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完全制覇 vs水戸 2-1

 ボールを握りたがる藤枝に対して正面から挑んで呑み込まれた前節。ライン間で自由にボールを出し入れされ、なかなか捕まえられなかった。ようやくマイボールになったらなったで、左に誘導されてCBーWB間のラインを完全に遮断された。全くと言って良いほどボールを落ち着かせるポイントが作れないまま90分が過ぎていった。今まで抱えていた問題が顕在化した機会だと思うが、そうポジティブに捉えることは難しい。

 次のステージへの道は険しくなってきたが、可能性がある限り諦めない。1つでも上を目指して乗り込む今節の相手は水戸。今シーズンの北関東ダービー最終戦。
 濱崎体制初年度の今シーズンはスタートから躓く。失点が嵩んで壊れる試合が多かった。更にSBに怪我人が続出して4バックか5バックかも定まらず迷走。ただ、6月の栗鼠との裏天王山に勝利すると、そこからは負けないことに重きを置いた試合を展開。まずは守備で地盤を固めつつ、ゲームコントロールできる中盤の選手からパワー系の前線に繋げてゴールまで迫る。8月は負けなし(且つ勝ちなし)でまとめ、以前ほどの守備の脆さはない。球際で徹底する意識は高い。

 北関東ダービーに負けて良い試合などない。優勝が決まっているからこそ、王者が王者たる所以を示すほかない。水戸も藤枝と同じように即時奪回でショートカウンターを狙ってくる可能性は高い。それならば、そこを剥がして広大なスペースを自由に活用すればよい。前節は崩れてしまったが、苦境だからこそ原点に立ち返ってやるべきことを愚直にやり続ける。


メンバー

 ウチは前節から3枚変更。エド→岡本、畑尾→酒井、武→梨誉。前節レイトタックルにより痛めており試合後挨拶できずロッカーに戻ったエドがメンバーから外れ、岡本が復帰後初スタメン。前節試合後悔しさを押し殺すかのようにダッシュを繰り返していた酒井、有給消化していた梨誉もスタメンに戻ってきた。

 対する水戸はドローに終わった前節千葉戦から5枚変更。楠本→松田、後藤田→村田、前田→高岸、寺沼→草野、安藤→ブワニカ。安藤は前節ゴール後の愚行により2枚目の警告を受けての退場、今節は出場停止となる。かなり大きくメンバーを代え、今シーズン北関東ダービー初勝利を目指す。

前半

 ピッチレベルではやや強めの風が吹く中、ウチは風上でのキックオフとなった。ウチは立ち上がりは長めのボールで様子見をするが、水戸は最初から結構深めまで喰い付く。特に岡本と中塩に入ったところで水戸のFWが内側からプレスに来てチェンジサイドの選択肢を消す。

 5分、水戸が狙っていた形からチャンスを作る。ウチがゴールキック起点のビルドアップに着手。中塩にボールが入ったタイミングで草野が先に滑って足を伸ばしてきた。これにボールが引っ掛かり、こぼれを村田が拾って草野へ。草野はそのままPA内に侵入し、左足でフィニッシュ。しかし、これはコースが甘く、櫛引がセーブした。
 ターゲットを絞り、そこに入ると一気に連動して狩りに来る水戸のプレスに形を作られた。ボールのこぼれは偶発的とはいえ、一発目から成功体験を与えるのはあまり良い話ではない。

 水戸はFW+小原でCB3枚を埋め、鵜木がやや絞って風間を監視。WBにはそのままSBを当ててきた。特に水戸のRSB村田は深くまで竜士を監視してくる。ただ、ウチの右サイドになると相手の網目が荒く、前進できる気配。長井・高岸の2枚で風間・岡本・佐藤の3枚を見なければならず、ウチはその3枚+酒井でトライアングル作ってボールを回す。時間を掛けると長井が佐藤までチェックに来るが、佐藤が後ろを向いた状態だと順足でボールを内側に蹴れるので、いきなり捕まってカウンターとはあまりならない。また、高岸が中途半端ない位置を取っているとアマがフリーになって浮くので、度々CBから1stラインブレイクの縦パスが入る。水戸の1stラインは当然ながらウチのCMFに設定するが、誘き寄せてからCMFに楔を受けるとフリーで前を向ける。かなりアマと風間への寄せが緩く、ハーフウェーまでは楽に前進できる。
 対して水戸ボール保持時は鵜木がハーフスペースに浮いて、竜士に二者択一を作らせる。基本的には竜士は背中で鵜木のコースを消すが、村田が高めの位置取りをするので、村田へのチャレンジがチーム全体として遅れがち。村田に喰い付くとワンタッチでサイドの深いスペースにボールを流されて草野にキープされる。この辺りは中塩と風間がバランスを見ながら潰しに行くものの、サイドの深い位置まで取られているのは懸念事項。

