新年最初の映画感想の記事はこちら『ショーイング・アップ』の感想を。

「新年最初」とあるが今年最初に観た作品ではない。
2023年に感想を挙げきれてなかった作品の1本だ(ちなみに後3作品挙げれてない映画があります)。

監督はアメリカインディーズ映画で有名なケリー・ライカート。
奇しくも現在公開中の『ファースト・カウ』と公開時期が被ってるけど製作された時期は離れている。
日本での公開にタイムラグがあったことで時期が重なったということだろう。

また『ファースト・カウ』と違い本作は『A24の知られざる映画たち』のプログラムの一本として上映されている。

大好きなライカートの最新作、プログラムが発表された時から楽しみにしてた1本。2023年の年納めの作品として決めていた。

12月29日に愛知のセンチュリーシネマで観たが、観客の多くが大学生くらいの20代の男性が多かったのが印象的だった。そういえば伏見ミリオン座で『ファースト・カウ』を観た時も若い女性客が多かった。

正直、ケリーライカートの作品は若い人が好みそうな作風ではないから不思議。どちらもA24が絡んでる作品だからかな？

さて、そんな公開時期の被った2作品、自分には対照的に感じられた。
美しいお伽話的な物語だった『ファースト・カウ』のに対し本作は心にグサグサくる。

特に本作は陰キャにはかなり共感できる話なんじゃないだろうか？

※「ケリー・ライカートって何者？」という人は、以前紹介記事を挙げたのでそちらもよかったらどうぞ。

舞台は現代のオレゴン。美術大学に勤務しつつ自身も彫刻家として活動するリジーは自分の個展準備で忙しい。本当は個展に集中したい時期なのに、隣人の同級生ジョーの存在や家族のことで集中力が削がれてしまい…といった話。

主演は『ウェンディ＆ルーシー』、『ミークス・カットオフ』とこれまでもケリー・ライカートと組んできたミシェル・ウィリアムズ。

ちなみにミシェル・ウィリアムズは、ライカートの『オールド・ジョイ』に惚れ込み自らアプローチしたという経緯がある。

とにかくリジーの環境はストレスが溜まる。

いつまで経ってもお湯の出ない部屋、少し見ない間にヤバくなってる兄貴、失礼な同居人を平気で住まわす父親、行動が気に障る同級生…観てるこちらのフラストレーションも溜まってくる。

特にアパートのオーナーであり同級生でもあるジョーとの対比はなかなかキツい。
才気溢れる人物で生きるのが器用なジョー(少なくとも映画内ではそう見える)との関係はまさに陽キャと陰キャの対比となっている。

表立って態度には出さないが、リジーの行動を映した場面からはそうした羨望や嫉妬の感情が渦巻いているのが読み取れる。

では、フラストレーションを溜め込んだリジーが怒りを爆発させる話なのか思うとそういう訳でもない。

彼女の怒りが最高潮に達してもせいぜい留守番メッセージに文句を残すぐらいが関の山。しかもそれすらも華麗に言い返されて、花壇の花をむしるのだがその姿がまた情けない…

これ自分もそうだから分かるんだけど、本当の陰キャはドラマや映画みたいに怒りを爆発させることもできないのだ。

リジーを演じたミシェル・ウィリアムズの演技は素晴らしい。佇まいとか歩き方とか本当の陰キャっぽい。

終盤の個展が開催される場面は観てる場面はイライラ度MAX。女好きなを発揮する父親にチーズばかり食べる兄貴、家族が勢ぞろいしたものの最高に気まずい場面。

なんだけどそこから一転。
それまでの展開が信じれられないくらい、この映画は美しくて爽やかな終わり方をする。劇場で観て自然と鳥肌が立ってしまった。

物語のキーになってる「鳩」の使い方が見事。
『ファースト・カウ』とそうだったんだけど、この作品も終わらせ方が素晴らしく良かった。

ケリー・ライカート、自分の中でアキ・カウリスマキと同じくらい好きな監督になりつつある。

後、リジーが路上でゴミ漁りしてる時に、スケボー少年が画面を横切る場面が画になるくらい良かった。

『ショーイング・アップ』は現在も『A24の知られざる映画たち』にて公開中。また1月29日からU-NEXTで配信が始まるとのことなので気になる方はチェックしてみては。