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002.通勤定期券最後の日と閉ざされた場所

無職になることで、イヤと言うか、残念なことのひとつに通勤定期券が使えない、と言うことがある。今までだいたい大きな商業施設のある駅を経由して通勤していたので、休みの日も交通費は実質ゼロで出かけていたのが、これからは出かけるごとに、往復で1,000円弱くらいの出費が追加計上される。

会社を辞めるための節約で、100円、50円、10円をケチってきた身にとっては、ふらっと出かける度に交通費がかかるのは身を切られる辛さ、改札を通るたびに減っていくICOCAの残高に断腸の思いがしそう。通勤定期券がなくなると言うことは、目的もなしにぶらっと出かける機会が減る、行動範囲が狭まる、徒歩で行ける範囲で暮らすしかない、閉ざされた世界で暮らす人になる、と言う感覚。

久しぶりに「羊をめぐる冒険」を読み返した。文系の冒険。単行本は1982年に発行。

熱狂的ハルキストというわけではないですが、結構読んでる村上春樹。登場人物が「閉ざされた場所」に導かれて、一定期間過ごすシュチュエーションにとても魅力を感じていた。小説を読むたびに、主人公が、本や音楽やお酒や食料の十分にある隔離された清潔な部屋で、誰とも関わらず淡々と過ごしているのが羨ましかった(井戸はイヤだけど)。

通勤定期券の期日が迫ってくるのは、私の部屋から外界に繋がる暗い洞穴(ほらあな)がだんだんと縮小していって、ある日それが跡形もなくなくなって壁になるようなイメージ。四方を壁に囲まれて、進むことも戻ることもままならず、どこにも行けない思考停止状態。私もこれで閉ざされた場所の住人の仲間入りなのか。

そしてとうとう定期券が使える最後の日がやってきたので、どうしようか考えて、記念にランチに出かけることにした。例年は自炊でもよく使うのに、この冬は節約していてほとんど買わなかった牡蠣を食べに。

牡蠣と魚介のお店、京橋「ロビン」

オイスターバーなので、生牡蠣の入ったコースを頼みたかったけど、なんとなく免疫力が下がってそうなので断念。スープ、フォカッチャ、魚のカルパッチョ、焼き牡蠣、カキフライ、牡蠣のパスタのコースにした。1,880円+税でどれもとても美味しくて、スタッフさんもみなさん感じ良く、コスパも十分で満足。昼からシャンパン飲んでるお客さんもいて、楽しい雰囲気のお店だった。

すぐ帰るのも名残惜しく、雑貨屋さんなど冷やかす。特に何も買うものはないので、所在なげにぶらぶら見て回っていると、同様の雰囲気の女性発見。妊婦さんみたい。産休に入ったところで、まだ産まれないけど、平日の休みがもったい無いので買い物に出てきました的な。想像だけど。妊婦さんも子ども生まれたら、しばらく閉ざされた場所生活ですもんね。体力も消耗するだろうし。

閉ざされた場所暮らしに魅力は感じているけれど、私はムラカミ小説の主人公ではないので、ずっと閉ざされた場所にいても何も起こらず、ただ老けてゆくだけになりそうなので、時々は閉ざされた場所から外界へ出る洞穴が開くように、月の予算に交通費を計上することにした。
閉ざされた場所、時々開放、という世界になるわけだ。今度は生牡蠣食べようかな。

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