 それでも特に危険なシーンを作られることなく徐々に試合展開が落ち着いてくるかと思っていたが、20分にホームチームが試合を動かす。梨誉が裏に抜け出そうとするも山口がお手玉しながらボールを支配下に置き、武田経由で村田にボールが繋がる。ウチはチェックせずリトリートしたので村田もスペースを得てゆっくる前に進む。ハーフウェー手前に辿り着いたところで、竜士の外側を通して鵜木へ。鵜木→草野→ブワニカとワンタッチでテンポ良く回る。そこに中塩がチェイスに行くと、ブワニカは懐の深い切り返しでカットインし、武田にマイナスのパス。シュートを打たせまいとアマと佐藤が寄せるが、武田は1stタッチでボールを左に晒して、左に走り込んだ長井へパス。長井は正対する相手がいないと見るや、左足を振り抜く。これが丁度誰も触れないコースを鋭く突いてネットを揺らす。
 鵜木から草野へのワンタッチパスのところで局面を変えられた。草野がアマの脇まで顔を出しておきながら、そこに村田が直接付けるのではなく鵜木で角度を変えながら上手くライン間を活用。さらに鵜木の立ち位置で中塩を引き付け、それによって空いたスペースにブワニカを走らせた。ブワニカからマイナスのボールが出る際も鵜木がPA内に入ってきており、そこをアマが意識した分だけ1つ後ろの武田へのチェックが出遅れてしまった。

 先制したことで水戸は籠るという基本姿勢を明確に。ウチのCBのボール回しは完全に捨て、まずは体制を整えて構える。それでも外側への誘導は行っていたが、明らかにCMFへの寄せが甘い。簡単にターンして前を向けるのは有難い。ハーフウェーを越えると相手もチェックに来るし、籠られるとノッキングしそうになるが…。

 25分、ウチにもチャンスが訪れる。ハーフウェー手前で中塩がボールを持つと、水戸の陣形が整わず寄せが遅い。村田が竜士に付くのを確認しながら鵜木が中塩に近付くも、その頃にはもう中塩はキックモーションに入る。村田が竜士を捕まえようとしたことで生まれたサイドのスペースに平松が上手く走り込んで深くまで抉る。タメを作って竜士に戻すと、竜士は右足でボールを扱うふりをしてから縦に急加速。村田を振り切って左足でクロスを入れると、ニアで梨誉がダイビングヘッドで合わせる。シュートは枠を捉えていたが、立ち位置がズレていた山口のセーブで防がれる。
 中塩から1つ飛ばしたボールを使って一気に前進できたし、竜士の縦の仕掛けで相手を剥がせることも分かった。上手く喰い付かせてその背後という部分は意識している。

 30分、水戸が単騎でチャンスを作る。竜士から梨誉へのパスが引っ掛かると、カウンターに。武田から小原に繋がると、小原はスピードに乗って左から右へ斜めにボールを運んでそのままPA内に侵入。細かいステップで相手に足を出させることはできたが、自身もややゴールから遠ざかってしまう。それでも右足で強烈なシュートを放つ。しかし、ここは櫛引がこぼすことなくキャッチ。近くに水戸の選手が詰めてきており、あのシュートをキャッチできたのは大きい。

 30分過ぎ頃から背後のボールの比率が高め。アマや風間がルックアップした瞬間に前線の選手が動き出している。平松・梨誉・佐藤がローテーションで繰り返し飛び出しており、ボールが出なくても続けていた。確かに水戸のCBの背走には脆弱性が見られ、梨誉が縦パス1本で仕留められそうにもなった。更には時間経過とともにFW2枚が同時に背後を狙ってCBを引っ張るシーンが増える。背後を意識させることで全体が間延びし、より風間とアマに自由を与えることが可能。

 42分、遂に試合を振り出しに戻す。右サイドで短いパスを繋げて相手をそちら側へ誘導し、風間から逆サイドの竜士への完璧なフィード。これを竜士も文句ない吸い付くようなトラップで前を向くと、派手なフェイントはなく細かいステップだけで相手の足を揃える状況を作る。右足をフェイクに縦に仕掛けて左足で際どいクロス。これは佐藤に届く前に山口に触られたが、岡本が右足一閃。角度のないところから放ったボレーは相手のブロックに遭いながらもゴールに吸い込まれていった。
 風間のサイドチェンジは完璧。竜士のドリブルのキレも相手が重心を失うほどのキレで正対する相手の足を揃えさせたところで振り切り、クロスの質も良かった。そしてSBが逆からのクロスの流れでシュートを打てるエリアに入っているのも素晴らしい。久しぶりの流れの中のゴールだったようだが、狙いが形となった。

