の授業改善への意識について聞いた。

① 「単元テスト」(再テストも含む)は、学習内容の定着に有効だ。(1つ選んでください。)
A そう思う         … 15.8%
B どちらかといえばそう思う … 52.6%
C どちらともいえない    … 26.3%
D あまりそう思わない …  5.3%
E そう思わない  …  0%

② 「単元テスト」を活用して授業改善に努めた。
(1つ選んでください。)
A そう思う … 21.1%
B どちらかといえばそう思う … 36.8%
C どちらともいえない … 36.8%
D あまりそう思わない …  5.3%
E そう思わない …  0%

「単元テスト」の意義について、前年度から校内で議論をし、研修を重ねていたこともあって、「単元テスト」の設定からバックワードデザインによる授業づくりを意識した授業者が多く、授業改善につとめようという意識が強くなったと思われる。ただ、生徒がテストに取り組む様子を見ていて、授業者からは次のような意見もあがった。

授業者の意見
・「単元テスト」と期末テストをやってみて期末テストの方がこどもたちの意気込みがちがった。また定期テスト前は部活動がなくなることで生徒も勉強をしないといけないという気持ちになっていた。高校でも定期テストはあるのでその流れを続けるほうがいいのではないか。
・生徒は常にいろいろな「単元テスト」に追われているような気がするので、集中して取り組めていないのではないかと心配になった。
・クラブ活動もある中で、計画的に学習するのは、難しい。「単元テスト」の再テストとクラブが重なって、再テストをあきらめた生徒がいた。
・高校のことも考えると、定期テストのテスト週間やテストだけの日というのは意味があると思う。
・受験時に100点で計算されるので、受験を見越して、定期テスト、実力テスト5教科でどれくらい取れるのかを知るのに、いい手段だと思う。子供の負担を考えて、勉強が苦手な子にとっては単元テストの方がいいと思う。
・1週間に何教科もの「単元テスト」があり、毎週単元テストや再テストがあるとなると生徒も疲れていたように思う。家庭学習の習慣がつけられるという意味では慣れれば大丈夫なものなのか、果たしてそれが力になっているのかと考えている。
・「単元テスト」は必要だと思うが再テストは先生の負担が大きすぎるし、学活などでするのではなくあくまでも授業中の小テストの感覚になればいいと思う。不登校生には「単元テスト」の存在はありがたいので成績をつけるまではいつでも受けてもいいという形をつくるべきだ。
・「単元テスト」の回数が多くなってくると、緊張感にダレがみられ、取り組みが浅くなっている生徒がちらほら見られる。が、期末は保護者も理解があり、家での声かけもあるので、息を吹き返しているように感じる。
・※学習が苦手な生徒にとって毎週のようにテストがある学校生活はしんどいかもしれない。また、常にテスト勉強している(学習機会を増やすのが目的なのでそれはそれで良いのかもしれないが)ので、「テストが終わって、さあ体育大会!」というような学校生活のメリハリみたいなものはなくなってしまうように思う。また、私自身は生徒がどれくらいの間隔でテストを抱えているのか把握できておらず、どんなスケジュールで生徒が学習を進めているのか見えにくかった。

 生徒にもアンケートをとった。上記の授業者側の感覚では成績上位者と下位者で「単元テスト」と「定期テスト」のとらえ方に相関性があるのではないか(上記※の意見)という仮説もあげられていたのでその視点で分析してみた。中学生になり初めて定期テストを経験した1年生で検証するのは難しいので、定期テストに向けての準備のしかたが身についている3年生のデータを分析した。その結果が以下のとおりである。

※「成績上位層:25%」、「成績中間層:50%」、「成績下位層:25%」で分類。
※ 評定平均の高い生徒から順番に並べ替えた結果、
・成績上位層 → 評定平均4.0以上(26人)
・成績中間層 → 評定平均2.4~3.9(55人)
・成績下位層 → 評定平均2.3以下(26人)

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 授業者の感覚として、学習が苦手(成績中間層・下位層)な生徒にとっては、定期テストよりも「単元テスト」のほうが学習しやすいのではないかという意見と、逆に毎週のようにテストがあることを苦痛に思うのではないか、という両方の意見があった。しかし、実際に生徒の声を聞いてみると、「単元テスト」の実施もしくは「単元テスト」と定期テストの両方を実施することについては、定期テストに慣れている3年生でさえ、成績中間層・下位層の生徒にはそれほど抵抗がないようである。定期テスト対策の学習法を自分なりに体得していると思われる成績上位の3年生は、定期テストだけの実施をのぞむ声が多いことがわかった。

4.まとめ

 「単元テスト」と定期テストはその長所と短所とが相反する点が多い。たとえば指導と評価の一体化という点で言えば、「単元テスト」からバックワードデザインで授業を組み立てることは、まさに指導と評価の一体化をはかることであるが、定期テストは一般的に評価のウェイトが非常に大きく設定されていることが多く、指導と評価が乖離してしまうことが大いにあり得る。極端に言えば、授業者はどんなにひどい授業を行っていたとしても、100点満点の定期テストを学期に2回行えばそれだけでじゅうぶん成績をつけることは可能なのである。だからといって定期テストを廃止し、「単元テスト」に移行することが本当に最善の方法だろうか。
 生徒の視点に立ってみると、学校生活のメリハリという点では、定期テストが大きな役割を果たしていることは否めない。部活動を休止にする期間でもあり、各自が気持ちを切り替えて目標や学習計画を立てるということに意味がある。体育祭や校外学習といった生徒にとって楽しい行事を年間計画の中に位置づけるのにも定期テストがポイントになる。
 教師の働き方改革の視点にたっても、定期テストがあるほうが有効である。中学校の教員にとって部活動指導が一旦休止となるテスト一週間前は、できるだけ定時退勤をめざして教育活動に専念できる。授業時数確保の観点から定期テストを一日で行う学校も増えているが、複数日で実施することで、午後には生徒を下校させ、働き方にゆとりを持たせることもできる。
 本校の試行では、中間テストを休止して「単元テスト」に移行してみたということもあって、ほとんどの授業者があくまでも「テスト」という形式にこだわっていた。中間テストの実施日時を分散させただけだったと言ってもよい。このような形で「単元テスト」と定期テストを同時に行うと、生徒の負担が大きく、テストに対するアレルギーを増幅させてしまう。ではどうすればよいか。
 単元の終わりの確認は、別に「テスト」と呼ばれるものでなくてもよく、いろいろなまとめの方法があってよいのではないか。単元のまとめを班ごとにプレゼンテーションで発表させるとか、課題の提出であってもよいはずである。そして授業者はそこからバックワードデザインで授業を組み立て、指導と評価の一体化をはかればよい。そうすればそれと並行して、定期テストを行っても生徒にとって負担にはならないだろう。
 要するに、定期テストをなくせば学習効果があがるというような単純なものではないのである。定期テストという形をとるか廃止するかは学校の年間カリキュラムの考え方によるだろう。
 定期テストの実施、廃止にかかわらず、授業者は「単元プラン」を作成し、その単元で生徒につけたい力をはっきりと示す。生徒はその「単元プラン」に基づき、計画的に学習に取り組む力をつける。そして日々の授業や単元の終わりに、自分がどれだけ主体的に学習に取り組むことができたかを振り返る。その振り返りを授業者は次の単元の授業づくりに生かす。このような流れによって、指導と評価の一体化がはかられ、授業改善がすすみ、効果的な評価が行われることになるだろう。

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