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【走れ、クソみたいな人生に追い付かれる前に】映画『Rodeo ロデオ』感想 

男性社会のバイカー集団の中で、人生を疾走する女性の姿を描いた映画『Rodeo ロデオ』

鮮烈なビジュアルと『郊外の鳥たち』を配給したReally Like Filmsさんが関わっているということで気になっていた作品。

事前情報をほとんど知らずに観たが、これが想像以上に良い作品だった。
こうした何も知らない状態で観た作品が面白いと予想以上に嬉しくなるもので、帰り道は自然と気分が上がっていた。

本作は犯罪映画であり青春映画。
舞台はフランスだが、いわるゆ「お洒落映画」とは真逆。剥き出しで荒々しいエネルギーに溢れた作品だった。

監督は本作が長編デビュー作となるローラ・キボロン。
2022年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員たちから絶賛され、本作のために設立されたクー・ド・クール・デュ・ジュリー審査員の心を射抜いた賞を受賞している。

男社会の中で女性である主人公が孤軍奮闘する姿からは、作り手の強いメッセージも感じた。そういう点でも気になる人には是非観て欲しい映画だ。

2022年製作/105分/G/フランス

【感想】

映画はジュリアがバイクを盗む衝撃的な場面から始まる。「盗んだバイクで走りだす」を地で行く姿に笑ってしまった。

ジュリアはなかなか強烈な人物だ。
バイク盗難の常習犯だし性格も短気でふてぶてしい。髪を唾でまとめ上げる仕草にも引いてしまった。

進学せず働いてるらしいが職場も無断欠勤しているという問題児っぷり(恐らく友達もいない)。
感情移入を誘うタイプではなく「1匹狼」的な存在。

ジュリアの生い立ちが本人の口から語られることはない。それでも物語が進むにつれ彼女の境遇が伺い知れる。

家族からは見放されお金もない。
ジュリアがバイクに惹かれた理由は明確ではないが(スマホの動画を見ていることから恐らく憧れなのだろうけど)、彼女の日常を観て納得がいった。

息が詰まるようなクソみたいな現実を忘れさせてくれるのはバイクだけだったのだろう。

バイクを盗まれた側の気持ちを考えると感情移入はできないが…

そんなジュリアが、ひょんなことをキッカケに犯罪にも手を染めるバイカー集団に加わったことで物語は加速していく。その中で頭角を表していく。

バイカー集団の中で頭角を表していくジュリア。
これが男性ならまさに「組織内でのし上がっていく」物語だが、ジュリアが女ということでチームメイトからナメられやっかまれる。

元々、本作を製作するキッカケは、ローラ監督が海外のバイカー集団に興味を持ち密着していたところから始まっている。長く密着する中で女性が1人もいなかったとこから、ジュリアというキャラクターが生み出された。

ローラ監督は映画を通じて「性差」が抱えるしがらみを浮き彫りにする。男性と女性を置き換えたこと構図もわかりやすかった。

ジュリアの活躍を快く思わない連中も多い

劇中でも印象的だったのがジュリアとオフェリーの関係性だ。
縛られるのを拒み自由奔放なジュリアと外を怖がり家から一歩も出れないオフェリー。

一見すると対照的な2人だが、実は同じ男によって身動きが取れなくなっているという点では同じ。ここでも「男にとらわれる女」の弊害が描かれている。

自分と境遇は全く違っても同じモノを感じたからこそ、ジュリアはオフェリーに惹かれたのかもしれない。3人で束の間のツーリングを楽しむ姿は本作のハイライトだと思うし美しかった。

ジュリアは母親との関係が芳しくなかったからこそ、余計にオフェリー親子へ惹かれたんじゃないかと思うと切ない

クソみたいな現実の先にわずかに浮かんだ希望。
しかし、それも無残に摘み取られる。そして衝撃的ともいえるラスト。

あのラストの表現は、様々な解釈の余地があるが個人的にはあの終わらせ方しかなかったのだろうと思った。

まさに風のように吹き抜けていったジュリア。
だが、彼女の未来への思いは託された。

※パンフレット、特筆すべきはローラ・キボロン監督と『夜明けまでバス停』の梶原阿貴監督とオフェリー役のアントニオ・ブルジによる対談。映画評論家やライターの寄稿が豊富。

デザインが格好いい。


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