見出し画像

路線バスで北部の漁港へ。白の世界もクリスマス

エーゲ海のパロス島の1日──。北海岸の漁港のまわりに広がった街、ナウサに行ってみることにした。事前に調べたとき、パロス島を代表する風景として、ナウサの白壁の街が登場してきた。パロス島では数少ない観光地がナウサの街だった。この街に泊ってみようか⋯⋯とも思ったが、ライブ配信などがあり、中心のパリキアに滞在した。しかしパリキアの街で、白壁迷路地区に出合ってしまった。白い街はナウサだけではなかったのだ。そこがパロス島のいいところだった。白壁の街を「景観保存地区」にして、住民もいないエリアにしているわけではなかった。島の人が暮らしていた。それでもナウサの街が気になった。

旅の期間:11月24日~11月26日

※価格等はすべて取材時のものです。



パロス島を移動するならバス。ただし本数は1時間に1本以下

(旅のデータ)

パロス島の公共の交通機関はバスのみ。パロス島の港に近いバスターミナルを基点に数路線がある。パリキアから空港、ナウサ、アンティパロス島という対岸の小島に渡るフェリー乗り場を結ぶ路線など。ただし本数は多くない。1時間に1本もない。切符は車内でも買うことができるが、少し高くなるので、バスターミナルの窓口やその横に1台ある自販機から乗る前に買っておいたほうがいい。ナウサまでは所要25分ほどで、1.8ユーロ、約232円だった。

切符を売ってくれる中年女性は、かなりの話好きらしい

sight 1

正面に見えるのは小屋ではありません。バスターミナル。なかには中年女性がひとりいて、切符を売ってくれます。運転手の休憩所も兼ねています。ただサイズがエーゲ海の島サイズ? ここでナウサまでの切符を買った。「往復を買いなさい。帰るときは、向こうに切符売り場がないから。バスのなかで買うとちょっと高い」。黒縁眼鏡の中年女性は、学校の先生の口調だった。

sight 2

最終日の朝もここにいた。空港までのバスに乗るつもりだった。切符を売ってくれる中年女性は、コーヒーカップを手にどこかに行ってしまった。10分、20分⋯⋯。戻ってこない。近くにいた運転手に相談した。「コーヒーショップで話し込んでいると思うよ。とにかく話が長いんだ」。そういって教えてくれたのが、隠すように置かれた切符の自販機だった。こういうものもあったんだ。島の時間がゆっくり流れていく。

ナウサの港から続く斜面を白い家が埋めていた

sight 3

ナウサ行きのバスは定刻に発車。車窓には乾いたギリシャの風景が広がった。ギリシャの田舎をバスで走ると、灌木の斜面が延々と続く。ギリシャの土地は、寂しくなるほど乾いている。そのなかにオリーブの畑。パロス島の山の斜面は、もっと乾いていた。灌木も少ない。人々の優しさに忘れそうになるが、島の自然はかなり厳しい?

sight 4

30分ほどでサナウに着いた。どちらが港なのかわからず、バス停前の道をくだる。僕には道がわからくなったとき、自分にいい聞かせる言葉がある。「目の前の坂をくだってはいけない。必ず坂道を登ること」。するとなぜは方向がわかってくる。しかしパリキアの白壁迷路(前号)では、その自我流法則が通用しなかった。でもナウサは港。坂道をくだって正解なんじゃない? と、こんな風景が見えてきた。港の斜面を白い家が埋めていた。

高校生が隠れタバコの漁港は、エーゲ海映画を思い出させる

sight 5

さらに坂道をくだると、港に出た。公園のようになっていた。パロス島の高校生がナウサの見学に来ていた。けっこう自由な校風なのか、皆、気の合った友だちと港を散策すしている。笑い声は明るいが、ちょっとうるさい。授業っぽい雰囲気はなにもなく、家陰ではやんちゃ組が隠れタバコ。日本の高校生を思い出してしまった。

sight 6

港に出た。パロス島で、はじめて観光地を見たような気分になった。漁港の前の広場にテラスが出され、サンドイッチにワインといった世界が広がっていた。数こそ少ないが、観光客の姿もあった。絵に描いたようなエーゲ海⋯⋯。港に泊まっているのが漁船というのも雰囲気がある。きっとシーズンには満席になるはず。

sight 7

で、港の漁船には渋い顔をした漁師。なんだかできすぎ? 映画のワンシーンを観ているような気分になる。そういえば2、3年前、飛行機の機内でエーゲ海がロケ地の映画を観た。なんだったっけ⋯⋯。気になって、船をつなぐコンクリート製の突起に座って検索。みつかりました。「旅するジーンズ 19歳の旅立ち」。すっきり気分でナウサを歩きはじめた。

