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三浦しをんさんにハマった!

「明日、走れ」
学生時代のことだ。春休みだったと記憶しているが、唐突に兄から言われた。なんでも、駅伝大会にエントリーしたが、メンバーが1人足りないとのこと。渋々引き受け‥というか、考える間もなくメンバーにされた。

翌日、立川の昭和記念公園。1チーム4人、5㎞のコースを1人1周走る。私は第1走者。それまで長距離走の経験はゼロ。中学生の時、全校生徒のマラソン大会があり、毎年10㎞走らされたが、とにかく嫌だった。嬉々として走っていたのは陸上部かサッカー部だけ。それ以来である。
案の定、地獄が待ち受けていた。走っても走っても終わらない。短距離走は数十秒で終わるのに、長距離走は先が見えない。1㎞がどのくらいの距離なのか、どのくらいで走ればいいのか、そもそもわかっていなかった。いや、それ以前に私は、誰が見ても走るとは思えない腹をしている。その場にふさわしくない体型。足も痛いが、周囲の冷たい視線も痛い。拷問。生死にかかわる。兄を恨んだ。
ようやくゴールが見えた。襷を外す。ここだけはちょっと駅伝っぽい。いけてるランナーの気分。ところが、外した襷を次の走者に渡そうとしたら、待ち受けていたのは第3走者。あまりに私が遅いので、第3走者の人が、そろそろ自分の番と思って出て来ていたのだ。そのくらい遅かったということだ。同じチームのメンバーからも冷たい視線‥。

そんな自分も30歳を過ぎたころからジョギングを始めた。上司のしつこい誘いのせいだ。「マラソン大会に出よう」と何度も誘われ、そのたびにかわしてきたが、とうとう根負けした。時代が時代ならパワハラで訴えたかったが、争いごとが嫌いな私は「5㎞なら」と首を縦に振ってしまった。
兄に強制的に走らされたあの忌まわしい記憶があったので、その大会に向けてはあらかじめトレーニングをした。私も学習したのだ。といっても3ヶ月前から週1回、近所を4㎞走るだけ。とにかく無事に制限時間以内で完走できればいい。これをもって我が人生からマラソンの4文字を抹消するのだ。前に進むスポーツに対し、かなり後ろ向きの気持ちで臨んだ。
当日、5,000人ほどいる会場で、喫煙所には自分を含めて数人のみ。混み合った会場でそこだけ空いている。そう、私はそのころはまだ煙草を吸っていた。喫煙所の面々はみな、私と同様に「嫌々来ました」感をぷんぷん漂わせていて親近感を覚えた。
トレーニングの成果か、距離感、ペースもだいたいわかり、レースでは落ち着いて走ることができた。というか、思いもよらずテンションが上がった。会場だった西武ドームのグランドに立つことができ、沿道から声援が聞こえる、和太鼓の演奏もある。道路のど真ん中を走れる。なにより終わった後のビールがうまい!
走る前はあれだけ嫌がっていたのに、トレーニングをやめるのがもったいなくなった。普段「もったいない」連発の貧乏性の性格もこういう時は捨てがたい。なんとなく続けていたらいつの間にかフルマラソン、100㎞マラソンまで走るようになってしまった。煙草も何の苦も無くやめられた。

マラソンに興味をもったから、本もその分野のものを手にするようになる。その中に三浦しをんさんの「風が強く吹いている」があった。無名の学生ランナーが箱根駅伝を目指す青春小説。さあ、ここから私の熱い熱い感想が繰り広げられる‥‥ことはなく、その小説には「無名の学生ランナーが箱根駅伝を目指す青春小説」としか印象が無い。
そんな三浦しをんさんが最近、「マナーはいらない」という本を出した。小説の書き方についてということで、長いストーリーをどうやって考えているのか、気になって読んでみた。すると三浦しをんさん、おもしろすぎる!帯に「爆笑しをん節」とあったが、誇大広告ではなかった。難しいことを言いそうなふりをして、「二人称?めったに使わないからスルー」など、書くことについて気楽に考えられるようにしてくれ、ハードルが下がった。肝心の小説の書き方が頭に入らないという欠点はあるが、大笑いしながら読んだ。
そして、「マナーはいらない」があまりにおもしろかったので、日常を描いたエッセイ「のっけから失礼します」も買ってみた。こちら、さらに大爆笑!何が「のっけから」かと思ったら、のっけから下ネタでした。それから自虐ネタ。「出かける予定がなければ顔を洗わない」「自己最高の体重」など、作家=すごい人のイメージが崩壊して、ますますハードルが下がった。居酒屋で一緒に酒を飲んだらかなり楽しそうだ。作家=銀座のクラブのイメージは崩壊。作家=赤ちょうちんだ。

三浦しをんさん、次のエッセイも楽しみにしています。小説も読みます。コロナが収束した暁には、ぜひ一緒に飲みましょう!

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