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ヒーロー映画好きにこそ『ミスターガラス』をお薦めしたい【シャマラン版アベンジャーズ】

ここ数年、ヒーロー映画が人気だ。MARVEL映画の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、全米興行収入歴代3位、全世界興行収入歴代6位を記録し、DC映画の『ザ・バットマン』もパンデミック期間中に公開された作品の中で全世界興行収入4位となり、配給しているワーナーブラザーズではパンデミック以降の最大の大ヒット作品となっている。

5月4日に公開予定の『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』
も大ヒットが予想されている。

もはや現代のハリウッドを象徴するかのような存在ともいえる「ヒーロー映画」。特に最近では、ヒーロー単体ではなく、他のヒーロー映画からのキャラクターがクロスオーバーするシリーズが人気となっている。

【クロスオーバーを取り入れてる映画シリーズ】
①MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)
:マーベル・コミックを原作とした実写作品を同一の世界観のクロスオーバーとして扱う作品群。(『アイアンマン』、『アベンジャーズ』など)

②DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース):DCコミックスを原作とした実写作品を同一の世界観のクロスオーバーとして扱う作品群。(『マン・オブ・スティール』、『ジャスティス・リーグ』など)

③ SSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース):ソニー・ピクチャーズが主導するスパイダーマン映画の総称。(『ヴェノム』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』など)

※他にも『GODZILA ゴジラ』などの怪獣映画によるモンスター・ヴァース
や、計画は頓挫したが『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』などのダーク・ユニバースシリーズと、アメコミ映画に限らずクロスオーバー作品は多く計画されている。

通常であれば、こうしたクロスオーバーシリーズは大勢の人によって作り出されるものだが、その中でも一人の映画監督が生み出したクロスオーバーシリーズがあるのを知っているだろうか?

その監督の名前はM・ナイト・シャマラン。世界にその名を知らしめた『シックス・センス』(1999)をはじめ、『サイン』(2002)、『ヴィジット』(2015)など、観る者を驚かす奇抜な設定とストーリーで知られる監督だ。

M・ナイト・シャマランが監督した作品の一例。
映画好きなら、一度は監督作品を観たことがあるのでは?

彼は2001年に公開された『アンブレイカブル』から2017年の『スプリット』、そして2019年の『ミスターガラス』と3部作のヒーロー譚を生み出し世間を驚かした。

前置きが長くなったが、今回の記事では『ミスターガラス』を始めとするシャマラン版アベンジャーズこと『シャマランユニバース』(勝手に命名。正式名称ではない)を紹介したい。

ヒーロー映画が好きな人こそ、この機会にシャマランユニバースに触れ『ミスターガラス』を是非観て欲しい。

2019年製作/129分/G/アメリカ

【本作はシャマラン流の新しいヒーロー映画】

『ミスターガラス』は、シリーズの1,2作目にあたる『アンブレイカブル』、『スプリット』に登場した特殊能力者達が捕らえられ、精神病院に収容されるところから始まる。彼等の能力は、精神疾患の一つとして捉えられ、特殊能力は思い込みからくるものだとして治療をさせられる。

本作が他のヒーロー作品と異なるのは「ヒーロー作品へのアンチテーゼ」という視点で物語が展開される点。これまでに多数のヒーロー映画が世に輩出されているが、この斜に構えた始まり方は、いかにもシャマラン監督の作品らしい。

紫・黄色・緑とそれぞれカラーが定まってる辺りもヒーロー映画っぽい

では、本作はヒーローの存在を否定する作品なのか?と思って観てると、そこはシャマラン監督。これまでの作品でも観客の予想を裏切る展開を見せてくれたが、今作でもその作風は健在。観客の予想を上回るような展開と、胸を熱くさせるような物語が繰り広げられる。

ヒーロー映画は既に飽和状態にあるが、その中でも本作の立ち位置は異端、ヒーローの解釈に関しては先見性すらあると感じられる。

本作の魅力は、何といっても「ミスターガラス」ことイライジャ・プライスのキャラクター。イライジャは、些細なことでも骨折してしまう特異な体質のため、戦闘はおろか満足に動くこともできない。そんなキャラクターが己の頭脳のみで困難に立ち向かい、状況を打破していく。その姿が格好良い。

タイトルが『ミスターガラス』(原題はGlass)になっている意味も観ていたら、「なるほど」となることだろう。

どの作品でも、圧倒的不利な状況に立ち向かうキャラクターの姿は胸が熱くなる。

『アンブレイカブル』、『スプリット』の伏線も脚本に練り込んでて、とある場面では思わず唸ってしまった。正直、シャマラン監督は作品のクオリティにバラつきがあるが、本作は、その中でも特に素晴らしい出来だと思う。

【シャマランユニバースは他のユニバース作品と比べて敷居が低い】

物語が素晴らしいというのが、シャマランユニバースをお薦めする一番の理由だが、他にもお薦めしたい点がある。その一つが敷居の低さ。

MCUやDCEU、どちらのシリーズでもネックとなっているのが、新規参入のハードルが高いこと。DCEUでは数作品をMCUにいたってはDisney+による配信ドラマもあるため、全て把握しようとすると30を超える作品を観なくてはいけない。

MCUに興味が湧いても、作品の多さに躊躇している人も少なくないだろう。だが、上述したようにシャマランユニバースは全て合わせて3作品。興味を持ったら、すぐに手を出せるくらい気軽なのが良い。

