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Element AIとKustomerの買収を韓国ドラマ「スタートアップ」を見ながら考察してみた

先日投稿したNetflixのスタートアップ、エンディングもよかったですね!技術はあるがビジネスモデルもない無名のスタートアップが、出会いと成長を通じてユニコーンになるストーリーの中で、起業家やエンジニアが経験するであろう事柄がリアルに描かれており、これを見て起業したい、AIエンジニアになりたい、SANDBOXのようなアクセラレーション施設があれば参加したい!!と志を新たにした方もいらっしゃるのではないでしょうか。各70分、全16話と長いので、業界関係者で時間のない方は5話のハッカソンと8話のデモデーだけでも1.5倍速で見てみることを重ねてお勧めします。

本件に関する投稿が思いのほか盛り上がったので、気をよくしてもう少しリアルなAIスタートアップ関連の話からの示唆を共有しておきたいと思います。

日本ではあまり大きく話題になってないようにも思えますが、12月初旬に、2つのAIスタートアップが対照的なM&Aとしてそれぞれ報道されました。Facebookが買収したKustomerと、ServiceNowが買収したElement AIです。それぞれ、買収金額は公表されてませんが、Kustomerは1000億円、Element AIは500億円程度と報道されています。(別途の裏取り調査はしてません)

どちらも素晴らしいDealなのですが、近い領域であることもあり、両者のこれまでの動向を遠巻きに見ていた私からすると、結果は少々意外でした。報道されている買収金額、逆じゃないかな?と。

カナダのElement AIはこれまでもAI業界で注目を集め、機械学習の第一人者であるYoshua Bengio氏が設立したAIスタートアップで、Microsoft、NVIDIA、Intel、テンセントなどが出資しており、世界中から優秀なAIエンジニアをかき集めて獲得しまくっているようにも見え、Element AIが核となってモントリオールがAIの一大集積地になるのではないかという見方をしていた方も多いのではないかと思いますし、私もその一人でした。

一方、Facebookに買収されたKustomerは、完成度の高いソリューションではあるものの、よくあるAI技術を利用したチャットボット+CRMでよくある仕組みにも見えます。実際、LINEでも公式アカウントを含めたオムニチャネルでのCRM活用を推進しており、多くのCRMツールと連携可能な状態にあり、日本では多くのチャットツール、CRMツールが乱立しています。

もちろん、KustomerとFacebookのシナジーは大きく、今後のビジネス成長見込み含めて評価額が高くなるのはわからなくもないけれども、同じタイミングでMA&報道があったElement AIより高いのは少々驚きました。

ただ、冒頭で触れたNetflixの韓国ドラマ「スタートアップ」をみながら、タイムリーに報道されたこの2件のDealを考えると、Valuationに差がついたのもわかる気がしてきます。

Element AIが得意としていたのは、デジタル化が遅れている企業に対して、データ活用やAIの仕組みで圧倒的な効率化や新規事業をもたらすことであり、高額なコンサルティングや受託開発に近い事業構成だったようにも思えます。McKinseyが出資したことも話題になりましたが、ハイエンドなコンサルティングという観点では近い領域だったのかもしれません。もちろん、顧客やパートナー側には、自分たちでは解決不可能な課題や、入手できないデータなどもあり、AI活用の可能性を見いだす段階では有意義なプロジェクトを幅広く展開できると思われますが、結局は他人のビジネスのお手伝いになってしまっていたのではないでしょうか。(実態をあまり把握せずに書いてしまってます。認識不足であればご指摘下さいませ)

一方、KustomerはFacebookに買収されるExitは経営者の想定の中に含まれてはいたと思いますが、自分たちが描く理想の顧客体験を実現するために、AI技術をうまく活用できる課題を発見するとともにフォーカスする領域を決断し、AIを手段として最大限利用してビジネスソリューションに育て上げ、Product Market Fitを見いだせたことが大きかったのではないかと思います。他人に頼まれて作っていたプロダクトではないということです。Facebookもその気になればKustomerのようなCRMツールをつくることはできると思いますが、それぞれの市場でPMFを見いだすことは、いかにプラットフォーマーとはいえ必ず成功させられるものではなく、すでにその絶妙なバランスを見つけて顧客からの支持を得ているKustomerを1000億円で買収したほうが、少なくともFacebookにとっては価値ある判断だったということです。

とはいえ、報道には現れないストーリーがいろいろあっての判断だったのだろうと思います。ご関係みなさま、よいExitおめでとうございました。

OGPの画像は、アクセラレーション施設SANDBOXの採択メンバーを決めるハッカソンのピッチをみながら過去を振り返るナム・ドサン。「技術の自慢なら事業計画書に書かれてた」「ビジネスモデルや収益の得方が見えてこない」と、初対面だったジピョンに指摘されたことを回想しているシーンです。優秀なAI技術者を集めたElement AIに確固たる自社事業のビジネスモデルがあれば、評価額は逆転どころか、より大きなExitにつながったのではないかと思います。

私が代表をつとめるLINEのAIカンパニーの日々の仕事もまさにこんな感じで、ジピョンの立場でメンバーに指摘したり、逆にドサンの立場で深く考えたり、ダルミの立場で必死に事業を成立さたりしているので、終始共感しまくりでした。市場の動きに対する鋭い洞察力をもとに、「スタートアップ」でも技術支援をしていたNAVERのチームと協業し、AI領域における高い研究開発成果を活用できる分野を見つけ出しています。電話自動応答を実現するAiCallや、eKYCによる本人確認、OCRの各種特化モデルはその一例です。要素技術をAPIでそのままご利用いただくプロダクトも提供してはいますが、我々がチャレンジすべきは、常にユーザー目線にたって自社で開発したAI技術が最も価値を発揮できるユースケースでMarket Product Fitを見つけ出し、これからの当たり前として世の中に浸透させてゆくことにあります。

という事情もあって、「スタートアップ」のストーリーは深く刺さったな、という気づきでした。

最後にお決まりの番宣です。SANDBOXのような超絶理想的な環境かどうかはわかりませんが、さまざまな社会課題をAI技術で解決し、これからの当たり前を生み出したいという仲間を募集しております。年末年始に向けて、「スタートアップ」を見ながらご一考いただけたら大変嬉しく思います。


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