有為多望 vs鹿児島 1-1

 新年明けましておめでとうございます。11月半ばに大分の地で2023シーズンを終え、そこからJ1やら昇格POやら天皇杯を他人事のように楽しんだ。新年はぬくぬくと代表戦を見てアジアカップへの期待を膨らませていた矢先に未曽有の事態に襲われる。件のアジアカップも諸々あって不完全燃焼に。早くリーグが開幕して鬱蒼とした気持ちを晴らしたいと思う一方、開幕したとて結局鬱蒼とした日々が待っているだけではないかという恐ろしい現実に目を背けたくもなる。

 序盤からコンスタントに勝点を重ね、クラブの掲げた目標を達成し、初めて残留を意識せずに戦い切った昨シーズン。秋口までPOの可能性も十分に有していたが、最後の最後に息切れ気味となり、最初で最後の連敗を喫した。最終盤の緊迫感ある試合でポイントを積むことの難しさをまざまざと痛感したのも事実。まだまだ上を目指すには小さくない差がある中で、クラブとしての可能性を切り拓くための2024シーズン。チームを支えた畑尾、成長著しい岡本らの移籍はあったが、大畑、船橋、藤村、和田といったJ3で輝きを見せた面々が加入。J2復帰の立役者の一人である髙澤とJ2の舞台で戦うことが5シーズン越しに叶うというのもエモーショナルではある。
 昨シーズンの躍進は過去のものであり、現時点では何の意味もなさない。大槻体制も集大成の3年目、自分たちのやるべきことを愚直に続けて上を目指す。

 開幕戦の相手はJ3から昇格してきた鹿児島。ウチのJ3初年度である2018年に対戦したが、そのシーズンに鹿児島は昇格。翌年、ウチと入れ替わるように降格したので、6シーズンぶりの久々の顔合わせ。J3で戦い方を磨いてきたチームが昇格直後のシーズンに飛躍するのは往々にして起こること。
 昨シーズン途中から就任しチームをJ2に導いた大島氏が今シーズンも指揮。五領、野嶽、中原、有田、藤本、端戸、米澤などのお馴染みの方々がいらっしゃる。藤本は開幕戦に滅法強いので怖い。勢いを持って挑んでくるのは間違いない。

 今シーズン何がしたいのか、何をしなければならないのか。開幕戦は決意表明の場となる。試合勘などの懸念事項はあるが、チームとしての大枠を示したいところ。


メンバー

 ウチのスタメンは昨シーズンのコアが残っており、新加入選手が2名加わる。RSBに大畑、前線に髙澤が入った。一方で、ベンチには船橋、藤村、和田、永長、佐川のニューカマーが5名入った。

 対する鹿児島は、井林、藤村、田中といったJ2での出場経験が多い新加入選手がスタメンに。ベンチにも大野、木村、外山、藤本といった顔馴染みの方々が構える。

前半

 試合前から降りしきる雨によりピッチがスリッピーになる中、鹿児島ボールでのキックオフ。立ち上がりはリスクを冒すことなく長めのボールを用いるのは両チームともに想定内。それでもウチはややビルドアップしたいという狙いは感じる。

 4分、ウチが最初に形を作る。左サイドでボールを繋ぎ、城和で作り直すところで身体の向きのフェイクで相手の間を通してアマに縦を刺す。アマは前を向き、大外の佐藤へ。佐藤はカットインを匂わせてDFを誘き寄せてから縦に急加速して抉り、右足でクロス。これにファーで髙澤が頭で合わせるも、枠を大きく逸れる。

 立ち上がり15分のポゼッションの39%という数字ほど保持されている印象はないが、ウチが効果的にボールを運べているとは言い難かった。ゴールキック時にウチは3CBがフラットに並ぶのに対し鹿児島はンドカを1枚置き、出口となるアマと風間のところに2列目の3枚を並べて封鎖してきた。でもって最初のうちは大畑がIH化して大外に佐藤という立ち位置だったが、最終ラインとSHの距離が遠く、尚且つその距離感を大畑で補完しきれずに手詰まりになった。左に関しても竜士が前に張って平松が1つ落ちるようにしてポイントになろうとしたが、サポートがなく単騎で挑むとなると分が悪く、前進はできず。

