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【賛否両論!イギリス発のセカイ系】『スターフィッシュ』感想

日本では劇場公開されていない海外の話題作・注目作を、映画ファンに向けて開催している映画祭『未体験ゾーンの映画たち』。関東圏の映画ファンにはお馴染みの映画祭だが、今回上映された中でも、ひときわ注目されていたのが本作の『スターフィッシュ』という作品だ。

この映画、公開前からSNSやブログ等で絶賛している方の感想を時々目にしており、筆者も気になっていた。
そう思っていた映画ファンは他にも多かったのだろう。自分が観た回はなんと満席。(29日の土曜日の回)それだけ日本でも注目していた人が多かったことが分かる。

2018年製作/99分/イギリス・アメリカ合作

あらすじ:親友を失ったオーブリー。亡くなった親友の家で一晩を明かすと、街は深い雪に覆われており、人影はなく謎の怪物がうろつく世界と変貌していた。トランシーバーから流れてきた謎の男性の声によると、親友が遺した7本のミックステープを見つければ世界を救えるらしい。オーブリーは、覚悟を決め危険な外の世界に飛び出していく…

物語の大まかなあらすじは上の通り。7つのアイテムを手に入れるなんて、ドラゴンボールのような設定だけど、こちらの物語はかなり分かり難い。
というか本作の感想は賛否がはっきり分かれている。そして、賛否両論となっている最大の理由は物語の分かりづらさにあるといえる。

オーブリーの視点で、物語が進むので、オーブリー同様、この世界が一体どういう状況になっているのかが全く分からない。加えて本作のメインテーマともいえるオーブリーが抱えてる心の問題についても、全貌が掴めない。

・親友のグレイスの死を受け入れてない
・オーブリーは、パートナーを裏切り浮気をしていた。

上の2つは間違いないのだろうが、こういった情報がフラッシュバックのように差し込まれたり、オーブリーとグレイスの関係性にも同性愛を匂わせる描写もあったりする。あくまでも断片的にしか分からないため、混乱するし、これはこうだと断言しづらい。

少なくとも受け身で見るタイプの映画ではなく、それぞれの演出の意味を汲み取る必要がある。そのため、考察などが好きな人には刺さるかもしれないが、人を選ぶ映画となっている。

また本作からは、セカイ系作品のような雰囲気も感じられた。

セカイ系とは:
90年代後半から2000年代にかけて広まった、マンガやゲーム、娯楽小説のいちジャンルの名称。小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと

『波状言論 美少女ゲームの臨界点』

物語では、オーブリーが抱える内面の問題と世界の危機が直結しており、これはセカイ系の定義に該当する。

セカイ系繋がりだと、本作と同じイギリス映画の『ドニーダーコ』も思い出した。あの作品も難解と評されているし、ドニーの立ち位置はいわゆるセカイ系に通じるものがある(公開年も2001年とセカイ系が台頭してきた年代と被る)

セカイ系の作風が好きな人は、本作も気に入るのではなかろうか。

本作がこのような作風になってる理由として、脚本を手掛けたA.T.ホワイト監督自身の心境が影響している。本作を手掛けた時、ホワイト監督は、友人の死と離婚という大きな問題を抱えており、山小屋に一人こもって脚本を書き上げたと語っている。

つまり、本作は劇中のオーブリーの同様、監督が自身が悲しみと向き合う為にセラピー的に作り上げた作品ともいえる。

このような事情を知ると、説明を一切省いてる点や、物語の展開よりもオーブリーの心情に寄り添った演出も理解できる。
そういう意味で、本作はエンタメというよりはアーティスティックな作品といえるだろう。

で、筆者の感想を正直に言うと、鑑賞直後はそこまでハマらなかった。理由として、独りよがりの作品に感じたということもあるのだが、一番大きな理由は、本作のホラー演出が苦手だったから。

作中では謎の怪物が街中をうろついているのだが、こいつがいきなりバーン!と出てくる。完全に筆者個人の好みの話だが、筆者はこういう演出が駄目。加えて本作に苦言を呈するなら、この演出が結構繰り返されるので、若干ダレたところもある。

「THE ホラー映画」と比べると、ホラー要素薄めとはいえ、苦手な人が観る時には注意して欲しい。

ただ、本作はハマってない部分もありつつも、好きな部分も多い。1つ目は映像が凄く良いということ。オーブリーがグレイスの家に忍び込む所など、一枚画になる場面がとても多い。

途中でアニメーションが挿入されるなど、映像も凝ってるし、劇中で使われる小道具も最新のものではなくカセットテープやトランシーバーなど、どこかレトロ風味なのも良い。

この狼のガウンを着ながら、街を捜索する姿が可愛い

2つ目は音楽の使い方。物語の目的がカセットテープを集めるだけあって、色々な音楽が使われている。自分はシガー・ロスくらいしか分からなかったけど、どれも耳馴染みが良かった。サントラ欲しいなと思っていたら、Spotifyにプレイリストがあったので、聴いてみたらメチャクチャ良かった。

Sparklehorseというアーティストが良かったので、調べてみたら2010年にバンドの中心人物だったマーク・リンカスが亡くなっているとのこと。本作の題材に敢えて、このバンドの曲を使ってる辺りもなるほど…!

楽曲のセレクトだけでなく、音の使い方も良く、(怪物が現れる場面の重ね方とか)A.T.ホワイト監督、MVとか撮っていたことあるのかな?と思っていたら、ミュージシャンとしても活躍しているということで、この音使いも納得。

アニメーションを手掛けたのは手塚プロダクション。

正直な話、鑑賞直後よりも時間が経った今ジワジワとハマってきていたりする。製作背景などを知った今、謎解きみたいな感じで改めてもう一回観てみたい。

恐らく配信・ソフト化されるのではないかとは思うが、個人的には是非とも一般に向けて劇場公開してほしい…!

【2/4追記:拡大上映が決定!】

「未体験ゾーンの映画たち 2022」での大反響を受けて、3月12日からシアター・イメージフォーラムで上映することが決定した!気になっていたけど見逃した人、気になった人はこの機会に是非!

さらに!京都の京都みなみ会館で3月以降に、愛知のシネマスコーレで4月以降に上映が決定!詳しい日程は追ってとのことだが、都内以外で公開するので、諦めてた人も是非チェックして欲しい!

ちなみに海外ではどうなっているのか調べたら面白いデータがあったので、そちらも載せておきたい。

Rotten Tomatoesのメーター。左が批評家、右が一般客

上に貼った画像は、世界最大手のレビューサイトRotten Tomatoesの『スターフィッシュ』のレビューをスクショしたものだが、批評家からは87%と高評価なのに対し、一般客からは46%と評価が真っ向から分かれているのも面白い。
A.T.ホワイト監督、まだまだ日本では知られていないが、今後要チェックの監督なのは間違いない。

【参考にした記事】

お笑い芸人やミュージシャンなど、様々な人達によるレビューを載せている映画情報・評論サイト『BANGER!!!』様。

日本未公開の映画など、幅広く作品レビューをしている「チェ・ブンブンのティーマ」様のサイト。A.T.ホワイト監督、日本のサブカルチャー好きなのか!

【2022/8/2更新:ソフト更新情報】

『スターフィッシュ』のDVDが発売されることが決定。10月7日発売予定。


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