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オーストラリアは美味しい(1)

イントロダクションにかえて

 オーストラリアの「食」と言われても、あまりピンとこないと思う。だいたい「食文化」といえばフランスやイタリア、スペインなどヨーロッパのラテン系国家や、中国、タイ、ベトナム、インドなど東南・南アジアの国々ばかりが注目を集める。「食」に関して、かつてははあまり芳しい評判を聞かなかったイギリスの植民地として発展してきたオーストラリアは
 「どうせイギリスと同じでしょ」
 といった目で見られがちである。
 それも仕方がないことかもしれない。なにしろ1990年代半ばまでのオーストラリアは、名物料理と言えばバーベキュー(オーストラリアではバービーと省略されて言われることが多い)やイギリス同様のフィッシュアンドチップス。レストランの評判のいいところは、得てして味より量で勝負、みたいなところが多かった。ほんの20年ほど前までは、感動するほど美味しい食事にありつくのは難しかったのだ。


 しかし、オーストラリアは世界中からの移民が集まる多文化国家だ。「食文化」で語られることの多い、フランス、イタリア、スペイン、中国、タイ、ベトナム、インド……こうした国々から数多くの移民を受け入れてきた。それゆえ、移民の祖国の料理や料理法も確実にこの国に伝わっていたのだ。それがなかなか「オーストラリアの食事」として日の目を見なかっただけだ。
 21世紀に入り、オーストラリアの「食」は大きな転換期を迎えた。移民としてやってきた人たちの料理法がクロスオーバーし、「○○料理」という枠にとらわれることのない、新しい料理法が次から次へと生まれているのだ。「モダンオーストラリア料理」と呼ばれるこうした枠にとらわれないフュージョン料理から、各移民の伝統が息づく料理まで、さまざまな料理が味わえる場所――それがオーストラリアなのだ。

 それだけではない。
 オーストラリア国家『アドバンス・オーストラリアフェア』の一節にこんな一説がある。

Our home is girt by sea;
Our land abounds in Nature's gifts
(私訳)
私たちの国は海に囲まれ
大地は自然の恵みにあふれている

 オーストラリアは、周囲を熱帯の海から南極海の冷たい海までさまざまな海流に囲まれ、大地もまた熱帯から冷温帯までさまざまな気候帯をもつ、ひとつの大陸だ。この国でしか味わえない食材はもちろんのこと、世界中のあるとあらゆる食材を生産できる場所でもあるのだ。

"I have always been attracted to the incredible diversity you find in Australia's landscapes and ingredients, because they are like no other place I've seen before. Australia combines strong influences from its Indigenous people with new communities from around the world. When you mix it all together, the result is something truly inspiring. It really is the perfect place to come and learn."

「わたしは常々、オーストラリアの風景と食材の信じられない多様性に引かれてきた。ほかの場所では見たことがないものだからだ。オーストラリアは、先住民から受けた強い感化と世界各国からの新コミュニティーが結び付いている。すべてを混ぜ合わせれば、とても刺激的なものになる。来て学ぶのに最適の場だ」
(共同通信PRワイヤー:2015年7月28日より)

 こう語るのは、イギリスで発行されている世界的権威のある料理関係の雑誌『レストランRestaurant』で、2010~2012、2014年の四度世界一のレストランに選ばれたコペンハーゲンのノーマNomaのオーナーシェフ、レネ・レゼピ氏。オーストラリアの食材の多様性に惹かれた彼は、2016年1月~4月、コペンハーゲンのレストランを一時閉店し、10週間限定でシドニーでレストランをオープンさせることを発表(ノーマが海外でレストランをオープンするのは東京に次いで二度目)。世界中に「食」のオーストラリアが注目されるきっかけを作ったのだ。

 ノーマだけではない。『レストラン』誌は毎年、世界中のシェフたちによるシェフズ・チョイス・レストラン賞Chef's Choice Restaurant Awardも発表しているが、2004年にシドニーのスターシェフとして活躍する日本人シェフ、和久田哲也氏のテツヤズTetsuya'sが選ばれるなど、2000年代に入ってからのオーストラリアのレストランは、日本であまり注目されていなかっただけで、実は世界的にも評価が高かったのだ。

 だからこそ、オーストラリアの「食」の素晴らしさを知りに、オーストラリアへの旅へと出かけたい。きっと広大な大陸のいたるところで、私たちの五感を満足させてくれる味に出会えるはずだから……。


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