このポスター3枚を見て気付いたが、全てガラスにひび割れてるというデザインで共通しているのが凄い

さらに、一つ一つの作品のクオリティが素晴らしく、ヒーロー映画らしからぬ切り口の物語が展開するという点もお薦めしたい。例えば『アンブレイカブル』なら「百人以上の死者を出した列車衝突事故で、たった1人生還した男、生き残ったのは何故?」という出だしからインパクトがあるし、『スピリット』は「女子高生達が見ず知らずの男に拉致監禁されるが、その男は23もの人格を宿す男だった」と導入部から興味を引きつけられるだろう。

他の作品にもいえることだが、観客の興味を引き付ける点においてはシャマラン監督はトップクラスの才能を持つ監督だと思う。

アメコミ映画のノリを期待すると肩透かしを喰らうかも。
特に『スプリット』はヴィラン誕生物語のような雰囲気に近い。

豪華キャストの共演も見逃せない。先日、俳優業の引退を発表したブルース・ウィリスをはじめ、MCUのアベンジャーズシリーズでもニック・フューリーを演じているサミュエル・L・ジャクソンジェームズ・マカボイと早々たる面子が集結している。メインキャストの3人が共演してるだけでも胸がワクワクさせられる。
特にジェームズ・マカボイは改めてその演技力の凄さに魅せられた。

更に『スプリット』、『ミスターガラス』にはブレイク前のアニャ・テイラー・ジョイが出演していることも見所の一つとしてお薦めしたい。

『スプリット』のアニャ・テイラー・ジョイは本当可愛い。
『ミスターガラス』での出演時間が少ないのが残念。
シャマランユニバースの魅力をまとめるとこんな感じ

ということでいかがだっただろうか。今回の記事を読んで『ミスターガラス』に興味を持った人は是非チェックして見て欲しい。

【シャマランが『ミスターガラス』を製作するに至った経緯】

このシャマランユニバース、凄いのが18年越しの壮大なプロジェクトになっているということ。『ミスターガラス』の話を知った当初は、流行りのMCU人気にあやかったのかと思ったが、シャマラン監督自身は『アンブレイカブル』を製作した時から、このシリーズを構想していたらしい(当時のメイキング動画でその旨の話をしている)

だが『アンブレイカブル』の興行収入が芳しくなかったことから、この企画はいったんは頓挫。その後、2017年に『スプリット』が公開されるまで、実に16年もの歳月を待たなければいけなくなる。

ケビン・ウェンデル・クラムは元々『アンブレイカブル』に登場する予定だったらしい。
『スプリット』は~

続編の製作に当たっては『アンブレイカブル』と『スプリット』で配給会社が異なるという問題が存在していたが、こちらも条件付きで解決。こうして、実に18年もの歳月を費やして3部作を完結させたのだ。

その甲斐もあってか『ミスターガラス』は、北米で3週連続で1位を記録するという快挙を遂げている。1人の監督、長年を掛けてシリーズを完結させる。この執念ともいえる情熱が感慨深い。

『ミスターガラス』のRotten Tomatoesの評価。
興行成績に反し、批評家、一般客どちらも芳しくない。個人的には傑作だと思うが。

最近『アルマゲドン』(1998)、『トランスフォーマー』シリーズで知られるマイケル・ベイ監督が、インタビューでスーパーヒーロー映画について聞かれた時に『何かのシリーズものではなく、やるなら自分でやりたい』と答えていた。
本シリーズのような製作経緯を知ると、個性が強い監督こそ1人で作りたがるものなのかもしれないとも思う。

『アンブレイカブル』感想

アンブレイカブル (1)
2000年製作/107分/アメリカ

あらすじ:131人もの死者を出した列車衝突事故で、たった1人生還したデビット。彼の前にイライジャと名乗る男が現れ、デビットこそ実在するヒーローだと告げる…

『シックス・センス』で世界的に名を知られるようになったシャマラン監督が次に製作したのは奇妙な切り口の作品だった。ブルース・ウィルスとサミュエル・L・ジャクソンによる2大名俳優の共演だけでも見応えがある本作。

観ていく内にオチは感付くかもしれないが、それでも目が離せないのは名優達の演技と巧みな演出によるところだろう。
シャマラン作品はシリアスな場面でも笑ってしまうような演出があるのだが、イライジャの階段から落ちる場面はドリフみたいで笑ってしまう。

デビットとイライジャで緑と紫、寒色と暖色という対比にもなっている点も面白い

『スプリット』感想

スプリットポスター画像 (1)
2017年製作/117分/G/アメリカ

あらすじ:女子高校生3人組が、見知らぬ男に監禁される。必死に逃げようとする3人だったが、相手の男は自分たちの前に表れるたびに様子が変わっており、だんだんと男の異常さが明らかになってくる。

何といっても名優ジェームズ・マカボイによる多重人格キャラクターを見るだけで楽しい本作(ただし、主要なのはいくつかの人格だけで24の人格が活かされてるとは感じない)ブレイク前のアニャ・テイラー・ジョイの可愛さも見どころ。

シャマラン作品の中でも捻りのない作品と感じたが、このシリーズの製作経緯を知って納得。アンブレイカブルと組み合わせたらどんな作品になったかも想像してしまう。

【続編の可能性は?】

『ミスターガラス』だが、シャマラン監督自身は続編を作る意欲はという旨の発言をしていることから、続編が製作される可能性は低いと思われる。
また、筆者個人もこの3部作が綺麗にまとまっているため、もし続編を作るなら新たに仕切り直しが必要になるかもしれない。

だが、『アンブレイカブル』から17年もの歳月を経て、シリーズ続編が作られたことを考えると、もしかしたらシャマラン監督の気が変わって、続編が作られる可能性も0とはいえないかも。

もし続編を作られることがあってもブルース・ウィリスは絶対に登場しないだろうな
(役柄的にないだろうが)


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