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なぜ、元女子アナが「性」に関する発信をするのか。

今年4月から新しいラジオ番組を担当しています。

この番組は「大人の性の教養番組」を謳い、日本における性やジェンダーの問題・話題を、女性の視点で取り上げつつ、ラジオらしく、時に真面目に、時に楽しく、オープンに性の話ができる場所を目指しています。

番組に合わせて、自分の性体験やエロティックな写真を投稿しているので、局アナ時代を知っている知人やリスナーの方から「八木ちゃんはセクシー系になったの?」などと質問されることもあります。

元アナウンサーという肩書きにより「精錬潔白」なイメージ(私自身の普段の発信を知っている人はそんなことはないと思いますが…)を持っていた方、そのイメージに固執するに方とっては、性に関する興味や関心をオープンにし、実際の性体験についても語る私に、抵抗や嫌悪感もあったようです。

数年来のラジオリスナーさん数人から「八木ちゃんは応援したいけど、八木ちゃんから性の話は聞きたくない」と言われたこともありました。

さらには、番組やSNSを通じて私を知った一部の人たちから、本質とズレた批判や意図しないセクハラ、冷やかしのコメント・メッセージをいただくことも増えました。

そこで、なぜ私が「性」に関する発信をするようになったのかを、一度整理してお話したいなと思い、この記事を書いています。


「性」への関心を閉じ込めたまま大人になった人間の苦悩

きっかけは、物心つく前に見たテレビドラマや映画のラブシーンだったでしょうか。幼少期からそれなりに、人並みに、「性」に関する事柄に興味があったと思います。

しかし、同世代の家庭の多くがそうであったように、性に関する情報から子供を遠ざける家でした。団らんタイムに濡れ場が放送されれば、「あら〜」と言いいながら母親が私の目を手で覆い、一瞬気まずい空気が流れた後に「何にもなかった」ことになる。

だから、なんとなく、男女の交わり(ということもよくわかっていなかったけど)は「触れてはいけないもの」なんだと思っていました。

実際、中学生ぐらいまでは、少女漫画でしか恋愛や性に関する知識に触れる機会がなく、ふいに漫画や映画などで性的なシーンを見てしまったあと、なんとも言えない疼きと共に、罪悪感を感じていました。

私が10代の頃に受けた性教育は、保健体育の授業の中で、男女の体の違いを教えることに重点を置いていましたし、恥ずかしながら「子供を作る方法」と「セックス」がイコールになったのは、高校生になってからだと思います。
中学生までは男女が裸でイチャイチャするのは、大人のイケナイ遊びなんだと思っていて、どこがどうなっているのかさっぱりわかっていませんでした(笑)ファンタジー。

恋愛や性に関する知識の乏しさ、そして、思春期に拗らせた顔と体型へのコンプレックスもあって、恋愛への積極性が薄く(興味はすっごくあったけど)、10代の頃は恋愛やセックスの情報から距離を置いて過ごしていました。同級生の恋愛話もどこか他人事のように感じていました。

19歳で大学進学のため上京してからは、親元を離れた開放感もあって、人並みに恋愛経験を積みたいと思うようになり、何人か交際もしました。

ただ「性については触れてはいけない」という思いは根強くて、セックスや避妊について知るべきことを知らず、初体験も相手の言われるがまま。

セックスというのは男性の要求に従うことであり、女性は痛みや違和感に耐えながら、男性が快楽を得る行為なんだと、なんとなく思っていました。

セックスについての正解を知りたくて、参考にしたのはAVのサンプル動画やエロ漫画。どれも男性が主体で、男性が行為を激しくすればするほど女性が悲鳴を上げるぐらいに気持ち良さそうにしている。これは作り物なんだと理解しながらも、カップルにとっての最高の「セックス」とは、もしかしたらコレなのかもという意識もありました。

みんなどういうセックスをしているかわからない。友人には恥ずかしくて相談できない。ましてやパートナーに聞くなんてできない。

「セックスは男性の指示に従うもの」という認識のまま30歳を超えていました。

だからこそ起こった、33歳での精神を病むほどの辛い経験。
セックスと恋愛により、心と体が大きく傷つく出来事がありました。

そこで初めて、自分の身体と向き合って来なかったこと、パートナー間でセックスや避妊、そして将来についてのコミュニケーションを怠ってきたことに気が付きました。

「セックスは男性の指示に従うもの」という思い込みに逃げ、相手に依存し、考える事をやめていた、無知な自分を責める日々が続きました。

結果、そのパートナーとは別れることになり、近しい友人や家族にも自分の現状を話せないまま、引きこもりのような状態になっていきました。

当時、仕事でも不安定な状態であったため、辛い気持ちを外に吐き出す場所がなく、でも自分ではどうしても抱えきれず、ある日、誰にも知らせていないSNSの裏アカウント(削除済み)にて、起こった出来事や自分の気持ちを書き連ねていました。

