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エーゲ海のパロス島でギリシャサラダとワイン。胸ポケットにはワクチン接種証明書

バンコクから本格的な世界一周旅がはじまった。イスタンブールでトランジット。そしてアテネ、エーゲ海のパロス島。ギリシャ入国時に、新型コロナウイルス感染の抜き打検査があるようだったが、スッと入国できた。もし検査になると、パロス島への飛行機に乗り継ぐことができなかった。薄氷を踏むような飛行機旅だった。

パロス島に渡ったのは、本の原稿を書くことも目的だったが、エーゲ海の島が昔から好きだったことも大きい。エーゲ海はリゾートに結びつくエリアだが、そこはバックパッカー気質の僕である。絵に描いたようなリゾートにはついていけない。僕が入っているのは、素朴とか田舎、静かといった言葉に通じる世界がエーゲ海の島にはあるからだ。そこに頑固も加えようか。もちろん物価も安くなくてはいけない。これまで何回かエーゲ海に島に足を運んでいるが、すべてオフシーズンというは、そんな理由があってのこと。

さて、パロス島──。はじめて訪ねる島だ。

どんな島の日々が待っているのだろうか。


旅の期間:11月23日~11月26日

※価格等はすべて取材時のものです。

パロス島の中心にある中級ホテルが1泊3600円ほどだった

(旅のデータ)

パロス島のホテルは、島の西側、東側、北側。島の西側はアテネからのフェリーが着く港周辺。パリキアと呼ばれる。東側はどちらかというと高級リゾートが多いだろうか。北側はナウサ漁港のまわりに広がる街に宿が点在する。僕は原稿やライブなどがあったので、中心のパリキアの宿にした。Siroco’s  Hotel。1泊28ユーロ。約3612円。パロス島では中級? 予約したのはもう少し狭い部屋だったが、オフシーズンだからと2階のテラスのついた広い部屋にしてくれた。山は見えるが、海は見えない。エーゲ海が見える宿になると5000円ほどからだろうか。

道に迷うことが楽しいパリキアの白壁迷路地区

sight 1

パロス島のパリキアに着いたのは昼前だった。シムカードを買いに港をめざし、白壁の世界に迷い込んでしまった。パロス島には、絵に描いたようなエーゲ海の島の色があった。用事も忘れ、路地をただ歩いてしまった。パロス島はこういう島だったんだ。道に迷うことが楽しい感覚⋯⋯久しぶりだった。

sight 2

わけもなく白壁の路地を歩くと、1軒のカフェ。その向こうにエーゲ海。この写真は撮っておかなくては⋯⋯とシャッターを押したが、それが珍しい風景ではないことを翌日には知らされていた。白壁迷路地区はパリキアの旧市街。こういう街で島の人々は暮らしていた。人が観光客を意識しない街に僕はうっとりする。それが本当の観光地だと思う。

宿のテラスで鶏の声を聞きながら抗原検査。コロナ禍の旅ですなぁ

sight 3

白壁迷路歩きに興奮して宿に戻った。オフシーズンで空いているから、と宿のオーナーは、広いベランダ付きの部屋にしてくれた。宿から見えるのは、海とは反対側の山だが。途中に農場があるのか、そこから鶏の鳴き声も響いてくる。これがいい。僕にとってのエーゲ海の島。それはギリシャの田舎。この感覚を昔から気に入っている。

sight 4

そうだ⋯⋯抗原検査。メモを見返す。バンコクに到着してから1週間がすぎていた。バンコクでPCR検査を受けたとき、抗原検査キットももらった。「1週間後に検査をしてください」。誰に報告するわけでもないのだが。30分ほどするとキットに青い線が1本浮き出てきた。陰性。エーゲ海の島でも検査。これがコロナ禍の旅。妙に納得。