 悪い試合展開ではなかったが、相手の随所にAPT短くする所作がみられたのでHT前に同点に追い付けたのはとても大きい。追いついたことでプレス強度もゲームスピードも一気に良くなる単純さはご愛嬌。とはいえ、自分たちの力で流れを持って来れた。1-1での折り返しとなるものの、明らかにポジティブな状態でロッカーに戻る。

後半

 先制された後の雰囲気の重さを払拭したことで、後半は勢いを持って入る。武田のところに如何に自由を与えないかによってミドルサード以降の守りやすさが全く異なるが、平松と梨誉が焦れずにCBに圧を掛けて背中で武田を消すので、ウチのCMFの押し上げの時間を作る。佐藤と竜士もプレスバックを怠らずにWBを監視してくれるから、サイドに簡単にスペースを作られることは限られた。

 49分、櫛引のパスが鵜木に引っ掛かり、見事な斜めのパス1本でブワニカが決定的なシーンを作りかけるが、シュートを打つタイミングを失って右往左往。最後は無理やりシュートを打つも酒井がブロック。直後のCKもバイタル付近でボールが回るも、仕上げのパスがズレてチャンスにならず。
 ブワニカが持ったところで自ら仕留めに行くのはストライカーの心理として理解できるが、その際に周囲の選手がベタ足でボールを要求しているのは気になった。確かにボール奪取がスクランブル気味だったからサポートに行くまでの距離は多少遠かったかもしれない。ただ、ウチの選手がどんどんボールにチャレンジしてシュートのタイミングをなくそうとしているのに、青いユニフォームは傍観。誰かが縦に走る動きをすれば当然ウチも反応せざるを得ずに局面は変わっただろう。バイタルのアイデアや精度は人のことを言えるわけではないが、だとしても余りに人任せではないのか。それだけに、ウチの必死のディフェンスにゴールを決めさせないという強い意志を感じた。

 55分のシーン。水戸は基本的にSBが外側に張っていたが、インサイドに入ってSHが外に出るシーンも見られ始めた。ただ、佐藤が虎視眈々と狙って一気にプレスを掛けてミスを誘発させ、そこから梨誉のランニングによって長井にカードを叩きつけた。

 水戸も59分、草野→新里、高岸→前田の2枚替え。真ん中で仕事をすることの多い新里を前線で起用してきた。
 61分、ウチは竜士→北川で最初のカードを切る。この試合でもあらゆる場面で闘志を前面に出して戦って左サイドを活性化させた竜士を下げ、水戸戦で常に結果を残す北川を投入。それに伴って梨誉を左に出した。

 63分、ウチが右サイドからチャンスメイク。深い位置でのスローイン、岡本からPAゴールライン間際で北川がボールを受けてキープ。寄せられながらも北川はしっかりポイントを作って佐藤に落とす。佐藤はやや狭いスペースでもワンステップでクロス。ファーで勢いよく梨誉が飛び込んできたが、ヘディングは上手く当たらなかった。
 梨誉が左に出たことで、佐藤のクロスに対して大外から入ってくることができる。相手の守備陣がボールウォッチしまくる&ハイボールに弱さがある状態となれば、このような攻撃も有効。
 直後にも縦パスと横パスを織り交ぜながら素早く前進し、左で受けた梨誉が推進力を持って運んでからカットインして右足を振り抜く。GKに阻まれるも、勇気づけられる一撃。

 64分、その流れのCK。風間のファーへのボールをフリーの中塩が折り返し、最後は北川が頭で合わせたがクロスバー直撃。逆転とはならず。
 城和・酒井・梨誉・北川の4枚をニアに寄せ、ファーで平松と中塩が構えていた。ファーのストーンとして長井がいたが、平松が上手くプロテクトすることで中塩がフリーになる。折り返した時点で相手はほぼ全員が棒立ち状態なので、仕留めたいところだった。

 68分、水戸は鵜木→永長、村田→成瀬の2枚替え。梨誉がプレスバック&ドリブルの両面で躍動したことで、水戸はそこにメスを入れてきた。両者ともにどちらかというとボールを持つ局面で強みを見せるタイプであり、攻撃時に梨誉を低い位置でピン止めさせたいという思惑だろう。が、試合の流れとすると水戸は勝手に攻め急いでおり、サイドの推進力どうこうで何とかなる状況ではない。すぐにロストしてひっくり返るので、ウチとするとより梨誉が殴りやすくなるシチュエーションが整った。