すると、何の繋がりもない女性から「私も同じような経験をした」とコメントがついたのです。そこから少しお互いの状況や心情を報告し、励ましの言葉を送り合いました。

どこの誰だかわからないけれど、苦しみに共感をしてくれる人がいるという事実は、私の心の重石を少し軽くしてくれました。

そして、この裏アカでの交流は、私以外にも「パートナーとのセックスが原因で苦しんでいる人がいること」に気がつく経験でした。

「フェムテック」との出会いから生まれた使命感

同じように苦しんでいる人がいると知った当初は、その事実を、自分を慰める材料にしていました。

辛い気持ちが溢れそうになったら「でも私と同じように、なんなら私より酷い状況の人もいるんだしな」と思い、安堵していました。

でも、そうやって悲しみばかりに目を向けることこそが辛くなり、この辛い気持ちから脱却するためにはどうすればよいのかと考えるようになりました。

そこでようやく、そもそも性に関する無知や、パートナーとのコミュニケーション不足が原因だと気づいたのです。

実はここまで至るのに、数年かかっていました。本当に歩みが遅く不器用すぎますね。

そこから改めて、女性の体や性に関する情報をチェックするようになりました。

そこで出会ったのが「フェムテック」です。

「フェムテック(Femtech)」とは、Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語で、女性の健康課題を解決したりサポートしたりする製品やサービスを指します。

女性の健康課題といっても「月経」「妊活」「妊娠期・産後」「更年期」「セクシャル・ウェルネス」などと幅広く、そして、どれも公に語られることのなかった問題ばかりです。

私は「フェムテック」という言葉を知ってから、生理前後の心の揺らぎがPMSだったこと、女性自身が身を守る手段でもある「ピル」に対して偏見を持っていたこと、妊娠・出産が女性だけの責任ではなないこと、心身の健康のため女性が自慰行為をすることは後ろめたいことではないこと、パートナー間でセックスについて語り合うのは真に関係を深める上で大切な時間であることを学びました。

そして、「性」を含む女性のナイーブな問題について向き合い、悩み苦しんでいる人たちのために、心血を注いで製品やサービスを提供している人たちがいることは、私の視野を大きく広げてくれました。

興味を持つようになってから気づいたのですが、ここ数年(コロナ禍前ぐらいから)、WEBメディアなどが「フェムテック」について特集し、東京ではフェムテックの製品やサービスを紹介する展示会なども行われるようになっており、常に最新の情報を得られるようになっていました

しかし、まだまだ関心の高い人だけが興味のある分野。特にこういう新しい分野の情報については東京とそれ以外のエリアの格差が大きい印象です。
私が周囲の人間に「フェムテック」に関連する話題を出しても、いまいちピンと来ていない人が多く、特く男性には「下ネタ」のように受け取られて、とても悔しくなりました。生きる上で大切な情報なのに。

人に話せば話すほど、この分野がいかにタブー視されてきたか、そして、日本の根深い男性優位な社会構造が、その情報拡散を阻み誤解や偏見を生んでいることがわかってきました。

「フェムテックも含め、女性の身体や性に関することをしっかり発信したい」

そんな思いが私の中で強くなり、ラジオDJを名乗る私にできることを考えた結果、私の主戦場である「ラジオ」で番組にすることを目標にしました。

「性」に向き合うことが自分らしい生き方に繋がった

さて、性に関する発信をするようになる少し前から、艶のある写真をSNSにアップし、「セクシーボイス」を名乗るようになったのは、少しだけ違う理由です。

上述のように、私はパートナーとのコミュニケーション不足から、する必要のない経験をしました。

なぜパートナーにしてほしいことを言えなかったのか、してほしくなかったことを言えなかったのか。

これは何かに依存しやすい自分の弱さが原因です。自分を知り、自立した人間だったら、きっと相手に依存することも、責任を押し付けることもなかったと思います。

自分で考え、自分の足で立てる自立した人間になるためには何が必要なんだろうか。自立した人間を目指す上で、自分が本当に目指したい姿や、好きだと感じるものは何かを自問自答するようになりました。

自分を見つめていくうちに、自身が抱える強いビジュアルコンプレックスと向き合うことになり、ありのままの自分を好きになりたくて、文字通り、ありのままの自分を直視するために「ヌード」を撮影してもらいました。

