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【修羅の時代の愛の物語として】映画『レジェンド&バタフライ』感想

織田信長とその正室、濃姫の30年にわたる生涯を描いた映画『レジェンド&バタフライ』。

監督は『ミュージアム』や『るろうに剣心』シリーズの大友啓史。主演の信長役を木村拓哉、濃姫を綾瀬はるかが演じる。共演に伊藤英明、中谷美紀、北大路欣也、斎藤工、宮沢氷魚、市川染五郎ら豪華顔ぶれが並ぶ。

「信長」というと、これまで創作物で散々題材にされてきた人物だ。
ドラマから漫画、ゲームなど多岐にわたって様々な人物像が描かれてきた。そういう意味で本作はまた新しい信長像を作り上げたと言えるかもしれない。

何せ、この信長は格好ばかりの「本当のうつけ」として描かれている。反対に濃姫はたくましい切れ者として描かれ、信長は濃姫の影響を色濃く受けているという設定なのだ。

脚本を担当したのは『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの人気作を手掛けた古沢良太。

女性が表舞台に立てなかった時代において、濃姫が歴史の裏で活躍していたという解釈はとても現代的。また「素直じゃないけどデキるヤツ」という役柄が多かったキムタクが、本作のような「格好ばかりで中身がないヤツ」という役を演じるのも新鮮に感じる。

2023年製作/168分/PG12/日本

信長と濃姫、一見反りが合わない2人だが「どちらも意地っ張り」という点で共通している。会話や仕草が現代的なのが気になったが、こうした崩し方は時代劇に触れたことのない層にも共感しやすいようにしてのことだろう。

2人の初夜のやり取りなんかは、まるでコントを見ているかのようにコミカル。時代劇というよりはラブコメドラマのような雰囲気で物語は進んでいく。

この現代的な解釈は入り込みやすい反面、忠実な時代劇を期待した人は戸惑うかも

そんな軽い空気が一変するのは、城下町での殺戮シーン。
血塗れになった2人が初めて結ばれるという展開にも驚いたが(一緒に危ない橋を渡ったという体験や吊り橋効果に似たようなものがありそう)、人が突然殺されること、命の軽さにここは修羅の時代だということを改めて思い知らされた。

この場面や比叡山焼き討ちの場面といい、大友監督は、やはりバイオレンスな描写を撮っている方が惹きつけられる(演出もこうした場面の方が力が入っている気がする)。

描写という点で言うと、本作には明確な不満点がある。劇中で本格的な合戦シーンが一切描かれないのだ。

恋愛劇に重きを置いたのか、予算の関係かは分からないが、セットの作りこみが素晴らしいだけに合戦シーンがないのは残念。

これだけの予算で、大友監督が合戦シーンを撮っていたらさぞかし迫力のあるものが観れたに違いない。東映70周年作品で戦国時代が舞台なら合戦シーンは一つくらいは入れて欲しかった。

桶狭間と事後しか描かれないんだよね。この写真見ても分かる通り、作りこみは本当素晴らしいだけに合戦シーンは観たかった。

前半が軽めな雰囲気だったのに対し、京を目指してから空気はどんどん重くシリアスなものに変わっていく。

信長の人格が度重なる戦によって変貌していったという解釈も合理的。
信長の生涯を描こうとするなら非道な行いを描くことは避けられない。戦で精神を疲弊し病んでいく姿からは、従来の強い信長像ではなく私たちと同じ1人の人間としての姿が垣間見える。

そんな「闇落ち」してしまった信長の心を救うのは濃姫だ。意地らしい2人はどこまでも素直じゃないが互いが互いを求め合う。そして最後の最後で信長も素直な心情を告白する。

2人の愛の物語が主軸となっているが、貞家の濃姫の献身的な愛や、光秀の信長への歪んだ愛情など、物語の根底には様々な形の愛がある。

特に新たな解釈で描かれた明智光秀は、その歪んだ性格含めて劇中一好きなキャラクターになった。
主君に激しい憧れを抱き、その期待が裏切られたと思うや否や反旗を翻すという極端な性格はヤンデレのよう。敵将の頭蓋骨を酒瓶にするという厨二病な性格も好き(自分のことを魔王と名乗る信長と相性は良いんだろう)。

光秀を演じた役者さん誰だろう?と思ったら今話題の宮沢氷魚さんだったとは。今まで意識してこなかった役者さんだが、これからの活躍を想像させる素晴らしい存在感を放っていた。

『エゴイスト』未見だけど気になるな…

主演2人の熱演もあって168分という長尺でもスクリーンから目を離す時はなかった。
今回、新しい役柄に挑戦したキムタクは、東映映画初主演ということもあって気合充分。少年時代からその生涯を終えるまで一人で演じているのに違和感がないのも凄い。今作を観てキムタクは時代劇が合ってると思ったのだがどうだろう。

濃姫を演じた綾瀬はるかもキムタクに負けず劣らずの熱演だ。個人的には城下町でのアクションのキレっぷりに惚れた。主演2人以外はキャストを知らない状態で観たので、エンドロールで初めて斎藤工の出演を知って驚いた。あれは分からない(笑)

不満点もあるものの、70周年記念というだけあって間違いなく力作だ。興行収入が良くないというニュースも目にするが、見応えは充分だし、大作邦画という点でもっと多くの人に触れて欲しいと思うのだ。

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