河童業者の1日 2

朝6時、2階から親河童たちが降りてくる。めいめい着替えを済ませて、あくびをしながら階段をぺたりぺたりとやってくる。「おはよう」「きゅいっ」いつもの挨拶だ。舌があると言えども、人間のように言葉を持っているわけではない。だが、声の調子や微妙なイントネーションで、お互いに気持ちはわかる。河童たち、今朝はよく眠れて機嫌が良いようだ。

食堂に子河童、親河童が一堂に会する。食事を並べ、親河童たちに子河童たちの世話をまかせて、若河童の部屋に向かう。子供でもなく、大人でもない若河童、情緒が少し不安定だ。人間でいうなら思春期だろうか。そして、1度外で飼われて戻されたことに、傷ついている。

部屋に入ると、若河童は2人ともまだ眠っていた。1人は飼われた先で与えられた、河童のぬいぐるみを抱きしめ、もう片方は枕を抱きしめて目尻に涙を光らせていた。2人とも、引き取られた先の飼い主が亡くなったのだ。

子河童を求める人達の中には、裕福ながら子供に恵まれず、河童を子供かわりに引き取っていく例が多い。価格は高級外車くらいだが、富裕層にとってはさほど負担にならない金額なのだろう。ただ、高齢者であることが多く、亡くなったあと親族が引き取らなければ、うちに返されることになるのだ。

2人はとても可愛がられていたのだろう、その分傷も深い。私のことは覚えていたが、(もうお父さんお母さんに会えないの?)という悲痛な気持ちで見上げてきた瞳がいたたまれなかった。

もう少し寝かせておいてあげよう。まだ7時前だ。

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