「艷やか」な写真を投稿するようになったのは、この撮影がきっかけです。

幼少期からダンスを習っていて、その延長で大学時代にHIP HOPやR&Bの文化に触れたこともあって、20歳前後の頃に、身体のラインを魅せる、露出の多い服装を好んで着ていました。

ただ、26歳で放送局のアナウンサー、いわゆる「女子アナ」という清廉潔白なお嬢様イメージが求められる(それについては色々別で言いたいことがあるけれども)仕事に就いてしまったため、露出の多い服を着ることができなくなり、印象も変わってしまいました。

自分の身なりと、望んでいる自分のイメージとのギャップは、私自身の心に蓋をして、自分の人生の主体性が失われていく感覚でした。

しかし、ヌード撮影をきっかけに、自分の身体と向き合うことで「体型にとらわれず本当に好きな服装をする」「周囲の押しつけによるイメージに捉われない」と心に強く決めました。

ラジオDJの私にできることは「ラジオ番組」にすること


「性に関する発信ができるラジオ番組を担当したい」という目標ができてから、実際にラジオ番組になるまでには、様々な道のりがありました。

まずは個人的なツテを使って、「大人向けの『性』の番組をやりたい」ということをラジオやメディアの関係者に相談することからスタート。
もちろん私の知名度や人気では相手にされることもなく、そもそもラジオDJとしての存在価値を否定されているような扱いを受けて、挫けそうになる毎日でした。

そんな中、とあるテレビのプロデューサーの方から「番組にしたいなら、しっかりコンセプトを打ち出した配信をしたらよいよ。配信なら自分でできるし。やるなら毎日。毎日しないと意味がないよ!」というアドバイスをいただきました。

確かに、それまではTwitter(現X)で、たまに性に関する発信をするだけ。私に「性の話ができる人」のイメージは全くありませんでした。

何をするにも戦略は大事。イメージは大事ですね。

アドバイスをもらった日の夜から、『性の悩み』を共有する配信企画「#私たちは求めてる」をスタートしました


2022年3月末から、Twitterの音声配信機能「スペース」を活用し、DMなどで寄せられた相談を読んだり、自分なりの意見を語ったり、リスナーの皆さんのリアクションを紹介したりと、「人には言えない性の悩みを吐き出すコミュニティ」を目指しました。

今までの私とあまりにも毛色の違う発信のため、当初はなかなかコンセプトが伝わらず、気持ち悪いセクハラメッセージが届いたり、コンセプトと全く関係ない「相談」…例えばラジオ局やリスナー、パーソナリティーへの批判や悪口ばかりを送ってくる人がいたり…。

さらに、開始当初は、タイミング的に春休みと被ったのと、ちょうどスペースが盛り上がっていた時期だったため、暇を持て余した高校生たちに見つかって、ハシュタグを使って荒らされたり、おかしなアカウントに粘着されたりと予想外の出来事の連続で、何度も心が折れそうになりました。

それでも毎日続けることで、少しずつ思いが伝わって、本当にちょっとだけですが、コミュニティの輪が広がり始めました。

ただ、私のような発信力の弱い個人の配信では、伝えるのに限界があるなとも感じていました。

どうにかして、ラジオ局に近づけないか。
自分なりに情報収集と行動を重ねている中で、あるオーディションを見つけました。

「ラジオ番組」になって気づく偏見・思い込み

それは、東海エリアの放送局「CBCラジオ」が新人パーソナリティーを募集するという内容でした。

収録は名古屋、枠は30分、まだ見ぬ新人の募集。
東京在住、新人と言えないキャリアと年齢の私。

合格までにはかなりのハードルがありましたが、もし私の目標を実現させる可能性が少しでもあるのなら、と応募を決断しました。

このオーディションは動画審査だったため、私が番組を担当した時に何を発信したいのか、具体的なイメージが浮かぶ内容の動画を作成し提出しました。

https://youtu.be/rdgwDtdS7KA?si=eFWnQoRCN3PUmtH0

私のことを知らない人が見たら、かなり「クセ」のある内容ですよね(笑)

一か八かの勝負でしたが、結果、この動画が、今の番組のプロデューサーの目に止まり、番組を担当させていただけることになりました。

通常、新人が枠を担当するとなると、そのパーソナリティーの人柄や個性を前面に押し出したものになります。
しかし、私は動画で「大人の性の番組にしたい」という希望を明確にしていたため、すぐに受け入れてくださいました。
プロデューサーの方は男性で、女性を取り巻くセクシャルウェルネスの事情や、日本で盛り上がるフェムテック市場についてなどに明るい方ではありませんでしたが、熱く語る私に真剣に向き合い、番組構成を練り上げてくれました。