 ウチがプレスのトリガーを佐藤が担っていたことも影響してか、鹿児島は左から右へのボールの回しが多かった。藤村と山田が上手くビルドアップに加わって数的優位を簡単に作るので、竜士が二度追いのタスクを行う。
 また、五領が竜士の背後のスペースに立ってボールを引き出すのに対し、ウチは中塩がチャレンジするのか竜士がプレスバックするのか風間を押し出すのかといった判断を迫られる。加えて田中が右に流れてきたり渡邉がハーフスペースを走ってきたりと大分嫌らしい。特に渡邉は最初は大外のレーンに構えながら、五領に入るとアンダーラップしてくるので捕まえにくい。
 縦パスを入れられても平松や髙澤も守備意識がある程度あるので縦の圧縮を掛けて対処していったが、本来であればブロックの設定をもう少し前にしたいところか。マイナスのボール入れられてバイタルで相手がフリーになるという既視感満載のシーンが何回かあった。

 32分、鹿児島のチャンス。最終ラインで回しながら、戸根が内側に入っていた渡邉に楔を入れる。渡邉から田中へのパスはアマがカットするが渡邉が拾う。そのまま渡邉は左の米澤に展開。米澤はワンタッチでクロスを入れると、中央でンドカが合わせる。このヘディングは枠の上。
 外に追い込もうとしながらも中に刺されると、やはり対応が難しい。ボールホルダーへのチャレンジがやや遅れているのはこの場面以外でもあった。プレスを掛けて嵌めようとしたときに潰せずに前を向かれるのは避けたい。

 30分過ぎからは右サイドのローテーションが見られる。大畑が高い位置を取る回数も増えた。ただ、軸足が滑る可能性を考慮すると如何せんロングフィードが難しいシチュエーション、なかなかボールが供給されない。
 鹿児島はンドカをターゲットにして、その周りを田中が衛星的に動いている。否が応にもンドカでポイントを作れるので、ラインが上げにくい。

 41分、鹿児島左サイドのFK。田中の低く鋭いボールは髙澤が反応したが、これがゴール方向に飛んでいく。僅かに外れたが、肝を冷やす。
 その流れのCK。ショートで田中にボールが渡ると、左足で強烈のミドル。これは櫛引が弾くが、こぼれを米澤がボレー。ただ、ここも城和が頭でブロックして防ぐ。

 45+2分、ウチの右サイドからのFK。風間のアウトスイングのボールに酒井が合わせたが、GKの正面。

 鹿児島の方がゴールに近付く回数が多かったものの、スコアレスのまま折り返す。

後半

 後半開始からウチは平松→佐川、鹿児島も井林→岡本。佐川を頂点で使い、髙澤が1.5列目に。

 49分、左からのCK。風間のインスイングのボールにファーで走り込んだ大畑がヘッドで合わせるも、泉森の正面。

 佐川が投入されたことにより、前線でボールが収まるポイントができた。ボールを収めるだけでなく、少ないタッチ数でボールを散らせるのも魅力的。佐藤や髙澤が押し上がる時間を確保し、そこからサイドのスペースに解放させる。明らかにテンポアップし、ボールを前に運ぶ回数が増えた。
 また、プレスの掛け方も後半から変化を加え、竜士がプレスの先導役となり、左から追い込む形。GKに対しても竜士がそのまま圧力を掛け、ミスキックを誘発した。2CBにも佐川と髙澤がチェックしていたので、近場に逃げ道を作らせなかったことも大きい。

