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リーディングのための詩『東京2020』

いまだに「詩」とは何かよく解らず、頭を抱えておりますが、他に呼び名がないので詩と言っておきます。

「いとうせいこう is the poet」
によるイベント「Live Dub Jam Vol.2」のオープンマイク出演のために書いたものです。
バンドとのセッションであることを多少なりと考慮し、言葉の手触りを向上させたく、ド素人なりに「韻」なども意識しております。

せいこうさんリスペクトのあまり、不朽の名作『噂だけの世紀末』『東京ブロンクス』の世界観を受け継ぐような内容となりました。

なおパフォーマンスは3分間だったので、このnoteには当日読みきれなかった分も含めました。それっぽく言うならば「完全版」です。
※「2020」の読みはすべて「にーぜろにーぜろ」と統一。他の西暦も同様。

東京2020

2020と誰もが言う
「2020のために頑張る」
「2020へ向けて燃える」
「2020のために手をつなぐ」

新聞、テレビ、ネット、葉書
誰もが好きな2020
アポロ11号よりデカくてすごい
いざ参らん ネオ東京へ

2020 待ちわびた 競技場がついに完成する
2020 世界から 東京へ人が押し寄せる
2020 経済は 上を向き誰もが上を向き
2020 気づいたら 世界は平和になっていた

2020 観光客は 4000万人を突破した
2020 温室効果 ガスはどんどん減った
2020 管理職の女性は 30%を超えた
2020 10%の消費税は 正しく使われた

Windows7のサポートが終わり 鉄の塊がリサイクル場に
3人に1人が高齢者 若者は一所懸命に肩車 
センター試験は役目を終えた 火をつけ燃やして弔った 

電車にのる人はスマホしか見ない 降りる駅なんてわからない
政治家はスマホの代わりに紙を見た そして紙を燃やした

計画性ない 奴らの立てた 2020の目標は
夏休みの宿題 早めに終わらした 子どもに笑われた

計画性ない 奴らの立てた 2020の目標は
板門店でサプライズの 首脳会談した 2人に笑われた



そして2020は終わった 2021 東京はどこへ 
2021 めざす場所はない 東京はすでに燃え尽きた

1999 1999 1999 1999
2000 2000 2000 2000
世紀末は乗り越えたはずなのに
気づけばここは2021 今度はまるでここが世紀末

今度はまるでここが世紀末



やがて10年が経ち 2030

SDGsは達成された
老後2000万円もいらなくなった
世界から核はなくなった
男女の格差は解消された
学校の授業料はなくなった

あの競技場は荒れ果てた
世界は東京に愛想を尽かした
東京にゴールはなくなった
誰もが下を向いた

そして世界は平和なままだった
ただそこに一握り残ったままの
2020の燃えカスを
私はすくいあげて飲み干した

2019の人々の 汗と涙の結晶は
苦くて苦くて苦くて苦い
2020の燃えカスへ

「───私は東京で燃え尽きる
東京に生き 東京に死に 東京に墓標を突き立てて
すべて見届けて 仕舞いにゃ心中
あんたも同じだ この東京に
お命預けてみて頂戴」

(完)

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