振り返ると⋯⋯この眺め。エーゲ海に来たことを実感します

sight 8

ナウサの港から街の方向に歩きはじめる。と、最初の広場で足が止まった。エーゲ海⋯⋯とつい唸ってしまう白の世界。青空が白を引き立てる。オフシーズンで客はいないのか、店が休みなのか。ここでビールでも飲めたらなぁ⋯⋯と周囲を歩く。休業のようでした。しかたなく、勝手に椅子に座って港を眺めていました。

sight 9

ナウサは港だから坂が多い。その斜面に沿って家がぎっしりと建っている。途中まで登り、ふっと振り返ると⋯⋯この眺め。エーゲ海に来たことを実感します。パリキアの白壁迷路地区に比べると人が少ない。過疎化が進んでいるのだろうか。考えてみれば、ここは漁港。漁師が減っていくのは世界的な傾向。観光はその流れを止められない。

「ミロのヴィーナス」は、パロス島で採れた大理石でつくられているとか

sight 10

坂道を登り切り、ふっと視線をあげると、立派な教会が建っていた。パロス島の教会はシンプルホワイトが基調だろうか。観光客は必ず立ち寄るようだが、地元の高校生たちはまったく関心がない。この教会の脇にある雑貨屋にたむろしていた。まあ、どの国もそんなもんでしょうなぁ。

sight 11

教会の白壁、ホテルのテラスの白壁⋯⋯そこに窓枠のような窪みをつくり、白い石が2~3個。パロス島ではよく見た。「なんだろう」と目にするたびに首を傾げたが、島の人に訊くのを忘れてしまった。そういえばパロス島は大理石の産地。パリのルーブル美術館にある「ミロのヴィーナス」は、パロス島の大理石でつくられているとか。日本で話してもほとんどの人がわかってくれない豆知識。

新型コロナウイルスに揺れた1年もあと1ヵ月

sight 12

パロス島の中心、パリキアに戻った。夜はワインとギリシャサラダ⋯⋯。いつも通り、宿からの坂道をくだって海岸に出た。と、教会がライトアップされ、その前にイルミネーション。毎夜、ここを通っていたのだが。あと1ヵ月でクリスマス。そういうことかもしれなかった。新型コロナウイルスに揺れた1年もあと1ヵ月。つい、立ち止まってしまった。

sight 13

いつものレストランでギリシャワインをひと口。「ん? 汽笛?」。防風シートをあけて外に出てみると、フェリーが着岸しようとしていた。もしアテネ国際空港での乗り継ぎがうまくいかなかったら、このフェリーでパロス島に来たはず。しかしLCCの倍ほどの運賃。きっと乗客はすごく少ないはず。

sight 14

翌朝、バスで空港へ。運賃は1.8ユーロ、約232円。飛行機の出発時刻に合わせているようだが、接続がいいのは、ギリシャの大手航空会社のオリンピック航空。僕が乗るスカイ・エクスプレスはLCC。この空港で2時間待ち。こういう冷遇には慣れています。暇なので、改めて空港ターミナルを眺める。「島の空港だなぁ」とついひとりごと。

sight 15

チェックインカウンターはふたつ。僕が乗るスカイ・エクスプレスの搭乗手続きをすませた。ここでもワクチン接種証明書の提示。パロス島で、新型コロナウイルスの感染者が出たのだろうか⋯⋯。そんなことをふと思った。さて、アテネに向かう。半日ほどの滞在だが。

【次号予告】次回はアテネ。大雨に見舞われてしまいます。(1月14日は休載。1月21日公開予定)





新しい構造をめざしています。