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爵位って何?

『知りたいだけシリーズ』マガジン

レギュラーのマガジンに入らないカテゴリーなので、ひさびさの『知りたいだけシリーズ』になります。


爵位って何だ?(西洋編)

「西洋編」などと日和った感じなっているのは、それなりに広大だから。爵位の海が。まずは西洋においける爵位だけにしぼって掘り下げてみたいと思います。まず、爵位(しゃくい)は、英語でいうと「Royal and noble ranks」または「rank」となり、フランス語なら「titre de noblesse」となります。フランス語のこの「noblesse」。漫画&アニメの『東のエデン』でおなじみにフレーズ「ノブレス・オブリージュ」のノブレスです。

「ノブレス・オブリージュ」とは、19世紀フランスで生まれた言葉で「富める者の務め」という意味。聖書の

「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、さらに多く要求される」(『ルカによる福音書』12章48節)

に由来した言葉。白洲次郎さんもよく口にされていた気がします(本で読んだ気がする)。ということで「ノブレス」は貴族という意味です。だいたい。

爵位は、君主制に基づく国家において、貴族の血統による世襲または国家功労者への恩賞に基づき授与される栄誉称号。現代のほとんどの国家が共和制で、共和制とは、雑に言えば「皆平等で、選ばられた代表が為政のポジションにつく」という意味。その対義語になるのが、君主制で、「一番偉いのは、王様だぞ!」というクラシー(-cracy)、政治制度。

「一番偉いのは王様だぞ!」ということなら、「次に偉いのは誰?」という質問が継続しえます。これが爵位。


西洋の爵位と翻訳のギャップ

ヨーロッパの爵位は、総じて一定の行政区域の支配を担当する官職が、中世に地方分権の過程で世襲化されたもの。君主制において、行政を行う人は、偉い人で、偉い人なので、爵位がある、ということです。そこに至る過程が、ローマ帝国経由だったり、封建制経由だったり。

この流れが、日本にはないため、日本語に翻訳するとき、日本にあった爵位を「偉い順番に割り振る以外でできませんでした。くわえて、ヨーロッパ内においてすら経緯が異なるものあるので、まあまあ曖昧です。「偉い順はたしかだけど、まあまあ曖昧だし、翻訳と実態にはズレがある」という認識だけだれば、良い前提を形成出来たことになるでしょう。そんな前提に次いで、各爵位に触れていきます。

Grand Duke(大公)

公、公爵の上。王様の下。grand duke が元首(げんしゅ。国の代表)となる国は大公国(grand duchy)。現存するのは、ルクセンブルク大公国のみ。

Duke(大公、公爵)

語源は古代ローマの有力者に与えられる称号で、その後に地方司令官を指す言葉となったラテン語のドゥクス(Dux)。帝政(もともとローマは民主制だったのにカイザーが殺されたあとくらいから帝政になっていきます)後期に入るとローマ帝国は、異民族の首長にDuxの称号を与えるようになりました。4世紀には、文官と武官が分かれ、Duxはそれぞれの軍団の司令官の職名に使われました。同様のComes mei militarisはduxの部下であり、のちCount(伯爵)となります。

英国のロイヤルワラントは3つありますが、そのうちのひとつが、エディンバラ公(The Duke of Edinburgh)。

Prince(王子、親王)

ややこしいことに、特定の領域を支配する君主の称号の一種という意味と「王族、の男子(王子、親王)」という意味があります。

中世以降のヨーロッパで、国王(king)という称号が君主に対するものとして一般的になると、国王と名乗ることまでは承認されないが実質的に君主と見なされる貴族が、ラテン語でプリンケプス(prīnceps)に相当する称号(英語ではプリンス)を名乗る例が現れました。このような称号は、日本語では、公、侯(ドイツ周辺)、大公(フランス周辺)など様々に訳されています。

プリンスの支配する国のことを英語でプリンシパリティ(principality)といい、公国(ドイツの場合は「侯国」)と訳します。現存するプリンシパリティは、モナコ公国(Principality of Monaco)、リヒテンシュタイン公国(Principality of Liechtenstein)があります(アンドラ公国(Principality of Andorra)もある)。

Marquess(公爵)

Marquessは、ゲルマン語の称号Markgrafに由来し、しばしば「辺境伯(へんきょうはく)」と訳されます。はじめは、カロリング朝フランク辺境を守る武将の役職名でフランク王国東部のローマ帝国との国境線に多く配された存在でした。しだいに貴族の称号となってゆき、Dukeの下、CountないしEarlの上というポジションの貴族、官職となっていきます。

