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【夢追い人には】映画『辻占恋慕』感想【何かしら刺さるぜ】

5月21日から公開している映画『辻占恋慕』。売れない三十路のシンガーソングライターと彼を支えるマネージャーとの二人三脚の奮闘劇を描いた作品だ。この作品、もともと観る予定はなかったのだが、SNSでの絶賛&お薦めしている感想を見かけて興味を持った。

あらすじから予想できる通り、本作は「夢追い人達」を題材にした作品となっている。現在進行中で夢を追いかけてる人、夢を諦めて別の生き方を選んだ人、いずれにせよ「夢」に片足を突っ込んだ経験のある人にとって本作は強く刺さる作品だと思う。未見で本作に興味を持っている人は、是非ともチェックしてみて欲しい。

2022年製作/111分/G/日本

あらすじ:新太は自身のバンドの演奏が始まるというのに相方と連絡がつかずに困っていた。もうすぐライブが始まるというところで、代役としてシンガーソングライターの月見ゆべしが助っ人を名乗り出てくれる。この出会いをキッカケに交流を深めていく2人。一年後、新太はゆべしのマネージャーになっていた。ゆべしの才能に惹かれた新太は、ゆべしを何とか売り出そうとあれこれ手をつくすのだが

【感想】

本作で最も印象に残ったのは、脚本の巧さと面白さ。売れようとするミュージシャンとマネージャーの奮闘する姿を主軸に、夢と現実、作り手と受け手、インディーズとメジャーなど、劇中にはいくつもの相反する要素が散りばめられている。

芸能界の裏事情を見せながら、それぞれが互いの主張をぶつけ合っていくことで両者のジレンマが浮き彫りになっていく。最も印象的だったのは新太とゆべしがアーティストに対し激論を交わす場面。

不器用なゆべしの姿は、アーティストそのものだと思うが(今の時代、こうしたアーティスト像は一種のステレオタイプでもあるが)新太が主張する通り、売れるためにはある程度、我慢したり器用に振る舞うことも求められる。ゆべしと新太、どちらの主張も納得できるからこそもどかしい。

本作のもう一つの魅力として挙げたいのは絶妙な台詞回し。新太とゆべしの会話は漫才の掛け合いのよう。リズミカルでクスッとしてしまうのに台詞は心にぐサグサくる。MCバトルで言ったらパンチラインが連発してるようなものだ。この軽妙な雰囲気は、脚本が良いというのはもちろん、主演2人の間が合っているからこそなんだろう。

そんな本作はいわゆる音楽映画の定型にハマらず予想外の展開を迎える。劇中ではしばしば、ゆべしが観客の声を気にしている場面が描かれる。SNSの普及で感想がよりダイレクトに作り手に届くことになった時代、受け手側の感想は想像以上に作り手に響くし傷つけもする。こうした映画感想をnoteを挙げてる筆者もなかなか刺さるところはあった。

新太の大立ち回りともいえる行動は、作り手側の心の叫びが爆発したんだろう。様々な楽曲が登場する本作だが、新太のこの場面からはパンク精神を感じた(意外に新太はパンクを選択してたら売れてたのかも…)。そしてこの行動が、元カノの新太への三択の問いの答えになってると考えると切ない。

この人の変態っぷりも良かった。ああいうのある世界なんだろうなぁ

脚本だけじゃなく主演2人を始めとするキャスト全員役にハマっているし、楽曲も良かった。特に『東京の恋人』でも注目してたけど、川上なな実さんはその演技の上手さに再認識させられた。後、ラジオにゲストで呼ばれた時のカメラワークも印象的(DJの建前から本音への変わりっぷりも良かった!)

見終わった直後も良い映画だったと思っていたが、むしろ時間が経つと共にじわじわと良さが染みてきてる。もう一度、あの台詞の応酬を味わいけど愛知はもう上映が終わってしまうんだよね…次はソフトか配信になりそうだ。

7月8日のシネマテークの15:45からの回で鑑賞、お客さんは自分含め4人。もっと客が入るべき映画だと思う。
入場者特典のポストカードとCD型パンフレット。サントラもカセットだったので躊躇したけど購入しておけばよかった。

映画本編とは直接関係ないが、本作を鑑賞した日は安倍首相が襲撃され亡くなられた日。映画を観る前に襲撃されたことを知り、観終わった後亡くなったニュースが報じられた。そういう意味でもこの映画は忘れられない存在になりそうだ…

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