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【そこがどんな道であれ】漫画『ようこそ!FACTへ(東京S区第二支部)』感

『ようこそ!FACTへ(東京S区第二支部)』という漫画の最終回を読み終えた。

誰もが一度は見聞きしたであろう「陰謀論」を題材にした漫画だ。

舞台は現代の日本。
主人公の渡辺はうだつの上がらない青年。
仕事先にも溶け込めず、友達もいなければ趣味もない。一発逆転を狙うものの悪どい商法に引っかかりお金も騙し取られる始末。

そんな彼があることをキッカケに陰謀論にのめり込んでいく…という風に物語は始まっていく。

作者は15世紀のヨーロッパを舞台に、当時禁じられていた地動説を証明するために命を懸けた人々を描いた『チ。―地球の運動について―』の魚豊先生。

『チ。―地球の運動について―』は第26回手塚収大賞の漫画大賞を受賞した他、多数の賞を受賞しているので漫画好きなら知ってる方も多いかもしれない。

『ようこそ!FACTへ(東京S区第二支部)』はこれまでネット連載で続きを追っていて更新を楽しみにしていた漫画の一つだ。

話の方向性が見えない序盤から周囲に翻弄される渡辺が魅力的で更新されるのも楽しみにしていた。

今回、最終回を読み終えて「優しい漫画」だと思った。

「陰謀論」という言葉自体、良い使い方はされていない。「ヤバい」、「陰謀論者w」などのワードとセットで使われ批判や嘲笑の対象になりがちだ。

この漫画は陰謀論を揶揄するような物語じゃない(陰謀論の真偽を計るような内容でもない)。
あくまでメインは陰謀論にのめり込んでいく青年の心の変化。青春漫画といった方がいいだろう(ちなみに公式ではジャンルはラブコメとなっている)。

最終回。
渡辺が片思いをしている飯山さんの言葉が印象的だった。
「書いていることは…やっぱりよく分からなかった。けど、あの量は適当じゃ書けないことくらい分かる」

そこには見下しも突き放しもしない。渡辺に対し真正面から向き会おうとする姿だけ。こうした視点は『チ。』を描いた魚豊先生だからこそ描ける場面だろう。

魚豊先生の視点は平等で優しい。

さまざまな経験を経て渡辺は気付く。
自分が歩んできた道が廻り道でも挫折した道だとしても、そこでしかできない体験、見れない景色があったことに。そして彼は自分の人生を肯定し前に進み始める。

渡辺を陰謀論へ引き込む"先生"。彼との決着の付け方もとても良い。
最後に本音を吐露した"先生"に対し言う渡辺の「ありがとうございます」という感謝の言葉。
それは本心を見せてくれたことへの感謝かもしれないし自分を成長させてくれたことへの感謝かもしれない。

どんな形であれ結果的に渡辺の人生を始めさせるために導いたという点で彼も間違いなく"先生"だった。

「このことに意味はあるのだろうか?」
普段生活してると、こんな言葉が何度も頭に浮かんでくる。

意味があるないかなんて誰にも分からない。
でも、そこに意味を見出すのは、結局自分次第だというをこの漫画は思い出させてくれた。

作品も良かったし魚豊先生のことが好きになった。
とりあえず単行本買おうかな。


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