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永い季節の先のこと

社会人になってから、納期やらに追われていないときでも時間がないという感覚が常にあって、これ辞めたいなぁと思うものの実際人生は短いのでなんぼか生き急いだほうが丁度良いんでないのと思う。けれど洗面器に頭を突っ込まれては持ち上げてまた突っ込まれるような焦燥感が常にあるのはあまり精神衛生に良いとは言えない。それでも時折ふっと風が吹いた時に時間の流れがゆっくりになって、心臓の鼓動とか鳥の羽ばたきとか駆けていく子供の姿がスローモーションになる。全ての並行に続く命の繰り返しを肌で感じるときがあって、そういう安寧がずっと続けば良いのになとぼんやり思ったりする。最近はそういうことを考えてる。胡散臭いですね。

最近のこと、悲願の画集が発売されました。これは悲願と言って差し支えないと思う。古い作品であれば10年ほど前のものも混じっている。見返してぎゅっと目を閉じてひっくり返りそうになるのをぐっとこらえて、それでも今までずっと作品を見てきてくれた人と無言で思い出を語り合えるような本に、初めて会った人には押し付けがましくなく、いちから話しかけるような一冊になったと思う。本当にきれいな本に仕上げていただいた。

学生の頃、名古屋で貧乏学生をしていてバイトのない1日休みの日は矢場町のジュンク堂の美術コーナーに入り浸っていた。大きな書棚の横にスツールが置いてあって日がな1日画集や写真集を眺めた。当時はイラストの画集というのはまだまだ少なく中村佑介さんや小林系さんなど、特に有名な作家のものが数冊あるだけだったのを覚えている。それから10年の月日が経ち、今書店にはイラストレーターの画集が所狭しと並んでいる。たかだか10年の話であるがこれも小さな歴史で、今この瞬間は自分の本がその棚の最新のアイテムとなっているわけだ。感慨深いし、時間の流れを感じる。

イラストが音楽くらいのコンテンツになったらいいのになと様々なインタビューなどで答えている。何度も言っていたら言霊が宿ってちょっとした呪いにならないかなと繰り返しているのだけど、今の状況がもし僕の怨念によるものだとすれば大したものだと思う。それくらいイラストレーションは注目されつつあると肌で感じている。これから先の未来はきっと明るい。その光は今生きている我々が照らしていけたらなと思う。画集の最後にも似たような話を書いたっけ。

何本か書いたエッセイは日々思うことや見て感じている生活の質感、思い出などについて。10年経ったら枕に顔をうずめて叫びたくなるかもしれないけれど今はこれが精一杯なので、精一杯だったという記憶はきっといつか誇りに変わる。そう信じている。次の夢にエッセイ集を出すというのがあるのでどなたかエッセイのお仕事ください。絵に絡めてなんか…なんかを書きます。挿絵も描けるしね。

人生の目標というと大きく2つあった。画集と絵の先生になることだ。
今は31歳なので、この歳で大きく掲げていた夢が2つとも叶ってしまったことになる。当初はこれまでの全部が本にまとまってしまったら気が抜けてしまうかなと思っていた。このためにと継続していたわけではないけれど大体10年分の結晶が出来上がってしまうのだ。きっとやりきって、燃え尽きてしまうひとだっているだろう。けれど蓋を開けてみればなんてことはない、次のやることがあって、次の目標があった。ものすごく良い意味で何も変わらなかった。これには画集を制作するにあたっての最初の打ち合わせで編集さんが何気なく話してくれた言葉にも起因していたと思う。
「これまでの集大成という形ではなく、通過点としての画集を制作していただきたいと思っています」
これは目から鱗だった。画集なんて、そりゃ集大成じゃないかとずっと思っていた。けれどこの言葉で、一緒に編集作業を進めていく中でも”これが完成したら次は何をしようか”ということがずっと頭の片隅にあった。おかげで目標が目の前で萎んで消えていくのを呆然と眺めるような形にならなかったのだと思う。良い編集さんというのはこういう方なんだと、切実に思った。(今これを読んでる絵描き、パイインターナショナルさんは良いぞ…。)

そうして出来上がったのが画集「永い季節」です。タイトルの理由は秘密です。大好きなものと言いたいことと目標と、なんか色々混ざってます。結構厚いです。その割に金額はかわいいです。市場が大きくなるとリーズナブルになるのが良いところですね。帯が縦書きにサラッと書かれていてかっこいいです。初版は徹夜で描き下ろしたポストカードがつきます。あわよくば重版がかかって美味しいお酒が飲みたいと目論んでいます。ワンチャン1000年後も世界に残ってて欲しいなと思ってます。そんな本です。

というわけでどうかお手に取っていただけましたら。

https://pie.co.jp/book/i/5550/

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https://peing.net/ja/joze_phine_

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