【必見の問題作、あなたはどう観る?】映画『オッペンハイマー』感想
3月29日、問題作『オッペンハイマー』がついに公開された。
原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材にした歴史映画だ。
監督は『TENET テネット』、『インターステラー』等の作品で日本でも多くのファンを持つクリストファー・ノーラン監督。
本作を「問題作」と書いたのには理由がある。
アカデミー賞7部門受賞という快挙を遂げながらも「原爆」を題材としたため、日本では公開が見送られたという経緯があるのだ。
ノーラン監督が原子爆弾の生みの親を題材にした映画を撮るというニュースが流れた時も日本でどういう扱いになるかが語られていた。
自分は「ノーラン監督の新作だし何だかんだいって公開されるだろう」と楽観的に考えていた。
それがいくら経っても公開されない。
時間が経つとともに公開されないという現実が実感を帯びてきた。
アメリカではDVDも発売されたのに日本ではソフト化や配信の知らせもない。
「まさかノーラン監督の作品でそんなことが…」と思っている時にビターズエンドさんが配給することを決めてくれて、この度日本でも劇場公開が決まったのだ。
※下にビターズ・エンドさんのコメントを挙げておきます。
ということで、公開初日の3月29日にイオンシネマ大高で観てまいりました。
時間帯は20時40分からの回。初日ということもあってか平日のレイトショーにも関わらず6割程度の客入り。自分の周りは10代のカップルの姿が目に付いた。
※これより以下は映画の内容に触れます。ネタバレはしてませんが気になる方はご注意ください。
率直な感想を言うと一本の映画として想像以上に面白かった。
3時間ほぼ会話劇。普通ならダレそうな内容なのに編集と音楽で引き付ける辺りはさすがノーラン。
音楽を担当したのは『TENET テネット』に引き続きルドウィグ・ゴランソン。作品ごとに多種多様な音楽を生み出してきたルドウィグだが、今作も素晴らしい。映像的見せ場が少ないということもあって音楽が特に際立っていた。
前評判通り、登場人物や当時の時代背景を知ってないと「?」になる場面も多い。ただそれでも見続けてしまうのだからやはり凄い。
日本だとどうしても「原爆」という題材が注目されがちだが、作品自体はオッペンハイマーの生き様に焦点を当てており、原爆はあくまで本作の要素の1つに留まっている。
それより第二次世界大戦に冷戦、赤狩りなど、本作はオッペンハイマーという個人を描くとともにアメリカの歴史を紐解いていく映画でもあると感じた。本作がアメリカでアカデミー賞7冠に興行収入10億ドルという大ヒットを記録したのはそういった理由もあるのだろう。
原爆の描写に関してはどう描いても賛否はあるのだろうけど、自分は誠実に感じた。過度に美化してなければ悲劇的でもない。
スパイク・リー監督が『オッペンハイマー』に対し広島・長崎の状況を描いていないって批判のニュースもあったが、ノーランの作風だとむしろ描かないのが普通だと思う(戦争映画であった『ダンケルク』でも肉体欠損の描写や血を流す描写は少なかった)。
また被爆で顔が焼けただれていく女性をノーランの娘が演じているという点にも注目したい。ノーランは実の娘を起用したことについて「もし究極に破壊的な力を作り出したなら、それは自分の近くにいる大切な存在も破壊してしまう」と語っている。こういう点にもノーランの意志を感じられるのだ。
※ちなみにBBC(イギリス公共放送)が『オッペンハイマー』公開に合わせ、広島の映画館でインタビューをした様子をおさめた動画。興味深かったので載せておきました。良ければどうぞ。
そして本作は役者陣の演技も素晴らしい。
オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーの演技も文句なしに素晴らしかったし"敵役"ともいえるストローズを演じたロバート・ダウニー・Jrも助演男優賞も納得の存在感と演技力。
ストローズの存在によって、オッペンハイマーの人物像も「苦悩する発明家」という人物像以上に掘り下げられてるように感じた。実際のところ、ロバートの本心は私たちには分からない。
後、『デューン 砂の惑星 PART2』を観たこともあってフローレンス・ピューのカメレオン俳優っぷりにも驚かされた。マット・デイモンやデイン・デハーンなど豪華役者陣が揃っているが、全員素晴らしかった。
期せずして世界を変える発明をしてしまった男の功罪。オッペンハイマーがプロメテウスならヘラクレスは誰だったのだろう。
観た人それぞれの感想が出てくる作品だと思う。観てない方は是非ともスクリーンで確かめて欲しい。
※参考記事
THE RIVER様の記事。ノーランが実の娘を起用したことについて語っています。
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