 56分、鹿児島に決定機。左サイドで運ぼうとして一度最終ラインで作り直す。と思いきや、藤村は左の野嶽を選択。野嶽→米澤→山口→藤村→山口→藤村と狭いスペースを突破して角を取る。3人目の動きで抜けた藤村は山口に戻すと、山口は米澤へ渡す。米澤は野嶽との綺麗なワンツーでPAに侵入すると、グラウンダーでラストパス。これにンドカが合わせたが酒井がブロック。セカンドを米澤が拾って今度は後方でフリーの田中へ。田中の巻こうとしたシュートはミートせず事なきを得る。
 藤村のゲームコントロールは金沢時代から苦労させられていたが、鹿児島のCMFが2枚ともボールサイドに寄って数的優位作ったのは印象的。シュートに至るまでに同一サイドで5人の選手が密集しており、ウチがアタックに行っても簡単に剥がされた。それと共に、緩急を付けながらオフザボールの動きを繰り返し、それに呼応するように少ないタッチで展開していくのは捕まえにくい。どんどん釣り出されるし、結局PA深くのスペースを取られているので、相手の狙い通りに近い。それでも最後の局面でブロックできているのはウチの強みであるものの、かなり危なかった。

 59分も鹿児島の決定機。右サイドでボールを回して一度失いかけるも渡邉がワンタッチで大外のスペースへボールを供給。藤村は五領のアンダーラップを囮にして、その1つ隣のレーンに走ってきた田中に渡し、自らもレーンを横切る。田中のファーへの柔らかいボールは中塩が弾き返すも、セカンドがフリーの米澤の元に転がる。十分すぎるほどの時間とスペースを得た米澤は右足で狙いすましたシュートを放つ。失点を覚悟したが、僅かに上に逸れていった。
 ここでも藤村。それと、時間差で五領と田中が同じ動きをするのは面白かった。スペースが空くのは当然だが、ウチが2枚目捕まえに行こうとすると、その分中が手薄になるのがジレンマ。藤村・山口・田中の3枚のモビリティを以てしての策ではあるが、これは厄介。

 62分、久々にウチがゴールに近付く。酒井から大畑に繋ぎ、大畑がワンタッチで落とすと、風間もそのまま最終ラインの裏に落とす。これに佐川が抜け出してフリーに。ただ、ボールがバウンドした際に濡れたピッチにやや勢いを奪われ、その分だけ佐川の1stタッチが外に流れてしまった。それでも強引に深く抉ってクロスを上げたが、相手の脚に当たる。ボールが宙に浮いた状態が続いたが、アマが左サイドで回収。絶妙なクロスを入れると、中に入っていた大畑が足を伸ばす。惜しくも届かなかったが、逆サイドのSBがクロスに反応するのは良い傾向。

 63分、ウチは2枚目のカード、竜士→惇希。逆足ウイングから順足縦突破ウイングへの交替で、相手の対応は間違いなく大変。

 66分、遂にその時が訪れる。佐藤が上手く身体を使って得た左サイド深くからのFK。佐藤の高精度のボールは前に出てきたGKの頭上を越す。その先に構えていた背番号8が角度のないところから頭で流し込み、先制に成功。
 苦しい状況でもセットプレーでこじ開けてきたのは昨シーズンから見られたが、今シーズン初ゴールがこの男だっていうのは感慨深いものがある。
『ボールってのはしぶとく諦めない奴の前に転がってくるもんなんだよ』っていう言葉の通り(GIANT KILLING #54より引用)。

 先制してもウチはやることは変わらないが、急いで攻めずにボールをコントロールしながら前に進めるようにはなった。対する鹿児島は当然ながら攻勢を強める中で、ンドカが身体を張ってキープする場面が増える。特にPA付近でDFに身体を預けながら強引でもポイントを作るので、その間に後ろからゴール方向に向けて選手が走り込んでくる。ノーファウルで対処するのは当たり前だが、事故が起きないように注意を払いながらウチは守る。ウチの陣内でボールが動く時間は長くなるが、冷静に対処していく。

