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新型コロナの誹謗中傷から見えてくる、「事実」と「評価」の勘違い


私たちはときどき「評価を”事実”であるかのように扱ってしまう」という誤りをおかすことがあります。


最近気になるのが「新型コロナに感染した人に嫌がらせをしたり罵詈雑言を吐く人がいる」というニュース。
また、県外ナンバーへの偏見や嫌がらせもあるらしいという情報もSNSなどインターネット上では散見されます。


嫌がらせをしたり偏見を持つ人は心の中で「新型コロナに罹った人は気の毒、応援したい」という気持ちよりも「新型コロナに罹るなんてケシカラン」という気持ちが強くなっているのかもしれません。(仮説)

「新型コロナに罹ったお前が悪い」
「自粛が求められるのに越境するお前が悪い」
「感染リスクがあるのに人と会うお前が悪い」

単純化するとそういう想いなのでしょうか。

そして、「悪い奴なんだから仕方がない」とリミッターを外されて行為に及びます。(”悪い”はときに”責任がある”とか”~のせいで”とか姿や形を変えますが、いずれも同じようなもの)


でも、一度冷静に考えるといいと思うんです。

「悪い」というのは評価であって「事実」ではありません。

新型コロナに罹った人も遠出をした人も人と会うような場を設定した人も、彼らが悪いという「事実」は存在しません。
存在するのは彼らを悪いと「評価する人」です。


「雨が降ってきたから傘をさそう」と言ったとき、「雨が降ってきた」は事実ですが、「500円は高いから雨に濡れるけど我慢しよう」と言ったとき、「500円は高い」は評価です。

ここで「500円は高いんだから、普通みんな我慢してダッシュで帰るでしょ」と言ったら、「いや、濡れる方が嫌だから、私だったら絶対買うよ」とと言う人が現れるはずです。

それはあくまで評価だから、他の人と共有できるとは限らないのです。


でも、「新型コロナに罹る人が悪いんだから非難されて当然」と言う人/思う人はどうでしょうか?
「新型コロナに罹る人が悪い」ということが自分自身の個人的な評価であることにどこまで自覚的でしょうか。それはみんなも共有する「常識」「共通認識」である、さらには「悪いに決まってる(=事実でしょ)」という感覚の人も少なくないのではないでしょうか。
「非難されても仕方がない」と表現の程度を和らげても、これは同じことです。


その自分自身の個人的な評価を根拠に、誹謗中傷などで人を傷つけ、移動や行動を妨げるなど他者の権利を制限することが、どこまで許されるのでしょうか?


繰返しますが新型コロナに罹る人が「悪い」「全責任がある」「ケシカラン」というのは、いずれも事実ではなく、あくまでそう感じる人の個人的な評価です。

私自身は、そう感じる人がいること自体は否定も非難もしません。
人は誰しも心の中で考えることの自由をもっています。

でも、
いや、だからこそ、
みんなも共有する「常識」「共通認識」である、さらには「悪いに決まってる(=事実でしょ)」という感覚をもって、あたかも多くの人の想いを背負っているかのように偽装して、新型コロナに罹る人や遠出をする人、飲食店で食事をする人やお店を開けている飲食店などを誹謗中傷する人に、私は嫌悪感を覚えるようです。

そこはやはり、たった一人で、自分の足で発信者としての場に立ち、自分の言葉で「一人称」で非難するのでなければ、非難する人自身が無責任で卑劣な情報発信者であると「評価」されることを覚悟する必要があると思うのです。



最後に、このテーマに関連して、いくつかの外部の情報をご紹介します。


7月29日まで唯一感染者が発生しなかった岩手県。
その岩手県で最初の感染者が確認されたときの岩手県知事の会見です。

新型コロナウイルス感染症というのは誰でもが感染する可能性があるということで、県民の皆さんも自分も感染する可能性があるのだと、改めてそういう思いで、感染した方には共感を持っていただきたい
(令和2年7月29日 岩手県知事・盛岡市長共同臨時記者会見記録)

Twitterなどでも話題になった会見ですが、特にこの「共感」という言葉は目を引きます。



8月21日のNHK「おはよう日本」で放送されて話題になったのは、新潟県見附市の「みつけマンガ」。

見附市公式レポーターの村上徹さんが描かれたマンガですが、見附市役所のアカウントでFacebookに投稿されてから大きな反響を呼んでいます。
投稿の中の村上さんのこの言葉もグッときます。

明日、自分が感染していないと自信を持って言える人は一人もいないからこそ互いを想い合う空気をまずは自分から創って行きたいと思います。



一方で、こんな調査も。

<意識(スティグマ)>
・「もし自分や家族がコロナになったら、そのことは秘密にしたい」と回答したのは、こどもの32%、保護者の29%でした。
・「コロナになった人とは、コロナが治っても付き合うのをためらう(あまり一緒には遊びたくない)」と回答したのは、こどもの22%、保護者の7%でした。
(第2回調査報告書「コロナ×こどもアンケート」)

こちらの調査では回答した子どもの32%が「自分や家族が新型コロナになったら、秘密にしたい」と回答したとのこと。
大人のやり取りを見聞きしてのことか、それ以前に子どもなりの感覚があるのか、恐らくその両方でしょう。「自分や家族が新型コロナに感染したら、何かよからぬことが起こる」と思っているということです。


◆      ◆      ◆


新型コロナに罹った人は、決して裁かれるべき人ではありません。

裁こうとするのは、全体の意見を代表していると勘違いした、たった一人の個人です。

自分がその個人にならないように、それが「事実」なのか「評価」なのか、見誤らないようにしたいですね。


そして、それは新型コロナに関することに限りませんよね。

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