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台湾原住民「高砂族」のこと、みなさんは知っていますか

令和の時代を迎え、近年日本との関係性を重視するお隣の台湾からも、蔡総統名で、今後の日台間の関係が良好でありますようにというコメントが、早速日本語でツイートされました。

現在はハイテク分野など日本と経済交流が深く、海外旅行先でも人気の台湾ですが、記事中で触れられているように、「台湾は1945年まで約50年間にわたって日本の統治下にあった歴史」がありました。その時代、日本の支配に反発して衝突を繰り返し、また第二次世界大戦中には日本の軍人・軍属として動員され悲惨な戦場へ送られた、台湾の山岳地帯などに住む原住民たち、当時の通称で「高砂族」と呼ばれた人々がいます。しかし現在の日本では、ほとんど知られていないのではないでしょうか。昨年出版された新書を読む機会があり、あわせて戦場から帰国した彼らを追ったルポルタージュも再読して紹介します。

右:「日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊」菊池一隆・著 平凡社新書 2018年左:「高砂族に捧げる」鈴木明・著 中央公論社 1976年

日本の台湾支配と、原住民との激しい抗争

日清戦争後1895年に台湾を手に入れた日本ですが、当時7種族、十数万人いたと言われる、台湾に福建人移住前から住む原住民たち(ちなみに中国語で先住民は「滅んでしまった民族」という意味で、台湾では使われていないそう)の支配にも乗り出します。しかし原住民の民族文化を重視せず、野蛮な「蛮人」と差別し過酷な労役も課すなどしたため、両者は頻繁に衝突しました。ついには1930年に大規模な日本への武装蜂起が発生し、日本軍によって千人以上の死者を出して鎮圧されました(「霧社事件」)。この事件は数年前に映画化され、台湾で大ヒットとなっています。

映画「サヨンの鐘」で高まった高砂族への関心

その後日本は、武力による強権的な政策をやや転換し、台湾原住民への日本語教育など、日本国民化をめざす融和政策に力を入れるようになりました。蛮人という蔑称の呼びかたから、戦争協力のためにも「高砂族」というネーミングが普及します。高砂族のことが日本国内でよく知られるようになったのには、戦前に台湾や日本で流行した「サヨンの鐘」という流行歌も寄与しています。戦地へ赴くことになった日本人教師を送ろうと、その荷物を持った少女が雨で増水した川へ落ち亡くなるという悲劇の歌は、哀切な曲調と、可憐な少女のイメージの歌詞から大ヒットし、1943年には当時の大女優、李香蘭主演で日本国内で映画にもなりました。

嵐吹きまく峯ふもと 流れ危うき丸木橋 渡るは誰ぞうるわし乙女 紅き唇ああサヨン (西条八十:作詞 古賀政男:作曲 「サヨンの鐘」より)

https://www.youtube.com/watch?v=LNos4tg78uE

戦争の勃発と、高砂族の動員

太平洋戦争の開始と共に、東南アジアや南方への進出をねらった日本軍は、不足する物資輸送や土木工事の人員を補うため、山地で育ち屈強な体格の高砂族に目をつけ、「高砂義勇隊」として志願や半ば強制的に、軍属やのちには兵士として戦場へ動員しました。高砂族の青年たちも、その当時は日本人と同じ軍国教育を受けていたこと、また戦場へ自分たちが赴くことで根強く残る民族差別を解消しようと、のべ数千人が激戦地のフィリピンやニューギニアへとおもむきました。熱帯植物の知識や狩猟に長じた高砂族の人々は、飢えや病いに苦しむ日本兵たちを助け、たくさんの命を救ったそうです。しかし連合軍の攻撃は激しさを極め、出征した高砂族の多くが再び台湾へ戻ることはありませんでした。

いまなお続く、戦後補償問題

ようやく悲惨な戦場から戻っても、戦場の経験者として中国大陸での国共内戦に送られ、さらには共産党軍の捕虜となって朝鮮戦争まで戦った話が本にには載っています。ジャングルに隠れて30年間日本の敗戦を知らず、ようやく発見されたスニヨンさんのことは、以前日本でも大きく報道されました。日本人でないのに戦争犯罪を問われ、死刑や懲役刑になった人も数多くいます。日本のおこした戦争に巻き込まれ、亡くなったり傷ついたり、大きく運命を狂わせた方々に対して、残念ながら日本政府が過去十分に尽くしてきたとは言えません。

高砂義勇隊で日本人として戦った方々が、日本国への補償を求めた裁判で、日本の裁判所は原告の補償請求は退けたものの、判決は戦後補償を怠ってきた日本国の道義上の責任を認めました。そして1988年には国会で、台湾人の元日本人兵士の戦死者・戦傷者に限って、1人あたり200万円の見舞金・弔慰金を支払う法律が成立しました。しかしこれは、あくまで見舞金であって、日本国民として戦場へ送った人々への「補償金」ではありません。昨今もアジアの諸国や民族との間で論争が続いている戦後補償問題は、台湾においてもなお解決出来ていないまま、現在に至っているのです。



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