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「くすぶりっ子」という人種

ぶりっ子と呼ばれる人たちがいる。男性の前で無知のふりをして甘えたり、過剰に非力さをアピールしたりする女性のことだ。1980年にアイドルデビューした松田聖子さんがその典型らしく、今でも定期的にそういうアイドルは登場し、愛され、時にウザがられる。

最近では、SNSなどが普及したことで自然体が愛されるようになったからか、ぶりっ子は死語だと言われ、男女平等に愛想がいい「ネオぶりっ子」という人種が登場しているらしい。アナウンサーの田中みな実さんが代表格らしいが、正直その違いはよくわかってない。

それよりも最近ネット上でよく見かける「くすぶりっ子」のほうが語られるべきではないか、と僕はよく思う。くすぶりっ子は僕の造語であるが、要するに、ネット上でクソコメ・クソリプを飛ばしてばかりいる人のことだ。ぶりっ子のように1人目立つわけではなく、群れのように行動するから存在を捉えづらいが、整理のために書いてみよう。まずは、「くすぶる」の意味をおさらいしたい。

【くすぶる / 燻る】
1、物がよく燃えないで、煙ばかりを出す。「生木が―・る」「焼け跡が―・る」
2、地位や状態などが、その段階にとどまったまま低迷している。「会社で―・っている」
3、争い事などが表に現れずに、また、完全に解決しないままで続いている。「不満が―・る」
etc...

ポイントは、燃えないで煙ばかり出すことだ。基本的に、彼らは炎上事案の周辺を生きている。炎(注目を集めた人・テーマ)の周りに集まって、煙(議論に値しないリプライやコメント)を食べたり出したりしている。1人で勝手にやる分には構わないのだが、集団行動化するために一斉に煙が出て、視界を悪くしてしまうのが問題だ。周囲から見たときに「実際に何が起きているのか」が捉えにくくなり、煙によって現場は混乱する。メディアもよく翻弄されている。

くすぶりっ子の人物像を考察してみる。

僕の周りでも、くすぶりっ子はいる。リアルとネットで別のアイデンティティを持っているから、普段過ごしているだけでは気がつかなかったりする。その可愛い響きとは裏腹に、男性に多い印象だ。しかも20代よりも30代-40代になるにつれ、増えている。

彼らは、決してダメ人間ではなく、むしろ優秀な人が多い。ただ真面目さゆえに思考が保守的で、仕事などの立場によって身動きが取れなくなったりしがちだ。だから遊んでるように仕事したり、自由に発言している奴らがムカつくらしい。頭いいがゆえに気づいてる世の中への変化と、自分の環境とのギャップが広がっていくプロセスに耐えられない。だから、少しでも常識を揺さぶるようなことがあると、ひとこと言ってやらなきゃ気が済まないようだ。

くすぶりっ子は、実はとても共感してもらいたがりだ。だけどプライドが高いのか、自分の弱みをさらけ出すのが苦手だ。ぶりっ子とは違い、演じることも、ボケに回ることもできない。仕事で空気を読むことに疲れているからか、ネットでは、水を差すようなツッコミばかりしてしまう。

先日、AbemaTVに出演したときの特集が「飲みニケーションの是非」だった。そのVTRに出てきた50代の“飲み好き上司”なる存在をみたときにハッとした。こういうおっさんが飲み会で若手に、説教や武勇伝を聞いてもらえる機会がなくなり、溜まっているのだなと。それは会社に限らず、いろんなコミュニティで起きているだろう。リアルで居場所を無くしてSNSに漂流し、匿名のくすぶりっ子となって、姿を現す。そういう見えない移動が増えているのではないか。ある意味で、現代日本が生み出した難民とも言える。

日々起きている炎上事案よりも、増加するくすぶりっ子の存在のほうが、実は大きな問題かもしれない。逆に言えば、彼らが変化に前向きになったとき、日本は一気に変化するだろう。