孤独な日々と山口さん
専門学生のころ、どこか「孤独感」のようなものを感じていて、これの正体がずっとわからなかった。
当時の僕は、わりとマジメに勉強もして、毎日のように遊ぶ友人がいて、たのしい学生生活を送っているつもりだった。
なんだろうこの孤独感は。
そんなときに友人に誘われて、ロッキンジャパンというドデカイ夏フェスにいった。
バンドとかに無知だったので「生の楽器ってすごい大きい音だな、そのせいでちょっと歌が聞こえにくいな」とか思っていた。
「なんか知ってるバンドいないかな〜」と会場をふらふらしていると、サンボマスターがステージに上がっていくのが目に入った。
「あ、電車男の」
社会現象になったドラマの主題歌だ。さすがに知ってるぞ。ちょっと聴いてみよう。
ボーカルの山口さんが叫びはじめると、会場がどんどん沸いていく。
感情的で、でもやさしく寄り添うようなMCにすこしずつ心を動かされる。
「オレみたいなヤツでもさ、なんかできると思うんだよ。みんなもそうだろ?」
曲がはじまると、歌うというより吠えるに近い声で魂をぶつけてくる。それに負けないくらい観客も声を出す。音圧なのかなんなのか、身体中がしびれてくる。なんだこれは。
ほとんどが知らない曲だったけど、自分のなかの閉じ込めていた叫びを代弁してくれてるようで、胸の奥が熱くなってくる。
そして終盤に「衝動バケモノ」という曲がかかった。
言いたいことはそれだけかと
何度言われたことだろう
それだけじゃねぇよ本当は
すべてぶちまけたい孤独な日々を。
いまでも憶えてる。この歌詞を聴いた瞬間になんでかわからないけどボロボロと涙が流れてきた。
ああ、孤独だったんだな。見て見ぬふりしてたけど、もっと言いたいことがあったんだな。
勉強して友達もいて彼女もいて家族もいて。でも、なんか足りない気がして。
それはたぶん「もっと青春したい。したかった。このままマジメに大人になっていくのが嫌だ。でも時間は過ぎていくし、たぶんその未来になる。なんでみんな納得してるんだよ。抗えよ。抗おうよ一緒に。なんでだよ。」
そんな叫びで、それが孤独感の正体だった。
現状でじゅうぶん幸せだよ。って言い聞かせようとしてたんだと思う。本音を引きずり出してくれたのが山口さんの終盤枯れた声の、でもその日いちばん大きな叫びだった。
それからの僕は、友人たちと馬鹿な遊びをしたり、離島にひとり旅したり、ひみつきちみたいなBARをオープンしたり、いまでもそんなことばかりしている。
それに付き合ってくれる仲間もできて、いまなら孤独じゃないって言い切れる。
あのときの山口さんは、汗だくで声を枯らしても、全身で想いをぶつけてくれた。それがとても美しかったんだ。ああ、この人はいま楽しいんだろうなって。青春してるんだろうなって。ありがとうと同時に、羨ましさがあった。
だからいまこうして、僕なりの表現で、当時の気持ちを文字に起こしてる。だいすきな文章ってやつで、本音までさらけ出して。アンタみたいなヤツになりたくてさ。
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表紙とアナザーカットたち↓
⌇ 絵 えりちゃん(妻)
✎ 文 しみさん(夫)
夫婦で絵本をつくるのが夢です。
ほぼまいにち日記のようなエッセイを書いています。
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