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【匂いの先に隠された真実がある】映画『ファイブ・デビルズ』の謎を考察する。

11月18日から公開している映画『ファイブ・デビルズ』

これはかなり奇妙な作品。まず設定が斬新というか奇抜。

主人公のヴィッキーは10歳の女の子。フレンチアルプスの小さな村で父と母の3人で暮らしている。

ヴィッキーは嗅覚が異常に優れている。何の匂いか正確に当てたり、目隠ししても匂いの元へたどり着くことができる。犬並み、それ以上かもしれない。

ヴィッキーは母親の匂いコレクションを作ってるくらいお母さんのことが大好き

物語はそんな彼女の一家に夫の妹を名乗る人物、ジュリアが訪れる所から始まる。ジュリアの来訪を巡り険悪な空気になる母と父。ヴィッキーもジュリアのことを不審に思う。

何故なら10歳の今日まで夫に妹がいたとこも知らされてなかったからだ。

そんな中、ヴィッキーが密かにジュリアの荷物を漁っていた時に、ある瓶を見つける。そして

その匂いを嗅いだことにより過去へタイムリープしてしまうのだ。


というのが物語の導入。

2021年製作/96分/G/フランス

「匂い」が物語の鍵になる作品というと『パフューム ある人殺しの物語』(2006)という作品が思い浮かぶけど、嗅覚って映画では表現できない部分だからこそ想像力が掻き立てられて面白い。

魅力的なのは斬新なSF設定だけじゃない。
題材も閉鎖的な村、不穏な来訪者、忌まわしい過去、イジメ、黒魔術…等々
物語を彩る様々な要素に暗く怪しく魅せられる。

こういう奇妙で怪しい作品大好き。

閉鎖的なコミュニティに登場人物たちのドロドロした関係性は少し横溝正史作品味も感じられてゾクゾクした。

この画もインパクト大

驚いたのは様々な要素が入り組んでいるのに上映時間が96分と2時間以内に収まっていること。

それでいて本作はスリラーだけでなくヴィッキーの心の成長を描いた物語でもあり、登場人物たちの愛の行方も描いた物語にもなっておりなかなかに凄い作品なのだ。

こんな奇妙で素晴らしい脚本を描いたのは『イスマエルの亡霊たち』(2017)、『パリ13区』(2021)などで脚本を手がけたフランスの新鋭レア・ミシウス。本作は監督デビュー作『アヴァ』(2017)に続いて撮りあげた長編2作目となる。

『ABA』も評判良いんだよなぁ。観たい作品の一つ。

さらに本作にはもう一つ仕掛けがある。

それは制作陣が意図的に考察・解釈の余地を持たせているということ。

登場人物たちは、感情を表に出すことは少ないし状況の説明描写や演出もほぼない。観終わった後は呆然としたし、誰かと語り合いたくなること必至だろう。

本作の魅力は脚本だけじゃない。その映像美にも惹きつけられる。

35mmフィルムで撮られた映像は格別。最近観た『グリーン・ナイト』の映像も美しかったが、本作のようなざらつきのある映像に色の組み合わせも「The フランス映画」で大好き。

映像の美しさもあって冒頭から映画の世界に引き込まれた。特に序盤のスイミングプールの青と消防署の赤の対比が鮮やかだったのが印象的。

この湖も目を見張るような美しさ。

キャスティングの素晴らしさにも触れておきたい。

主人公のヴィッキーを演じたサリー・ドラメは難しい役どころを見事に演じている。ジュリアを演じたスワラ・エマティの不気味な存在感が秀逸(フランスの歌手らしい)。

だが、何よりもジョアンヌを演じたアデル・エグザルコプロスの存在感の素晴らしさ。『アデル、ブルーは熱い色』でレア・セドゥとともに一躍その名を世界に知らしめたアデルだが、この人はやはり気だるげな色気が素晴らしい…スクリーンに出てると自然に目で追ってしまう魅力のある人だ。

本作は尖ってる内容だけに好き嫌いは分かれると思うが、怪しいもの好き&考察好きには刺さる部分も多いと思う。
気になる人は是非ともチェックして欲しい。

ラストの演出に関して様々な考察・解釈ができるので、ネタバレになるため下記に考察を挙げておいた。

12月6日の19:30の回、センチュリーシネマで鑑賞。観客は5人程。題材的になかなか人を選ぶか…


※以下は映画の詳細な内容に触れています。未鑑賞の方はネタバレにご注意ください。


【ネタバレ考察】

・ラストの少女は誰?

映画を観た人が一番気になるのは、やはりラストに唐突に登場する少女の存在。この少女について調べてみたが「これが正解!」という確信を持つにはいたらなかった。
なので、ここでは恐らくこうじゃないか?という可能性のある説を挙げていきたい。

第1の説:少女はもう1人いた?

