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AI技術スタートアップは正座して見た方がいい韓国ドラマ「スタートアップ」

Netflixで配信中の「スタートアップ」、絶対見た方がよいです。
三角関係的な恋愛パートは、興味あれば見ていただいてもよいですが、私は1.5倍再生で流してました。吹き替えではないので、ながら視聴は難しいですが、映像にさほど違和感もなくNetflix便利。

おそらく一般の方々にとって重要な恋愛ドラマ的な要素を除くとこんな感じ。ネタバレしたくない方は見てからどうぞ。

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幼少期に数学オリンピックで優勝(のちに一悶着ある)した敏腕エンジニアが、子供に期待を寄せる親の出資により、大学時代の仲間と技術スタートアップ「サムサンテック」を創業する。

エンジニア3人でComputer Vision系のプロトタイプを開発しており、自分たちの技術力の高さにプライドは持っていたが、解決したい課題やビジネスモデルはなく、ガレージオフィスで質素な生活をしながら、資金が尽きようとしている。おそらく3期目程度。

偶然一方的に尊敬する投資家と話す機会を得て、自分たちへの投資を依頼してみるが、投資を断られた上に、将来事業として成功する確率が著しく低いことを明言される。

活路を見いだそうと、アクセラレーション施設が主催する、アーリーステージ向けの3日間のハッカソンイベントに参加。CEO候補を迎え入れてソリューションを固め、チーム選考ピッチに臨む。

ハッカソン用に用意された手書き文字の学習データ(おそらくクレンジング済み&アノテーションデータ付き)から、個々人の文字の癖を把握し、偽造文書を見破るソリューションを開発。

一方、ライバルチームは、同じ学習データから、手書き風フォントを生成するソリューションを開発。

チーム選考ピッチでは、ライバルチームのAIが生成した手書き風フォントを偽造検知できるかというお題を急遽だされ、その場で検証を行ったが、偽造を見破ることはできなかった。

その際、審査員として参加していたシリコンバレーVC所属の投資家が、偽造を見破れなかったエンジニアがものすごく悔しそうにしていたことと、その後の成長ポテンシャルを見抜き、Acqui-Hire候補としてマークする。

ライバルチームとの直接対決には敗れたものの、アクセラレーション施設に入ることができたサムサンテックは、後にプログラム最後のDemo Dayで再び対決する。

アクセラレーションプログラムの支援を受けて開発したのは、目が不自由な方向けにスマホカメラで読み取った内容を音声で伝えるスマホアプリ「ヌンギル」。身近な恩人が失明の恐れがあり、圧倒的なMy Storyである。ライバルチームは同じく物体検知を警備システムとして完成させる。

物体検知からの音声読み上げには、スマートスピーカーCLOVAのような音声対話AI「ヨンシル」のAPIを利用するが、その利用料がトラフィック依存でアクティブユーザーが増えると財政状況が悪化する。

ちなみに、スマートスピーカー「ヨンシル」は、天気を聞いても占いの結果を答えるなど、認識率はイマイチなのだけれども、結果的に主要人物の背中を押す、気の利いたことを言う愛らしいデバイスとして描かれている。

ヌンギルの開発には成功するが、視覚障害者向けサービスはニッチで、ユーザー課金も難しく、オーガニックな事業成長を描くことは困難であったことから、企業からCSR予算を獲得してサービスの維持発展を目指す方向となる。

アプリのリリース後、CEOは熱心に顧客と向き合い、Customer Voiceに一喜一憂する。中には辛辣なコメントもあったが、「電池泥棒」という指摘から、モデルの軽量化に取り組み、これが後に大きな差別化要因となる。

当初アプリの利用者は伸び悩んだが、幼少期に偶然得ていたつながりから、インフルエンサーマーケティングに成功し、全世界規模で利用者が増加する。ニッチでもグローバルに展開すれば利用者は獲得できることを証明したが、API利用のコスト問題は解決できておらず、バーンレートが急激に悪化する。

ソリューション開発を進める中、大手企業からAIソリューション提案を持ちかけられる。予算規模は大きく、当座の資金稼ぎのために提案に応じるが、いざ直接対話してみると内容はアルバイトでもできそうなデータ収集。