 71分、梨誉がパスカットすると、武田に倒されて自陣左サイドでFKを得る。中塩と城和が一定のテンポでパス交換をしていると、徐々に水戸のCMFが前に詰めてきた。さらに、逸る気持ちを抑えられず痺れを切らして永長が特攻を仕掛けてきたので、城和→風間→中塩の三角形で相手の矢印を折る。勝手にスペースをくれたので中塩は落ち着いて逆サイドにボールを展開。CMFは前に出ていて、尚且つ北川と内側に入ってきていた佐藤が最終ラインの背後に走っていたので、ライン間が完全に空洞化。誰もが見送るしかなかった中塩からのパスをフリーで受け取った岡本はスピードを緩めずにアタッキングサードに入る。一応長井が寄せに来たものの、縦しか切っていなかったので、岡本は平行のボールを入れる。これにファーから走り込んできた梨誉が合わせようとしたところ、戻りが遅くなって慌てて背後から足を出してきた武田に邪魔される。主審がホイッスルを鳴らしてペナルティスポットを指さす。逆転に向けての舞台は整った。
 PKのキッカーは梨誉。恐らくキッカーに決まっていたであろう佐藤も気前よく譲った。佐藤は紺色に染まったスタジアムの3方向を存分に煽る。梨誉はアマに背中を叩いて気合を入れてもらってからボールをセット。蹴る直前には口角が上がっていた。右足を思い切り振り抜いたショットは左ポストの内側を叩いてゴールネットを勢い良く揺らす。値千金の逆転ゴールを決めた梨誉はそのままゴール裏に走り咆哮。頼りになる漢だ。
 前半からDFラインの背後を突こうと動き出しを繰り返したことでDFラインは後ろに引っ張られ、岡本のフリーを生み出した。そこを見つけた中塩も素敵。岡本の持ち上がりとクロスのタイミングも完璧だったし、梨誉は足を振れば何かが起きる。

 リードした時点で15分+αが残っていたが、クローズの仕方は問題ない。得点直後からプレーが途切れるタイミングで大槻さんが選手を呼んで個別面談を実施。試合の進め方を明確にして共有。

 77分、梨誉が水戸の選手2枚の選手の無謀なタックルにもめげずに間を割って前進してFKを得る。佐藤のアウトスイングのボールに城和が合わせたが、枠を僅かに逸れる。城和はなかなかヘディングが決まらないので、お祓いに行きましょう。

 水戸は失点直後に投入した寺沼をターゲットにしようとする。ただ、ウチは当然想定内だし、その攻撃の精度がどの程度なものかも5月に知っている。アバウトに入れようとするなら、そもそもパスの供給源を断てば良い。北川と平松を筆頭にプレスを徹底。

 83分、佐藤→武、梨誉→彰人の2枚替え。彰人を右にして北川が左に。
 88分、岡本→畑尾、風間→内田で完全にクローズの作業。北川をRWBに置く5-4-1の形。武をLSHにして中盤の4枚をフラット気味に並べ、前田や新里がボールを持ったタイミングで中盤の1枚を押し出す。これによってボールホルダーに自由を与えず、尚且つ横幅もある程度カバーして脆さをなくした。

 最後は相手の外回りのパス回しを落ち着いて対処し、5分のアディショナルタイムを過ごす。寺沼への長いボールも畑尾が身体を寄せて何もさせず、櫛引がキャッチしたところでタイムアップ。6試合ぶりの勝点3を手にした。

雑感

 ようやく、ケーズスタでの初勝利。前節からの面でも、先制されたといった面でもリバウンドメンタリティを発揮して苦境を跳ね返した。

 守備面では先制点を与えてしまったが、20分以降は徐々にプレスが機能していった。水戸の前への勢いがどんどん尻すぼみになったことを差し引いても、前の選手たちのプレスバックが完璧に近かった。相手の攻撃のスタートから圧力を掛けることで、最終ラインでも危なげなく処理。

 オフェンスでは、ようやく流れから点を取った。常に足元で繋ぐことは止めないが、そこに固執するのではなく背後という選択肢があることを相手に意識させた。そうすることで、また足元でもボールを動かしやすくなるという好循環が生まれる。先制後の水戸のチームの意思統一の失敗により前線と中盤以下で意識の相違が生まれ、重心が中途半端に重くなった。これによって風間とアマが自由にボールを持つことができるし、横のスライドも遅いから竜士と佐藤でサイドでも前進が可能となった。
 試合後の監督インタビューでも言及されていたように、ミドルサードからの動かし方は発展途上だし、まだまだ伸びしろがある。

 ショッキングな敗戦から1週間でこれほどスペクタクルな試合をしてくれるのは見ている我々が勇気付けられる。残り3試合、1つ1つに真摯に向き合い取り組んだ先に、まだ見ぬ景色が広がっている。

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