筆者が最初に考えたのがこの説。
本作は「ジュリアが幼い頃からよく少女の幻影を見ていた⇒そのためジュリアはオカルト少女として周囲から距離を置かれる」という前提があった上で実はその少女はヴィッキーだったという展開になっているのだが、1つ疑問があった。

というのも、ジュリアはヴィッキーに会った時に「少女の正体=ヴィッキー」だということに気付かなかったのか?ということ。

これまで散々ジュリアを悩ませてきた少女。それだけに会った時に何かしら反応があっても良いのではないか?と思うのだが、ジュリアがヴィッキーに初対面した時は特に目立った反応はない。

なのでジュリアが見ていた少女はヴィッキーではない=別の少女がいるという風に推測できるのだ。

オカルトチックな作品だけにこの説の可能性を最初は考えていたのだが、パンフレットなどで監督のインタビューを読むとまた別の可能性が浮き上がってきた。
それが2つ目の説。

第2の説:少女はジミーとナディーヌの子供、もしくは将来のヴィッキーの子供?

これがもう一つの説。
というのもパンフレットを読むとレア監督は以下のように語っている。

「ファイブデビルズは遺伝についての物語です。最後のシーンが示すように、ジュリアとヴィッキーの持つ魔法の力は、女性から女性へと受け継がれていく」

本作のパンフレット。ビジュアルも良いし、監督インタビューも載っているので作品理解の助けになる!

わざわざ最後の場面に言及した上で本作は「遺伝の物語」と答えている。そう考えると、あの子供はヴィッキーの血縁者という可能性が非常に高いのである。

物語の結末からジュリアの子供という可能性はない。そうなるとジミーとナディーヌの間に生まれた子供という可能性が高い。
劇中のSEXで生まれたのか、物語のあの後に正式に男女の関係になったのかは分からないが、あの子は確かにヴィッキーに髪質も顔も似ている…

ただ、そうなると第1の説で述べた「ジョアンヌがヴィッキーに気付いていなかった」問題が浮上してくるが、こちらも別の可能性が考えられる。それが

ジュリアはヴィッキーの正体に気付いていた?

という可能性だ。よくよく考えるとジュリアがヴィッキーに会う前に、ジミーはジュリアに家族の絵葉書を送っている。

その時点でヴィッキーの正体には気づいていたのかもしれない。だからこそヴィッキーに会った時点では目立った態度はとらなかったのかもしれない。

ただ、ヴィッキーは自分の人生を狂わせた存在だ。許した訳でも怒りがない訳でもない。だからこそ怒りは溜まっていた。

そう思わせる場面がある。それがジュリアが自殺を試みる前に、ヴィッキーの部屋をメチャクチャにする場面。

この場面、ヴィッキーはその前にジュリアの部屋に悪臭の瓶を仕掛けているから、その仕返しにも思えるがそれでも子供のいたずら。あそこまで大人げないことをするのかな…という疑問が湧くのだ。

実はあの時、部屋をメチャクチャにしたのは今までのヴィッキーへの怒りもあったのかもしない。

後、ヴィッキーがジュリアの部屋への仕掛けについてシラを切る場面。ジュリアは「(隠しても)全部知ってる」という台詞を吐いている。この台詞もヴィッキーの正体があの少女と知っていたら意味深な台詞に聞こえないだろうか…

もしくは「遺伝の物語」ということで、将来的にヴィッキーの子供がヴィッキーと同じ特殊能力を手にし母親の過去を覗いてる…という可能性もある。

・その他の謎について

①あの瓶の中身は?

映画を振り返って疑問になったのが、ヴィッキーがタイムリープをするキッカケになったジュリアが持っていた瓶の中身。

あの中身はそもそもなんだったのか?
何かは分からないが、ヴィッキーが飛んだ過去がジュリアとジョアンヌの大切な思い出ということを考えると、2人にまつわる何かなのかもしれない。

上述した「遺伝の話」ということを踏まえるとジュリアがヴィッキーと同じく嗅覚が優れているんだろうなと推測できる
(入水前にヴィッキーのコレクションした瓶でジョアンヌとの思い出に浸っている)。

だからこそジュリアもヴィッキーみたいにジョアンヌに関わる何らかの匂いをコレクションし時に匂いを嗅いで思い出に浸っていたのかもしれない。

このカラオケの場面は劇中でもハイライト

②なぜ皆眠ったのか?

学校でいじめられているヴィッキー。匂いを嗅いでいる最中にいじめっ子たちに見つかってしまい瓶を開けられてしまう。

その途端、全員眠ってしまうのだ。特殊な能力があるヴィッキーが眠りにつくならともかく全員眠ってしまったのは何故なのだろう。

これは本当謎。考えられる可能性はヴィッキーが作っていた匂いがそういう効果がある匂いだったのかもしれないということだが…

カラスの死骸を煮ているから、どんな反応がおきても不思議ではない…

この謎について何かしら分かる方いたらコメントして頂けると嬉しいです。

ということで『ファイブ・デビルズ』、映画自体も面白かったが、その後に様々な解釈・考察ができてより面白かった!レア・ミシウス監督の次回作も楽しみ!


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