大手企業側はずる賢く描かれており、アルバイトを雇うと逆にコストがかかり、AIを理解していないと学習データの品質にも影響することを踏まえ、実績作りや当座の資金目当てでAIスタートアップを利用しようと企んでいた。

大手企業の経営者は若者を応援するという姿勢で、アクセラレーションプログラムにもメンター(およびおそらく出資者)として関与していたが、実態は若者を搾取する。「君たちの会社のサイトにうちのロゴをのせていい」とは交渉時の発言。

担当メンターの指示は的確で、「交渉で何があるかわからないので万が一のために会話を録音しておくように」と。録音許可は取っていなかったので微妙ではあるが、後の交渉において貴重な切り札となる。

一方、ライバルチームのAI警備システム「Gurdians AI」(異常行動を検知するアプローチ)は、キーメッセージとして警備員の費用削減を掲げており、警備会社からAIが雇用を奪うな、とデモを起こされてしまう。

社会課題解決を目指す「ヌンギル」とコスト削減を掲げる「Gurdians AI」のDemo Day対決は、両チームがコア技術とする顔認識技術の認識精度。

先にピッチしたGurdians AIの精度はヌンギルを上回っていた。ピッチ前にねつ造した認識精度でピッチするかどうか迷い、正直に認識率では下回るという発言をする。ここでちょっとでもごまかしたら、自分たちが達成した成果すべてが嘘になってしまう、と。

壇上、審査員に問い詰められる中、顔認識の技術は、認識率の数値だけでなく、バッテリー消費など環境にも配慮すべきだという主張をしたことで、両社シングルボードPCでアプリを実行し、認識精度を測定することになる。

結果、ヌンギルの認識エンジンは貧弱な実行環境でも安定して動作することが認められ、Demo Dayの勝者となる。

その後、シリコンバレーVCのAcqui-Hireを前提とした契約に気づかないまま出資を受けてしまい、CEOは解任、エンジニアはU.S.で3年間、従業員として開発プロジェクトに参加することになる。

待遇や実績作りなど条件は悪くないものの、自分たちがつくりたいソリューションを開発できなくなり、3年が経過する。U.S.渡航前、ヌンギルの次に、自律走行車をつくりたいというアイディエーションをチームで行っていた。

休暇で一時帰国していた際に方針を転換し、元のCEOとともに自律走行車を開発し、因縁の大手企業と対決することになる。

15話に続く。

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いかがでしょうか?あまりにあるあるすぎて、耳が痛い、あるいは、共感するという方も多いのではないかと思います。

ちなみに、この投稿のOGP画像は、第5話のエンドロール。右下に赤く囲っている部分には、「AI技術支援:NAVER CLOVA」と書かれてます。我々LINE AIカンパニーのカウンターパートであるNAVERのCLOVAチームが技術支援を行ってます。昨年のLINE Developer Dayで日本でも紹介させていただいた手書き文字フォントの技術が、まさにそれで、日々OCRのプロダクト開発などで会話している韓国側のメンバーがナム・ドサンに見えてくる錯覚。

手書き文字フォントの件に限らず、AIスタートアップ、あるいは企業内のAI新規事業が直面する困難がリアルに描かれているのは素晴らしいことです。日本において、半沢直樹で「クラウドにバックドアを仕込むよ」とか言ってる状況とはだいぶ異なりますね。この違いが、日韓のスタートアップエコシステムやAIエンジニア、IT業界に対する世の中一般からの理解や評価の違いによるものではないと思いたいところです。もし、日本でAI技術をモチーフにしたドラマやアニメをつくろうとしている方がいましたら、技術監修や設定考証、できる限りご支援させていただきたいと思います。

さて、16話が最終回となる「スタートアップ」は今週末5日(土)、6日(日)に、韓国でのドラマ放映終了後、23:00にNetflixで公開となる模様。

ドラマの中でのフィクションではありますが、技術とパッションに加えて、さまざまな経験を積んだ前途有望なAIスタートアップが、世の中の当たり前を変えていくクライマックスに期待したいですね。



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