Earl/Count(伯爵)

イギリスでは、自国の伯爵をEarl、外国の伯爵をCountと呼びます。紅茶のアールグレイは、イギリスのチャールズ・グレイ伯爵(Charles Grey)由来の名前と言われたりしています。が、この言葉が使われるようになったのはグレイ伯爵の死後数十年経っているので、不確かではあります。

チャールズ・グレイ伯爵(Charles Grey)

もとともは、9世紀、スカンジナビアのデーン人が、非王族軍指揮官として任命したのが始まり。デーン人はイングランドに移住してからもEarlを用いました。「太守」もしくは「伯」と訳され、各州に配置されて州の統治が任務でした。当初は、一代かぎりの役職でしたが、世襲されるようになりました。のちにヨーロッパ各国のCountと同じように用いられるようになり、12世紀以降は役職名ではなく称号として用いられました。

Countは、ローマ帝国のComesが由来で、Comesは廷臣の階級のひとつでした。文官のComesと武官のComesがあり、Dux(上記)が部下として指名しました。当初は任命制でしたが、その強大な権力により次第に世襲されるようになりました。

中世になると伯爵領は、Countyと呼ばれるようになり、これが現在の州「カウンティ」に受け継がれています。領主としての伯爵の地位は、近世以降しだいに称号化し、他の爵位をあわせて社会の序列をあらわす名称へと変化していきました。

Viscount(子爵)

「副伯」というニュアンスでフランス、スペイン等で使われていました。この「Vis」は、副大統領や副社長の「Vise」と同じ。イングランドでは、シェリフ(地域を治める役人)相当の爵位として14世紀に創設されました。ドイツ語圏では、城伯(都市伯)Burggrafがこれに相当します。

Baron(男爵)

「自由民」を表す言葉で、後に領主一般を指す言葉となり、最終的に、Viscount以上の爵位を持たない領主の爵位となりました。スコットランド語でBaronyは荘園を意味し、荘園領主・小規模領主にBaronが用いられました。

有名なカリフォルニアワイン、オーパス・ワンは、バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド男爵がカリフォルニアに進出しロバート・モンダヴィ氏とタッグを組んで生み出したワインです。


Knight(勲功爵、勲爵士、騎士爵、士爵)

ナイト(Knight)は、主にヨーロッパのキリスト教国家において勲章の授与に伴い王室または教皇から授与される、中世の騎士階級に由来した栄誉称号。イギリスの叙勲制度において王室より叙任されるものが有名です。イギリスにおいて、ナイトは公・侯・伯・子・男の貴族の身分ではなく、世襲権を持たない準貴族。称号としてのナイトを騎士号とも称します。ナイトの称号を得た人物に対しては、男性ならサー(Sir)、女性ならデイム(Dame)を付けて呼びます。ナイトの称号を得た人には、下記のような人々が居ます。

カズオ・イシグロ(ノーベル賞作家)、マイケル・ケイン(俳優)、
ショーン・コネリー(俳優)、ミック・ジャガー(ミュージシャン)、
トム・ジョーンズ(ミュージシャン)、エルトン・ジョン(ミュージシャン)、
リドリー・スコット(映画監督)、ロッド・スチュワート (ミュージシャン)、
ポール・スミス(ファッションデザイナー)、ヘンリー・セシル(調教師)、
ダニエル・デイ=ルイス(俳優)、ノーマン・フォスター(建築家 → のちフォスター男爵に叙され一代貴族に)、リチャード・ブランソン(実業家・冒険家)、
アンソニー・ホプキンス(俳優)、ポール・マッカートニー(ミュージシャン)、
ロジャー・ムーア(俳優)、アンドルー・ロイド・ウェバー(ミュージカル作曲家 → のちロイド=ウェバー男爵に叙され一代貴族に)、アーサー・コナン・ドイル(小説家)、ジュリー・アンドリュース(女優)、エリザベス・テイラー(女優)、ジュディ・デンチ(女優)、エレン・マッカーサー(ヨットのソロセーラー、単独ヨット最速世界一周の功績により2005年最年少の28歳で叙勲)、ヘレン・ミレン(女優)、内田光子(ピアニスト)など

まとめ

爵位は、それぞれの意味より、どっちが上か下かをぼんやり知っておけば、良い気がします。またナイトの称号は、栄誉称号で、世襲ではないこと。男爵以上になると世襲できることなんてこともぼんやりわかっていると便利そうです。何かと出てくる爵位ですが、こんなふうにざっくりしっておくと便利じゃないでしょうか。



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