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ハンズオブテイル

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の舞台は、近未来ディストピア社会。環境汚染によって不妊問題が深刻化。かつてのアメリカは、原理主義勢力によって乗っ取られ、ギレアドという名の全体主義的神政国家に姿を変えていた。そこでは、妊娠可能な女性たちは侍女として、上流階級の男性に文字通り身体を捧げなければならない。女性が「産む道具」とみなされるのだ。「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」では、アンタッチャブルなトピックを堂々と扱い、時に理解が追いつかない描写で観るもの全ての感情を激しく揺さぶる。

主演のエリザベス・モスは、本ドラマのジャンルを「非常に表現しがたい」と言う。「私が今まで見たり携わってきた作品とは、全く異なるトーンを醸し出す作品」であるゆえ、「この作品型にはめて説明することは非常に難しい」と述べる。それでも、エリザベス・モスほか、監督のリード・モラーノ、共演のアレクシス・ブレデル(オブグレン役)、プロデューサーのブルース・ミラーは、本ドラマを様々な角度から紹介してくれている。彼女らの言葉から分かることは、本ドラマは「絶望」ではなく、むしろ「希望」を描いた力強い作品であるという事実だ。
「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の世界観設計は巧みだ。確かに、紛れもなくダークではあるが、シーズンを通じて「重苦しさ」や「息苦しさ」を感じる瞬間は、思いのほか少ない。製作陣は、こうした世界観設計にとりわけ気を使ったという。「当初は、ドラマのダークな側面が全面に出てしまわないかが非常に気掛かりでした」と語るリード・モラーノによれば、「ドラマのエモーショナルな面を描く際の軸となるルール作り(次のディレクターへの説明のために)が一番大変」だったという。彼女らは、「ダーク」と「ヘヴィ」の境界線を明確に心得ており、その繊細な綱の上を、いとも危なげなく渡ってみせるのだ。このスタンスは、プロデューサーのブルース・ミラーの語るこだわりとも一貫する。「『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』のトーンは、原作の小説が醸し出す雰囲気の延長線上にあり、間違いなくダークな世界ですが、決してダークなドラマではありません。ドラマのテーマは希望と物事の見方です。それは望みを捨てずにいつか自分の人生を取り戻すということ。自分が置かれている環境が現実ではないと信じ、決して屈しないということです。
こうした発言からも分かるように、本ドラマはドス黒さ隠しきれない闇をテーマとしながらも、決して「鬱々しさ」「救いようのなさ」はことごとく感じさせない巧妙な仕上がりとなっている。もう少し具体的な説明に落とし込んでいこう。

根っからの悪人や狂人が存在しない

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」で女たちは、「赤いセンター」と呼ばれる訓練所に強制連行されると、人権と財産の全てを奪われ、「産む道具」として富裕層階級の屋敷に「派遣」される。エリザベス・モスが「抵抗を繰り返すも心をズタズタにされた彼女は、肉体的にも精神的にも限界を迎えて」いると紹介する本作の主人公ジューンは、この世界で本名を奪われ、「オブフレッド」と呼ばれる。お気づきのようにこの名は、所有の意味の「オブ(of)」を付けた…つまり「フレッドのもの」という意味。女性がモノ同然に扱われるショッキングな設定は、観る前こそさぞ悲痛感が支配するであろうと想像させられる。

それでも「ハンドメイズ・テイル」に精神力を消費しつくされることなく「ハマって」しまう魅力に大きく貢献していると思われるのが、本ドラマには根っからの悪人や狂人が目立って登場しないという点だ。
「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」では、誰もが全体主義の理不尽さを理解しており、その枠組の中で時に迷いや同情も見せながら、それぞれが必死に生きているのである。これは、「ドラマには前向きな場面も多く、実際、オブフレッドは助けの手を差し伸べてくれる人々に何度も遭遇します」と語るブルース・ミラーの、「人に意図して危害を加える人間は極稀です」という考えの現れだ。

これぞ、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」における大きなトピックのひとつである。劇中では、女性らが危害を加えられる場面や理不尽さに理解苦しむ場面がいくつか登場するが、それらは個人的な憎悪に駆り立てられているわけではなく、または「女同士のドロドロ」の産物とか、あるいはキャラクターが現実離れし過ぎている、というものでもなく、あくまでもギレアド共和国という全体主義が招いた悲劇として描かれている。実際、侍女らを”教育”する”おば”役リディアからは、葛藤の表情を度々読み取ることができる。「良い世界とは、すべての人にとって良い世界というわけではない」──主人公オブフレッドが仕えるウォーターフォード司令官のセリフは、こうした設定を凝縮したものだ。

希望と生命力

では、ダークな世界観の中に敵意なき人々が配されると、どのようなテーマが浮かび上がるか。ここに「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の最も重要なアイデンティティが見つかる。再びブルース・ミラーの言葉を借りてご紹介したい。

「『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』には支配、生物的性差別、女性蔑視、残虐行為など幅広く大きなテーマが織り込まれていますが、最大のテーマは希望と生命力です。それがストーリーの全てです。主人公が目指す最終地点は、この状況を生き抜き、娘と再会し、いわゆる普通の生活を取り戻すことです。」

主演のエリザベス・モスからは、道徳と政治が大きな関心ごととなる本ドラマにおいて「人に焦点を当てた作品にしたいと考えていた」という事実も伝えられている。また、「悲惨な場面ばかりが連続するだけの作品ではなく、見る者に希望をもたらすような作品」とも語っている。
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ブルースは「侍女たちが身にまとうドレスを全て手作業で製作しており、全て手縫いです。ケープやブーツだけでなく下着も全て手縫いです」と加える。「美しく優雅で官能的な衣装」が、倫理観の退廃した世界に絵画的に映える様は、本ドラマを唯一無二たらしめている。

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は、物議を醸す衝撃的な世界の中でも、「生きる」ために屈しない女性たちの力強い意志と希望、そして生命力を描く。原作者マーガレット・アトウッドが「なぜ、声をあげることができるうちに声をあげることが重要なのか、一票を投じることが可能なうちに投票をすることが如何に大切なのか、視聴者の皆さんに理解してもらえたらと思います」と意義を呼びかける一方で、心情を揺さぶるエモーショナルなドラマとしても感受し応えのある一作だ。ブルース・ミラーは「我々が創り上げた世界に生きる人の生きざまを見て欲しい」と、はやる気持ちを隠していない。最後まで深く噛

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