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「がん外科医の本音」を読んで

この本に出合ったのは作者の中山裕次郎先生から頂いた一通のDMからでした。
中山先生が執筆された書籍「がん外科医の本音」の中に私が書いた著作「今日から第二の患者さん」のを紹介して頂いたむねをご丁寧に連絡していただき
(ご紹介頂いた章はnoteで無料公開されております)
そこでこの本を知ることが出来ました。

私の夫は7年前に大腸がんになりました(告知の時は婚約者でしたが)
その時経験した、当時は珍しかった「がん患者家族の視点」を漫画にし
同じような経験をされている読者さんの圧倒的な後押しがありコミックスにもなりました。

当時、夫(この時はまだ婚約者でした)のがんの告知をうけてからというもの本屋、図書館など通詰め
沢山のがん関係の本を読み漁り「なにか少しでも良いから知恵を知識を…私にできる事を知りたい」と思う毎日でした。
そういえば最近がん関係の本をあまり読んでないなぁ…そう思い
これもなにかの縁かなと発売された「がん外科医の本音」を購入して読んでみました。
なので購入した1読者としての感想をかきたいと思います。

必死だった当時を思い出す

256ページにわたるこの本は
目次を見るとがんに罹ると気になる「この噂って嘘?本当?」といったような割と俗っぽい(失礼)
だけど絶対1度は気になるよね!といった項目が並び最初は少し警戒したのですが(失礼2)(俗っぽい項目が並ぶと割とキツイ言葉で脅すような本も多いもので…)

これが実に現代のがん治療に照らし合わせ誠実に書いてある!

各章は短く、時に軽い冗談などもまじえ
専門用語なども使ったとしてもわかりやすく言い換えたりルビがふってあり
「ああ…当時寝不足で不安で回らない頭の中、必死に理解しようと泣きながら読んだ本は専門用語が難しくてほとんど頭に入らず
すごく拒絶されている気分だったけど、きっと中山先生はそんな悔しく情けない気持ちになっている患者さんや患者家族のことを考えて書いているのだろうなぁ…」と思いました。

見出しは俗っぽい感じが並んでいますが、その問いに対する答えはとても誠実で、勘違いしやすい事柄を丁寧にひも解いて
誤解されやすい「標準治療」のことや(言葉が誤解をうみやすいですが、現段階においてもっとも多くの人に効果のあるがん治療のことです)
何故医師がこう答えるのか?
巷で見る「がんに効く」的な本やメディア情報をどう読み解いていけばよいのか?
こんな不安をかかえた時はどう考えたら良いのか?
などを丁寧にかいてありました。
セカンドオピニオンの話など私は個人的に何人も友達の相談などに乗っていて「そうそう!!わかる!!みんなそこ気になるよね!!」てなりました。

とても実践向きの(という言い方はあれですが、がんを(私は家族という立場でしたが)経験していく中で一度は医師や病院や医療に対して不安に思うことが書いてある)本で、
まず最初に読むと一通りぶち当たるであろう疑問や不安が網羅してあってガイドブックのような本だな、と思いました。

欲しかった言葉があった

この本を読んでいて気づいたことがあります。
この本の中には数多くの「私は個人的にこう思います」といったことが沢山載っていました。
慎重で、きちんとした医師の方であればあるほど「個人的にこうおもう」の怖さや(外だけでなく業界内の評価としても)誤解を与えてしまうことを懸念してこのフレーズを避けるように私は思います。
過去、沢山読んだ本も一般向けのきちんとしてる本ほど個人の気持ちや考えは極力排除してあった本が多かったです。
これはとても正しいことだと思います。

でもあの日、あの時
夫の主治医を「この人は信頼できる医師だ」と思ったのは
「先生、もし夫(仮)が先生の家族だとしてこの抗がん剤を勧めますか?」と聞いた時「個人的に僕の家族でしたらすすめます」と言ってくれた時でした。

私は家族からの視点しかしりませんが、
大切な人に少しでもより良い、合った治療や道を歩んで欲しい気持ちがありました。
しかし、自分自身は医療に関して無知で言われるがままのことを受け入れるしかありません。選ぶことすらそれが正しいのかどうかの判断もできません。
そんな無力感が芽生える中、たとえリップサービスだとしても「専門家が個人として」どう思うか、
教科書的な医療としては模範的でないかもしれないけど
個人としてどう向き合ってくれかを考えてくれた主治医には今でもとても感謝しております。

その体験を踏まえた今、この本はさまざまな章に「データを元に導き出した業界のスタンダート、そしてそれを踏まえた個人の意見として」が書いてあって
時に誤解やバッシングもあるかもしれない”個人的な意見”を書いてくれていること、とても勇気がいっただろうな…と思い
同時にその一言が、医師の勇気が、とても嬉しかったことを思い出しました。

責めない、嗤わない

私は一時、標準治療をしつつ熱心に食事療法などにはまったことがあります(現在は夫婦間の会話をじっくりする以外は何もしておりませんが)
がんになるととても沢山の食事療法や健康療法の本が目につき、やれあれを食べるなこれをするなと
知り合いからメディアから洪水のように情報が流れ込んできます。
最近は沢山のがん経験者や医師の方が「それは良い選択とはいえない」と発信していて
そのこと自体はとてもわかるのですが、心配のあまり時に過激に「それに陥る者は愚かである」といった攻撃的なニュアンスになり
当時食事療法にはまった私としては夫に申し訳なく胃の中に石を置かれたような気持ちになっておりました。
こちらの本もそのような数ある「標準治療以外」のことにも触れていたのですが
1つずつ「医療の視点としてこのようなものをどう見ているか」「医師としてここに懸念している」などデータを用いて丁寧にかいてあり
「愚かである」といったメッセージはなく「医師はこういう風に見ているので、こんな所を心配してます」とわかりやす書いてあり
とても受け入れやすい言葉になっていました。
標準治療以外はすべて愚かであると言い切らず
標準治療プラスなにか経済的、肉体的に負担にならないのなら”おまもり”としてやることを個人的に否定しない」といった
「どうか(家族や近しい人間として)患者の力になりたい」「患者自身としてなにかしたい」という気持ちも切って捨てない優しさが嬉しかったです。

終わりに

文章は門外漢小学生の感想文のようになってしまいましたが(笑)
読んでよかったなー!と思いました(´▽`)
我が家も経過観察などもふくめ6年間、長い間泣いたり笑ったり色々ありました。
経過観察のなくなった今だからこその恐怖もあります。

がんは今や長く付き合う、共に生きる病気になりつつあります。
長くつきあうからこそ「生きる」ことを真剣に考えたり悩んだりします。
どうか少しでも不安を抱えた患者さんや患者家族の人が一人でも
ホッとしたり、疑問や不信感などが晴れたりすればいいなぁ
そして、医師の視点で医療的なきちんとした精度をもちつつ、気持ちに寄り添ってくれたり心もかいてくれるこのような本が増えたらいいなぁと思いました(´▽`)

がんの入門書として「がん外科医の視点」個人的にとてもおススメです!


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