そうして2022年10月から「ハイアーハイアー!火曜日」という30分の番組がはじまりました。

『フェチ』『性の目覚め』など、他人にはなかなか言えない「これって私だけ?」「私がおかしいのかな?」という性の体験や性の悩みを聞かせてもらうコーナーや、注目のフェムテックサービスや「性」を扱ったエンタメコンテンツの紹介など、真面目な話題を織り込みつつもリスナーの皆さんが参加しやすい内容を目指しました。

放送開始後から、地上波ラジオ番組では珍しい「女性が語る“性“の番組」ということで雑誌などで取り上げていいただいたり、CBCラジオリスナーの方々からも「こういう番組を待っていた!」「今までにない勉強になる番組」と好意的なメッセージが届きました。

ただ当初は、リスナーの皆さんにわかりやすく伝えるため、真面目な内容よりも「セクシー」や「エロ」を強調する雰囲気があったため、エロい女が「下ネタ」を話す番組と思われ、セクハラまがいのメッセージや、放送では読めないような性犯罪を匂わせるメッセージが届くこともありました。

セクハラまがいのコメントをする人には、放送やSNSで「誰かに性的搾取をされるために、セックスの話をしているわけではない。自分らしく生きるための発信だ」と伝えますが、その言葉の意味を理解できない人、理解しようとしない人から、心ない言葉をぶつけられることもありました。

不特定多数が聞くラジオでの発信だからこそ、改めて「性」を扱う人への偏見、そして女性や性に対する思い込み(女性は男性に支配される存在、強気で自己主張する女は悪、など)と向き合うこととなりました。

この思い込みは、かつての私と一緒です。
「性の話」=「エロい話」と思っているからこそ、知識をつけることをせず、セックスや生理や妊活について、パートナー間でのコミュニケーションを怠って、思い込みによる関係を続けている人の多さを感じました。

逆に言えば、不特定多数が聞くラジオだからこそ、そういう偏見や思い込みを持っていた人にアプローチすることができて、自分らしく性や恋愛を楽しめる人が増えるかもしれないと思っています。

ラジオを聴く幅広い年齢やセクシャリティの人たちに、今まで「性教育」や「女性の性」に関する情報に触れてこなかった人たちに、どのように話せば誤解なく伝わるのか、収録のたびに試行錯誤しながら、いっぱいいっぱい考えながら話すようにしています。

結果、番組開始当初に多く寄せられたセクハラメッセージは徐々に減り、真剣な性の悩みや、他人には言いづらい、行き場のなかった心の内を告白してくれるようなメッセージが増えました。女性からのメッセージが多くなってきたことも本当に嬉しいです。


続けることであなたと一緒に考えていきたい。

「ハイアーハイアー!火曜日」は、皆様のおかげで、2023年4月より「八木志芳の私たちは求めてる(通称:わたもと)」とタイトルを変え、現在も放送されています。

ラジオに興味関心が無い人にも届くようPodcastでの配信も始まりました。

ApplePodcastのセクシャリティ部門でたまに1位になったりもします。有難うございます!

また番組コンセプトに共感してくださった、ピル処方サービスの「スマルナ」を運営する株式会社ネクイノ様、がスポンサーについてくださいました。(ネクイノさんとの出会いも含めて、別で語りたいぐらいいっぱい話があります!ありがとうございます!)

先日、そのスマルナが提供についてるコーナー「志芳のお悩み相談室」宛に「生理のときは毎回貧血になるほど、経血の量が多い。内科を受診し薬を処方してもらっているが、快方していかない」というご相談が届きました。
この相談に産婦人科の先生が「内科ではなく産婦人科を受診してください」とアドバイスしたところ、実際に相談者のかた産婦人科を受診して、不調の原因がようやくわかったというご報告がありました。
病気が見つかったことは喜ばしいことではありませんが、番組を通じて必要な情報が必要な人に届いたことに、番組放の意義を見出せました。

全国的にみればまだまだ知名度も低く、また、きちんと伝えたいことが伝えたい人に伝わっているかわかりません。

ただ、必要な情報が必要な人に届くように、かつての私のように「性」の知識がなく傷つく人が減るように、「性」と向き合うことで自分らしい人生を歩める人が増えるように、長く番組を続けられたらと思っています。

このnoteをきっかけに、番組について知った方も、良かったら聞いて感想を送っていただけたら嬉しいです。

そして、SNSでの拡散やメッセージなどで応援していただければ嬉しいです。応援してくださる企業などもお気軽にお問い合わせください。

▼CBCラジオ「八木志芳の私たちは求めてる」

毎週日曜夜10時、CBCラジオでお待ちしています。

筆:八木志芳


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