【狂気と笑いは紙一重】映画『首』感想
北野武監督の6年振りとなる新作映画『首』。
「本能寺の変」を題材に北野武が独自の解釈で描いた殺戮と笑いの散りばめられた歴史映画だ。
出演は北野武(ビートたけし名義)をはじめ西島秀俊、加瀬亮、浅野忠信、大森南朋、中村獅童、遠藤憲一ら豪華キャストが名を連ねている。
もうね、武の新作がまた見れるということ自体が嬉しい。
北野武って本当に魅力的な監督で『ソナチネ』や『HANA-BI』などのアート寄りの作品も素晴らしいのだが『アウトレイジ』シリーズなどのエンタメ系でも楽しませてくれた。
本作の『首』も撮影が行われていたのは知っていたが、事務所の退所を巡るゴタゴタなどでお蔵入りのままかと思っていた。だからこうして観れること自体を楽しみにしてた。
鑑賞したのは11月23日の勤労感謝の日。
場所は109シネマズ名古屋で10時20分の回で鑑賞。客入りは4割ほどだが思ったより多いという印象。やはりというか男性客が多かったな。
本作を一言で表すなら「コメディ色強めの戦国版アウトレイジ」。
暴力と笑いが散りばめられている。『アウトレイジ』のノリが好きな人なら今作も楽しめるんじゃないだろうか(ただし、グロ描写も多いので苦手な人はキツイかも)。
製作費に15億円を掛けているということもあり合戦シーンは想像以上の迫力。
「武の作品をIMAXで観る機会なんて二度とないだろうから観てみよう」くらいの気持ちでIMAXで観たのだが、結果的に正解だった。大きなスクリーンと大音響はそれだけで気持ちが良い。
豪華出演陣の吹っ切れた演技も観ているだけで楽しい。特に吹っ切れてるのが予告編でもお馴染みの加瀬亮演じる織田信長。恐ろしいまでの暴君っぷり。
ちょうど今年の初めに『レジェンド&バタフライ』を観たのだが、木村拓哉演じる織田信長と正反対なキャラクターになっていたのも面白い。
歴史映画の面白いところって、自分たちの知らない空白を想像で埋めれるところにあると思っている。
本作も時代考証で言えば突っ込みどころはあるのだろう(そもそも現代語で喋ってるし)が、そんなことは気にならない。
ただ、本作の「死が軽い」価値観観は当時を明確に捉えているようにも感じた。
キャッチコピーの「狂ってやがる」という言葉もその通りで、現代人の感覚から見ると全員狂気を帯びてるのだが、この時代では死が当たり前すぎてそもそもの価値観が違うのだと思う。
例えば「切腹」なんて今の時代からみたらあり得ないだろうけど、当時の時代では批判なんてできなかったし変だと思う発想すら湧かなかったのではないだろうか。
また歴史映画だけど、とことどころ現代を風刺しているようにも見えた。
信長の暴君っぷりやそれにひたすら従う秀吉たちの姿はブラック会社の社長と部下のようだし「転売」なんてまさしくそれ。
もしくは人間なんて昔からやってることは変わらないということなのかもしれない。
それにしても『アウトレイジ』シリーズのヤクザといい今作の侍といい、北野武は格好良いイメージの男組織を滑稽に撮るのが上手い。
北野監督自身、そういった組織に憧れというより「そんな格好良いもんじゃないよ」という風に見えてるんだろうなというメッセージにも思える。
ここ最近、ケリー・ライカート作品やフェリペ・ガルベスの映画など、これまでのジャンル映画を再解釈してる作品を観たばかりだったので、そうした作品との共通点も感じられた。
タイトルの「首」という名前の通り、秀吉、光秀、茂助、それぞれが首を望む者たちの運命が邂逅する。秀吉と光秀の「首」に対するスタンスにお互いの考えの違いが見えて印象的だった。
後、柴田理恵のキャスティングがナイス過ぎて笑ってしまう。観た人なら分かるはず(笑)
ということで『首』楽しかった!
北野監督、すでに次回作の構想もあるみたいなので新作も観たい。
※原作本。文庫版出てるし読んでみようかな。
※今作の信長像とは全く違うキャラクターの『レジェンド&バタフライ』も比較として見ると面白い。信長は本当色々擦られてるよね。
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