 鹿児島は74分、野嶽→外山、ンドカ→藤本の2枚替え。更には78分、山口→鈴木。同点に追い付くべく変化を起こす。

 81分、鹿児島が試合を振り出しに戻す。ウチのビルドアップに対して鹿児島がパワー掛けて捕まえに来る。ウチはいなそうとしたが、アマのところに鈴木と藤本の2枚でサンドされてロスト。そのまま藤本が右足を振り抜いた。2019年には開幕戦で鹿島相手にドッピエッタを記録したストライカーは、流石の決定力を見せる。
 ロストをフィーチャーされるだろうが、相手を剥がすことを目指す以上この失点は仕方ない。これを恐れて簡単に蹴ったら何も意味をなさない。前半からゴールキック時のビルドアップ含めて危ないとの声は洩れていたが、それでもウチはこれを貫かねばならない。年数回はこういう失点があることも覚悟しているし織り込み済み。外にボールを逃がすタイミングはあったかもしれないが、もしここでアマが前を向ければ一気に相手のベクトル引っ繰り返せていたので、紙一重。

 85分、勝ち越しを目指してウチは髙澤→和田、佐藤→永長の2枚替え。

 88分、ウチにビッグチャンス。何度かクロスを上げては回収を繰り返し、アマから永長へ。永長は独特の間合いで相手に飛び込ませないようにしながら引き付け、中央の風間へ。風間はそのまま左の惇希に付ける。惇希は当然のように縦に仕掛けてライン際からファーへクロス。これは中に合わず跳ね返されるもアマが回収。アマのインスイングのクロスに佐川が数歩下がりながら合わせたが、これは泉森に防がれた。
 左右に振ってっていう展開は理想的だったし、何度もゴールに近付いた。佐川のヘディングもドンピシャに見えたが、バックステップを踏んだ分だけボールに勢いを伝えきれなかったか。

 90+2分、ウチのラストチャンス。右で永長が仕掛けるタイミングを窺い、中央の中塩に戻す。中塩は左の高い位置で張っていた惇希へ。惇希はクロスのフェイクから中塩にリターン。スペースを得た中塩はワンタッチでアーリークロスを入れると、ファーでフリーの永長がボレー。しかしこれは枠に飛ばせず。トラップできたのではっていう思いはあるが、惜しい。

 最後は攻勢を掛けていったものの、勝ち越すには至らず1-1で終了。

雑感

 上手くいった部分、改善が必要な部分があったが、それでも1ポイントを積んだことは評価できる点。初めの3試合はとやかく言う段階にないというのが鉄則。去年は開幕2試合ノーゴールだったので、セットプレーとはいえゴールが生まれたのはポジティブ。

 守備時はDFラインの統制は上手く取れていたが、押し込まれた時のブロックの敷く位置はどう考えるか。FW2枚も落ちてきてかなり圧縮している感じはしたが、あくまで中切り重視ってことなのか。この辺りはこれから積み上げる部分(だと思う)。失点はボールにあと数歩チャレンジしたかったといえ、不可抗力です、ええ。

 オフェンスについては45分で撒き餌して残りの45分で伏線回収って流れの継続。ボールの出し入れして喰い付き方見ていくってのは理に適っている。今シーズンはそこから、前半のうちにも仕留めていきたいよねってトライをすると理解している。まだここから。
 大畑のRSBもトライ&エラーで良くなっていくはず。IHでボールを引き出す際に、身体が外向きになって相手を背負うので、選択肢が佐藤か酒井しかなくなってしまう。これがオープンでボールを引き出せるようになると、一気に選択肢が広がるし、相手もビルドアップの出口の塞ぎ方に悩む。外に張らせてポイント作るのも策として勿論あるだろうし、佐藤とどういうローテーションしていくのかも注目。
 あと、佐川のスケール感はちょっと楽しみ。足元も結構ありそうで、簡単に叩ける。彼の経歴見れば納得する部分も多いし、去年JFKに叩き込まれた教えもありそう。
 そして、アマは今日も効いていた。プレスバックして奪ったシーンも多いし、セカンドも回収しまくった。あのロスト1つで信頼が揺らぐ訳はない。ただ、責任感の強い彼のことだ、この反省を糧により力強いプレーを見せてくれるはず。

 序盤は色々と試しながら徐々にギアを上げていきたい。が、次は大木氏率いる熊本という特異なチームとの対戦。平川がいなくなったとしても、捕まえにくいのは間違いない。現段階の積み上げでどこまで太刀打ちできるのか試金石となる。

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