古風な風車、小さな教会。僕のパリキア歩きの起点と終点でした

sight 5

宿から坂道を3分ほどくだるとエーゲ海の海岸に出る。そこにベンチがひとつ。パリキアの街のなかで、いちばん長い時間をすごしたのがこのベンチでした。冬のエーゲ海の天気は変わりやすい。明るい太陽が射し込んだかと思うと、ぱらぱらと雨が降ったりする。ジャンパーのフードをかぶり、ただ海を眺めていた。島の時間が流れていく。

sight 6

ベンチのある場所から海岸線に沿った道を5分ほど歩くと、パロス島の港に着く。アテネからのフェリーが1日2回着岸するのがこの港。そこに古風な風車があった。乾いた草で葺いた屋根が、港を飛び交うカモメやハトの休息場所。100年前? からずっと鳥たちが羽を休める場所だったのかもしれない。そんなことを考えてみる。

sight 7

風車から30秒ほど歩いたところにギリシャ正教の教会があった。白い壁に青いギリシャの国旗。教会は島のサイズで小さいが、しっかりギリシャカラーでまとまっています。教会のなかは無人。でもいつ入っても火が揺れ、ろうそくのにおいが漂っている。そこにたたずむと、島の静かな祈りが伝わってくる。いつも寡黙を強いられる。

sight 8

港と宿の間に広がる白壁迷路地区。ここで何回迷っただろうか。しだいに目印を覚えていく。この手のマークもそのひとつ。指がさす方向に歩くと……それでも迷う。夜はいつも港に近い店で松脂風味のワインを飲んでいた。帰り道。街灯の光にぼうーと映し出されるこの手のマーク。「ここは今日、3回通った」と迷路を歩きながらひとり呟く。

焼きたてチーズパイと熱いコーヒー。朝は毎日、この店だった

sight 9

パロス島には3泊した。2日目から朝食を買う店が決まった。それがこのベーカリー。バンコクから1日でパロス島に着いたから、やや時差ぼけ。早朝に目が覚めてしまう。このベーカリーは朝7時開店。宿から歩いて1分ほど。店内に入るとパンを焼くにおいに幸せな気分になる。そこで毎朝買ったもの? 次の写真で。

sight 10

パロス島でチーズパイに開眼した。温かいチーズが焼きたてのぱりぱりパイのなかに。僕好みです。そしてやや濃くて熱いアメリカンコーヒー。これで3・8ユーロ、約490円。ギリシャのよさは、パロス島のような田舎島でも、パンとコーヒーに満足できること。そして安いこと。英語がしっかり通じること。いい島です。

売店レベルでもワクチン接種証明。そこで叫びたくなる。請う、QRコード

sight 11


ここが宿から歩いて1分のスーパー。いや雑貨屋か。切り盛るのは、おばあさん。お世話になりました。水、電池、菓子⋯⋯。店内は薄暗いが、すぐに置かれている場所を教えてくれた。この店の前は、道路工事のおじさんたちのたまり場。どこかで買ったサンドイッチとコーヒーの昼食風景を毎日、目にした。この店ではなにも買っていないが、そういうことは気にしない。それが島です。きっと皆が顔見知り。

sight 12

港近くのテイクアウト専門店でサンドイッチを買って昼食にすることが多かった。売店のような店でも、ワクチン接種証明の提示が必要だった。それは島というか、田舎ということだろう。後日、アテネに出たが、客が多くて忙しく、チェックをしない店も少なくなかった。島は保守的だが、コロナ禍では安心できる。ただ、僕が出すのは紙の接種証明。じっと読み込んでもらわないとわからない。請う、QRコード!

観光客のいない静かな店でギリシャサラダとワイン。店の外は風が強い

sight 13

風が強い夜が多かった。背中をまるめ、ポケットに手を突っ込んで、海岸に並ぶレストランへ。胸ポケットには折りたたんだワクチン接種証明書。レストランレベルになると、接種証明のチェックは徹底している。オフシーズンで観光客は多くないが、閉まっている店はほとんどなかった。

sight 14

入った店は老夫婦が奥に座っている店だった。客は数人。といっても、全員が近所の人のようで、老夫婦を囲むようにワインを飲んだ入り、お茶を頼んだり。こういう雰囲気、嫌いじゃありません。店内には観光客向けのちょっと寂し気なギリシャ音楽とサッカー中継が一緒に流れていた。絵に描いたようなオフシーズンのエーゲ海。

sight 15

やっぱりこれ。ギリシャサラダ。切り餅のような形をした山羊のチーズと、立派なオリーブ、トマトやキュウリ⋯⋯。そこにオリーブオイル。そして松脂風味のギリシャワインとパン。サラダは夏のほうがおいしいのだろうが、畑の多いパロス島の風景が重なり、僕はもうこれで満足。そういう旅行者です。これで10ユーロ、約1290円。

【次号予告】次回はパロス島の北端、ナウサの街散歩を。(1月7日公開予定)





新しい構造をめざしています。