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【中国の新たな才能】映画『ロング・ショット』感想【東京国際映画祭】

東京国際映画祭4本目に観たのは中国映画『ロング・ショット』。中国の地方都市を舞台に工場の警備係として働く男の生き様を描く。

これは痺れた、傑作。

これ日本で劇場公開されるんじゃないだろうか。それくらい多くの人に受け入れられそうな作品だと思った。特に男臭い映画が好きな人ならこの作品は気に入ると思う。

監督は今作が長編デビュー作品となるガオ・ポン。なお本作は第36回東京国際映画祭にて最優秀芸術貢献賞を受賞している。

渋めのポスターも良い感じ(ヒューマントラストシネマ有楽町にて)

舞台となるのは90年代の中国の地方都市の大工場。
この時代の中国は近代化を進める一方、倒産や失業者の増加など多くの問題を抱えていた。主人公たちの勤める工場もそのあおりをくらっている。

どれくらいひどい状況かという主人公たちの勤め先でも2か月くらい給料が未払いになっているくらい。

そういう社会状況なので全体的な雰囲気は明るいというよりは鬱屈とした空気が漂っている。そしてそういう状況下だと犯罪も多くなる。主人公が勤める大工場にも工場内の資材を求めて盗みが横行していた。

主人公のグーはかつては国際大会にも出場した射撃選手だったが、耳に障害を持ったことで引退を余儀なくされていた。そのままくすぶり工場の警備係として働いている(まだ夢も諦めきれていない)。

そんなある日、グーは別れた妻との息子シャオジュンが盗みをしようとしているのを見つけ…というあらすじ。

夢を失って燻っている男。題材や物語こそ目新しくないしビジュアルも地味目だがどんどん引き込まれる。

物語もキャラの造形もしっかり作り込まれているから話が王道でも面白い。主人公のグーだけじゃなく脇役にも感情移入してしまう。

特に魅了されるのが悲哀に満ちた男たちの生きざま。

夢を諦めたグーもそうだが、グーの同僚たちも物悲しい。
劇中、かつて自分たちが捕まえた部下との会話は切ない。正しく生きていてもその道が幸せに繋がっているとはいえない。グーたち含め登場人物たちのほとんどが日陰の道を歩んでいる

グーに関してもそうだ。
グーは正義感が強く実直なのだが、その正しさは不況という現実の前には通じない。どうしようもない世の中で正しさを貫くことの難しさを突き付けてくる。王道なテーマだが芯にくるものがあった。

伏線にもなっている「完璧なショット」も格好良かったが個人的に最も痺れたのは「賑やかになったな」からの一連の場面。ここは観終わった後も何度も反芻するくらい痺れた。今年観た映画の中でもかなりお気に入りの場面だ。

ガオ・ポン監督、これがデビュー作というの凄い。次回作も是非観たいものだ。そして本当ここ最近の中国映画は本当に面白いということも改めて実感した。是非とも本作も劇場公開して欲しい。



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