自分との対話法を深堀る1冊

 ヒトは1日に約1万回、自分と対話しているという。実は、自分に一番影響を与える人物は、自分自身だ。だが、学校で自分との有効な対話の方法を学んだことはない、親から聞いたこともないという人が殆どだろう。そもそも、自分自身に生涯を通して1番影響を与えるのは実は自分(との対話)であるというその事実を指摘してくれる人は少ない。

 自己の存在を肯定できた場合、他人になんと言われようと困難を克服できる可能性は高まる。自分を鼓舞する複数の方法を身につけることができれば、より望ましい人生を手に入れる確率は高まるだろう。本書「Chatter 頭の中の独り言をコントロールし、最良の行動に導く26の方法」は、そのヒントを提示してくれる。著者のEthern Krossは、意識のコントロールの研究に関する研究者であり、心理学者である。本書は、ただの著者の思い付きではなく、論拠の根拠となる膨大な論文・研究結果が巻末に記載されている。

 人は、生きていく上で様々な問題に直面し、乗り越えようとする。他人の助言を求められる場合もあるが、多くは自分ひとりで対処しなくてはならない。そんな時に、誰よりも自分自身を味方につけることができ、もう一人の自分が、自分の最大の理解者かつ良きアドバイザーになってくれたら、どんなに心強いだろうか。

 心の中のもう一人の自分"Chatter(頭の中の声)"は、様々な「声」をあなたに囁き、届けようとする。(危険から身を守り生き延びようとする)生存本能の性質上、より悲観的な予測(本書のひとつのキーワード)を行い、悲観的なシナリオ・うまくいかない場合の予測をあなたに届けようとする場合も多い。そしてその声はあなたに影響を及ぼし、実際にその悲観的なシナリオは現実になってしまう場合もある。悲観的な自分に嫌になってしまうことが多い人ほど、本書を読むことを勧めたい。自分自身の人生を1歩でも前進させられるように。(余談だが、楠木健氏の「絶対悲観主義」も名著)

 そもそも、人間は「いまをいきる」ようにデフォルトとして設計されていない、という下記記述は、自分を知る上で参考になる一歩だ。

近年、いかにして脳が情報を処理するか調べたり、リアルタイムで行動を観察したりする最先端の手法によって、人間精神の隠れたメカニズムが解明されてきた。すなわち、目覚めている時間の1/2-1/3の間、私たちは今を生きていないのである

 息をするように自然に、私たちは「いま、ここ」から離脱し、過去の出来事や想像上のシナリオ、その他の内面の妄想へと脳によって導かれる

 こうした傾向はきわめて基本的なので、「デフォルト」という名前がついいるほどだ。それは他に何もしていないとき、また往々にして他に何かをしているときでも、私たちの脳が自動的に立ち返る活動である。

Chatter まえがき p.14より

以下は、本書で紹介されている、自分との対話法のtips。

~~~◎自分だけで実践できるツール◎~~~


1.距離を置いた自己対話を活用しよう

→自分と対話する際に、(自身の)名前や二人称のyouを使ってみよう。
それによって脳内の反芻に関わるネットワークの活性化が抑えられ、ストレスのある状況でも、パフォーマンスの向上やより賢明な思考やネガティブな感情の減少が期待できる

2.友人に助言していると想像しよう
→自分自身の問題として捉えると近視眼的になってしまうため、第3者的な視点を持ち込める.

3.視野を広げよう
→人生や世界という大きな枠組みの中でいかに位置づけるか.過去の経験と比べてどうか. 尊敬する人ならどう対応するかを考える.

4.経験を試練として捉え直そう

5.Chatterによる身体反応を解釈し直そう
→ストレスへの身体反応は、ストレス下で結果を出すための適応進化的反応である。急に呼吸が早まったり、動悸がしたり、手のひらに汗書いたりするのは、身体による妨害ではなく、試練に立ち向かうための応援であり、経るべき必要なプロセスなのだと言い聞かせよう

6.経験を一般化しよう
→同じような経験をしたのはあなただけではない。不快な経験について考えたり話したりする時、一般の人々を指すYouという言葉を使ってみよう。そうすることで、健全な距離を保ちながら自分の経験を見つめやすくなり、自分に起きた事は特別ではなく、誰にでもある経験だということが明確に。

7.心のタイムトラベルをしよう
今から1ヶ月後,1年後にあなたがどう感じるかを想像してみる。(とても難しいのはわかっている)。でも、今の感情的状態が、永遠に続くわけではないということに少しでも想いを馳せたい。

8.視点を変えよう
→切手サイズに自分自身を縮小させてみる。
→鳥の視点で、空から自分を俯瞰して見る視点を取り入れようとする。

Zoomout(ズームアウト)によって、人々のストレスに対する心臓血管系の闘争・逃走反応が抑制され、脳内の感情活動が沈静化し、人々が怒りを煽られても、敵意や攻撃性はより控えめになる

俯瞰的視点を

9.思ったままを書いてみよう
→心の奥底の思いや感情をありのままに描いてみよう、文法も綴りも気にしないで。1日15-20分、日記を書いてみる。語り手の視点で、自分の経験に注目すると、その経験から距離を取ることができるので、なぜその感情を抱いたかが分かり、やがて気分が和らいでいくこともある。

10.中立的第三者の視点を取り入れよう

11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう
→あるものがChatter(心の中の声)を和らげてくれると信じるだけで、脳の予想力が活用され、信じた通りになる事は少なくない。重要なのは、超自然的な力を信じなくても、その行為が効果を発揮することだ。それらがどうやって脳の治癒力を生かすかを理解するだけで充分である。

12.儀式を行う
→儀式(意味を込めて定められた1連の行動)は秩序とコントロールの感覚を与えてくれるため、Chatterを鎮めてくれる効果がある。


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