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「作品に罪はあるのか?」問題に真っ向から挑む問題作『悪の絵』

10月31日から11月9日まで開催されていた東京国際映画祭。その中のワールド・フォーカス部門で上映された本作は、死刑囚の描いた画に魅せられた画家を描いた物語だ。
映画祭の会場の六本木ヒルズでは映画祭で上映される全ての作品のポスターが飾られてるのだけど、その中でもひときわ異彩を放っていたのがこの作品。下の画像を見てもらえれば分かるが、インパクト抜群。思わず目を止めてしまう迫力がある。筆者は、11/1の10:40からの回で鑑賞してきた。

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【死刑囚の描いた絵に魅せられた画家…】

刑務所内で死刑囚達に絵をかかせるサークルがある、その担当を受け持ってる画家が、ある死刑囚が描いた絵に感銘を受けたところから物語ははじまる。「これは天才だ!」その絵に激しく魅了された画家は、彼の絵を世の中に紹介したいと考えるようになり、知り合いの美術商に自分の個展の絵を並ばせてもらうことになる。しかし、それは社会を巻き込む大騒動になっていき…というあらすじ。監督のチェン・ヨンチーは、今作が長編第1作目。監督だけでなく本作の脚本も手掛けている。

【『作品に罪はあるのか?』という永遠のテーマに真っ向から挑んだ意欲作】

本作はいわゆる「作品に罪はあるのか?」問題に真っ向から挑んだ作品だ。作品と作家は切り離せるのか?この創作物を巡る問題は、これまでも何か事件があるたびに度々議論されてきた。今年だとウディ・アレン監督の『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2020年)が、監督の性的虐待疑惑によって本国で上映中止に追い込まれた件が記憶に新しい。(この問題に関しては下の記事で詳しく語られてるので興味ある方は読んでみて欲しい。今話題にもなっている「キャンセルカルチャー」にも触れられている)

また、つい最近でも『とんかつDJアゲ太郎』(2020年)に出演している伊勢谷友介と伊藤健太郎の逮捕によって作品の公開が危ぶまれた件や、漫画の『アクタージュ act-age』における原作者の逮捕による連載中止などが話題になっている。創作物を巡っての「作家と作品は切り離すことができるのか?」、「作品に罪はあるのか?」という問題は、私たちの日常において、身近に起きている問題といえるだろう。

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監督によると、本作の構想は2~3年前、台湾で芸術家が罪を犯したという事件に対し、「作品について皆はどう考えてるんだろう?」と考えたことが製作のキッカケになったと語っている。(台湾にも罪を犯す人が出てる作品を観に行かないという運動はあるとのこと)ちなみに筆者個人は、作品と製作者の背景にある問題は切り離して観たいという考えだが、これは自分が被害者側に立ったことがないからこそ言えることなのかもしれない。
本作は、事件によって人生を狂わされた人々を、被害者・加害者、両方の立場から見せられことで、「作家と作品は切り離せる」という主張が、どれだけ難しくわり切れないものかを思い知らせてくれる。この記事を読んでいる貴方がどういう考えているのであれ、本作を観た後はこの問題について改めて考えさせられることは間違いないだろう。

【監督は台湾出身の新進気鋭の監督!】

本作はテーマからして、もっと硬質で社会派な内容を予想してたが、想像に反しエンタメ作品として面白いのが印象的。監督のチェン・ヨンチーは、今作が長編第1作目、監督だけでなく本作の脚本も手掛けている。監督が本作で描きたかったのは、「人間の多面性」。確かに本作では登場人物達の様々な側面が描かれている。画家の死刑囚に対する羨望や嫉妬ともいえる感情や、画家に肩入れする美術商との関係、死刑囚の裏表の面など、単純に割り切れない人間性が面白い。

悪の絵②

また、物語の展開としても序盤の死刑囚の台詞が伏線になっていく後半の展開は、予想できるが「おおっ!」てなった。本作はインディペンデント作品であるが、商業作品のような面白さもあって見応え充分。直接何が起きたかは映さず匂わす演出もとてもスマートで、長編一作目とは思えないくらい手慣れている点にも感心させられた。

悪の絵①

そして皮肉も矛盾ともとれるようなラスト、この終わらせ方は、この難しいテーマに対する監督の真摯な答えと筆者は受け取った。本作も現時点では、一般公開は未定となっているため、観れる機会が今後訪れるか分からないが、扱ってるテーマや内容的にも是非とも多くの人の目に触れて欲しい作品である。


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