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【未来に伝えるべきこと 私たちが知るべきこと】映画『ひろしま』を観て。

被爆から8年後の広島で製作された映画『ひろしま』。
教育学者である長田新によって編集された広島で被爆した子供たちによる手記集『原爆の子〜広島の少年少女のうったえ』を原作とした作品である。監督は関川秀雄。

フォロワーさんの感想やワイドショーの特集などで以前から気になっていた作品だ。本作を観に行こうと決めたのは奇しくも広島に原爆が投下された8月6日のこと。

正直言うと最初からこの作品を観に行こうと決めていた訳ではなかった。
観たい映画が満席で、他に観たそうな作品が上映してないか調べた時に偶然見つけたのだ。それが広島原爆投下日と重なっていたのも何かの巡り合わせかもしれない。

訪れたのは名古屋シネマスコーレ。
天気は炎天下の夏日。
時間に余裕を持って行ったつもりだったが場内はほぼ満席。客層は40代~60年代の男女と年齢層は高め。親に連れてこられたのか中学生くらいの子もいたのが印象的だった。

人が多いせいか場内は少し蒸し暑い。
エアコンが効きすぎても体調を崩すし夏場の劇場の温度調整は難しいのだろう。せわしなく扇子を仰ぎ続けてる人もおり、自分もうっすら汗を掻く中、片手にハンカチを持ちながら鑑賞することとなった。

1953年製作/109分/日本

映画は原爆が投下されたから7年後の現在パートから原爆投下直後の過去パートと2つの時間軸が交錯する構成となっている。

今から70年も前に作られた作品だが古臭さを感じるのは最初だけ。
幾多のクラシックな名作がそうであるように、本作も時代に色褪せない強さと熱量が込められている。

物語は学校で原爆に関する授業をしている中、生徒の1人、大庭みち子が突然倒れてしまうことから始まる。診察の結果、みち子は原爆による白血病に掛かっていたことが分かる。

このことをキッカケに原爆の回想が始まるのだが、この原爆投下直後のパートが凄まじい。

本当に凄まじいという言うしかない。

周囲が瓦礫一面の中、積み重なる無数の死体の山。

崩れた瓦礫の下敷きになり、母と父の名前を呼びながら力尽きていく子供たち。

被爆して川に辿り着き身を寄せ合うも、1人、また1人と川に流されていく女生徒たち…

劇中でも言っているが、この阿鼻叫喚の様はまさに「地獄」。

観るというよりは地獄めぐりを体験しているという感覚。
場内でもすすり泣きの声が止むことはなかった。

物語はともに被爆したみち子たち家族と遠藤一家を中心に進むが、どちらの行く末も悲惨というしかない。

特に遠藤一家の親も子供も互いの死に目にすら立ち会えない描写は容赦がないというか無常過ぎる。
父が死んだ息子をおぶる時の「こうしておんぶするのも久し振りだな」という台詞は悲し過ぎて眼頭が熱くなった。

この後も物語は進むのだが、正直、この一連のパートが強烈過ぎてしばらく放心状態だった。

これが架空の出来事なら割り切れることもできるかもしれない。
しかし、これは本当にこの世界、自分たちの住んでいる国で間違いなく起こったことだ。

原爆で両親を失った遠藤少年の人生も過酷だ。
戦争孤児によるストリートチルドレンたちが日本にいたことにも驚かされた。暗澹たる思いを抱えながらもそれでも生きていくしかないという希望というか覚悟にも似た気持ちを感じさせる描写で映画は終わる。

忘れようと思っても一度観たら忘れることはできないだろう。
それくらい凄まじい映像体験だった。

この映画。エキストラは8万8500人という今の日本では信じられないくらいの人々が協力している(中には本当に被爆した人もいる)。

これだけの規模とインパクトの割になぜか知名度が低いのが不思議だったのだが、実は本作は長らく劇場上映がされてなかったといういわくつきの作品だ。

劇場公開されなかったのは反米色が強いという理由から。
「ドイツではなく日本に原爆が落とされたのは、日本人が有色人種だからだ」という台詞など劇中の3場面のカットを巡り、製作側と配給側がお互い譲らなかったため大手で上映することはできなくなった。

これだけのスケールの作品がほとんど上映されなかったという事実は驚きしかない。

だが、こんな時代の今だからこそ多くの人に観て欲しい映画だと思う。

「戦争がなぜこんなに反対されているのか?」、「戦争がもたらすものが何か」ということは本で学ぶよりダイレクトに伝わるだろう。何より私たちには過去にこの国に何が起きたのか知る義務がある。それを伝える義務も。

  1. 何かを伝えようとする映画の力がどれほど強いかを知る作品でもあった。

上述した通り、偶然観ることになった作品だったが、この日にこの作品を観て本当に良かったと思う。何かを伝えようとする映画の力がどれほど強いかを知る作品でもあった。
この国で暮らす人なら一度は観て欲しい作品だ。

【参考】

『ひろしま』はオンラインで無料視聴が可能。
本作の視聴の案内と、主演をつとめた月丘夢路の思いなどを紹介した記事になります。興味ある方は是非。

公開当時、なぜ大規模な劇場公開されなかったのかについて述べているNHKのサイト。

原作となった広島で原爆投下によって被爆した子供たちによる体験を綴った手記。


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