やさしい体重計


なんだかここのところ服がきつい。

洗濯すると縮んでしまうのだろうか?
お日様に干すとワンサイズ下がるのだろうか?
タンスに入れておくと服が硬くなるのだろうか?

どうやらどれも違うみたい。

だとしたら、どうして服がきつくなるんだろう?
しかも1着や2着じゃなく。



最近、体重計と話をしていなかった。
だって、あの子、優しすぎるんだもの。

でも、今日服が小さくなったことを
体重計に話してみた。
どうしてだかわかる?
何が原因だと思う?

体重計は、ちょっと困ったようなやさしい顔で
どうしてだろうね?不思議だね。
なんて言う。


ねぇ、久しぶりに乗ってみてもいいかな?
ひょっとしら
服が小さくなった理由
ひとつ思い当たるんだ。

体重計は
今日はやめておいたら、って言って
ほら、今日は満月だから、とか
観たいテレビドラマがある、とか
明日の朝早いから、とか
本当だか嘘だかわからないことを言ってくる。


えいっ!
それでも私は無理やり乗った。
体重計はひゃ!ちょっと待って!って
焦りながら、数字をぐるぐるさせる。


ぴた。
止まった数字を見る。
それは私がこんな数字だったらいいのにと
思っている数字で
でも、出るはずのない数字で。
2ヵ月前に乗った時より、小さな数字で。


や、ほら、私いま、あれだから…。
どぎまぎ言い訳みたいに言う体重計の
あれがなんなのかは、全然わからない。


なんだ、大丈夫だったのか。
体重計の優しさを無駄にしないために
見え透いた言葉を言ってしまう。



優しい体重計の私の傷つけないための嘘は
ぜんぜん優しくなんかない。
その嘘を取り繕うためについた私の嘘も
ぜんぜん優しくなんかない。

ぜんぜん優しくない二人が
優しくない嘘を持ち寄っている。

空気はしっとりと重くて
また少し、服がきつくなったみたい。

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