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王立音楽院の授業で最初に褒められた事

これは自慢するような事でもない変な話なのですが、スペインの王立音楽院で最初に先生に褒められたのは、ギターの授業ではなくソルフェージュの5年生の時の事でした。実力試験を受けてソルフェージュは4年生から入学して、無事に進級した次の年の事でした。

リズムは好きでも視唱は先生のピアノ伴奏で歌うのも恥ずかしいですし
(歌うのが恥ずかしいから楽器やっているような感覚もありました)同じクラスの音程が取れない子の音を聴いているのも辛かったのです。
ある学生がどうしても長調と短調の区別の音が(3度と6度)出来なくて苦労していました。先生がはい!明るく!「ドレミ♮~♪」暗く!「ドレミ♭~♪」と繰り返すのですが、どうしても音程が混ざってしまうのです。

そのうちに先生の顔が段々と誇張してきて、長調の時の満面の笑みと、短調の時の悲痛な面持ちが可笑しくなって生徒が皆笑い出しました。
すると先生がため息をついて「この区別がつかなければ皆も音楽家になれないぞ!」と言って「ちょっと5分ほど休憩しよう!」となりました。

先生とその生徒が教室を出ていくと私の周りにいたスペイン人が皆で先生の顔まねしながら、はい!明るく!「ドレミ♮~♪」はい!暗く!「ドレミ♭~♪」と先生の真似をして大笑いしています。
そのうちに「シキもやってみろよ!おかしいぜ!」というので、ふと思いついて「ねえ!みんな!逆は出来るかな?多分、私は出来るけれど」と言いました。皆は一瞬きょとんとした顔をして「え!笑顔でマイナー歌って暗い顔でメジャーで歌うの?馬鹿馬鹿しい出来るわけないよ!」

そこで私が笑顔で「ドレミ♭~♪」暗い顔で「ドレミ♮~♪」と歌ったのです。勿論皆が喜んでくれると思ってやったのですが、、、。

結果はしばらくの沈黙があり、拍手喝采が来ました。
何人かの女の子が早速これを真似しようとして「シキすごい!これは絶対に出来ないよ!」と皆で首を振って拍手をしています。

この後の展開は皆さん想像できますよね。先生が帰って来て授業が再開するやいなや、クラス中の提案で私は前に出て先生のピアノ伴奏で笑顔で短調、暗い顔で長調を歌って、もう一度拍手喝采を受けました。
先生も驚いて「理由はわからないが、どうして君はこんなことが出来るのだ!」と首を横に振りながら伴奏してくれました。

そのあともしばらく皆が「ねえ私出来てる?」とか「お!こつが少し分かってきた!」など大盛り上がりですが、誰も完全にはできません。
すると、一人だけこの芸がたまにできる子がいたのです。
そうです、最初に先生の顔芸で一生懸命音程を練習していた子です。
皆が「出来てる!出来てる!」とはやし立てていましたが、先生が後ろからひと言「君は本当に長調と短調の音程が混ざるから、そんなことはやらなくてよろしい!」
その学生は頭を掻いて教室がまた大笑いに包まれました。
これが、初めて外国で初めて褒められた?授業です(笑)

肝心のギターの方は私は留学したばかりは下手でしたので、
まともになって褒められたのはずっと数年後ですね。

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