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【映画】コメディはテンポと間!~「カラオケ行こ!」鑑賞記

予告編がちょっと面白そうで気になっていた「カラオケ行こ!」を見てきました。いやー、これがなかなか良かったです、本当に。レビューなどでも皆さん高評価をつけていらっしゃるので、同じような感想を持たれたんだと思うんですが、興奮冷めやらぬ間に感想をまとめていきたいと思います。


異色な掛け合わせによる面白さ!

まずは設定がそもそも「面白すぎる」。というのも、ヤクザさんと合唱部のソプラノパートを歌う男子中学生というコンビがもう「ありえない」!わけですが、だからこその面白さがあるんですよね。例えば同じ音楽モノでいうとハリウッドのもはやクラシック映画になりつつありますが、「天使にラブソングを」。これも教会のシスターたちが歌って踊るという、一見「正反対」のモノが掛け合わされる面白さがありましたよね。こうした意外性、異色なモノを掛け合わせることによる化学変化効果が今回も見事に発揮されていたように思います。

コメディは「真面目」にやらないとつまらない!

喜劇役者やコメディアンって本当に芸達者でないとできないってよくいいますよね、今回もまさにそうでして、まずは主演の綾野剛さん。冒頭での大熱唱の「紅」!これには本当に笑わされました!しかし、演技している綾野さんは至って「真面目」。そう、このギャップが生み出す「可笑しさ」なんですよね、綾野さん演じる狂児はマジで熱唱しきっているわけで、それが一層笑わせてくれるんです。今回はヤクザさんが登場するだけあり、強面軍団(=画面がそうとうな「濃さ」でした)が活躍するわけですが、役者の皆さんも芸達者なので、真剣に笑わせてくれる、この感じがとても良かったです。

若手俳優陣も芸達者が勢揃い!

W主演の齋藤潤さんも綾野さんを相手に見事な「ドS」ぶりで、キレのいい演技を見せてくれました。どうやらオーディションで勝ち取ったそうでして、現在ドラマ等でもブレイク寸前というところでしょうか。イメージは瀬戸康史さんとか濱田龍臣さんに似た印象で、出身ではないようですが大阪弁
がしっかり板についていたように見えました。さらには合唱部の副部長さん役の八木美樹さんも可憐なビジュアルのみならず、コメディの「間」を分かっているテンポ良い演技と台詞で、出てくる「場」をかっさらっていました。彼女も今後ブレイクしていきそうな予感が・・・。

台詞の「間」で笑わせる演出が好きでした!

監督の山下敦弘さんの演技指導の為せる技だとは思うのですが、台詞の「間」が絶妙でした。齋藤さん演じる岡くんが、ヤクザさんたちの歌唱を一言でブッタ切るシーン、さらには齋藤さんと八木さん、さらには齋藤さんと同じくボーイソプラノを担当する後輩(後聖人さん)との口論シーン。どちらも「間」が素晴らしい。これってすべてが「タイミング」の妙で笑わせるものなので、山下監督の絶妙の感覚がビタッとハマって会場では笑いがこぼれていました(平日なのに)。

オフビートなシーンも好感

ハリウッドのコメディ映画だけでなく、ミニシアター(←古っ!ってかんじですよね、すみません、歳がバレますね、笑)系のコメディ映画でも、本編のストーリーの間に挿入される、ちょっとしたサイドストーリーってあるじゃないですか、今回の作品にはそうしたサイドストーリー、サイドシーンが効果的に挟み込まれていて、これがまたいい味を出していました。主人公の岡くんが幽霊部員として所属する映画鑑賞部でのシーン。ここで見ている映画がすべて「渋い」んですよ、だって「カサブランカ」ですよ!フツーの中学生が見るのかなって感じですけどね。

さらには岡くんの自宅シーンもまたちょっと不思議なテンポになっていて、これがまた笑えました。特にお母さん(なんと坂井真紀さん!)とのやりとり。なんとも噛み合わないような、なんともいえない空気感。さらにはほぼ言葉を発しないお父さんの表情で笑わせてくるところなんか、クスッとさせられまくりでした。ここでもまた、齋藤くんがお母さん、お父さんを一言でバサッと斬っていく感じがさらに笑いを増幅させてくれます。あとは合唱部の副顧問役の芳根京子さん!めちゃくちゃキュートで、ちょっとズレてるんだけど、そこがまた許されちゃうなんともいえない絶妙具合で最高に笑えました(しかもピアノ伴奏は芳根さん自ら演奏しているとか!)。

二人のやりとりの妙が「セトウツミ」を彷彿

映画ではないんですが、かつてテレビドラマで放映されていた「セトウツミ」もまた、川岸で男子高校生二人がダラダラ喋るというストーリーなんですが、一人がボヤき、一人がツッコむというやりとりの「妙」で笑わせる作品でした。今回の「カラオケ行こ!」の二人(狂児と岡くん)のやりとりをみて、かつて見た「セトウツミ」の二人(瀬戸くんと内海くん)を思い出しました。とにかくボケまくる瀬戸くんを全力でツッコみまくる内海くんのやりとりが面白かったですね、それくらい狂児と岡くんも良かったです。

音楽の選曲が堪らない!

これは監督が同世代だからでしょうか、きっとそうだと思います(笑)。XーJAPAN、奥田民生、斉藤和義、井上陽水なんて、ドンピシャに世代(ちなみに井上陽水さんは「少年時代」です)ですし、一世代上になると、久保田早紀、寺尾聰、桑名正博と渋めのチョイス。そしてKing Knuや米津玄氏(三代目じゃないっすよ、笑)といった今どきの面々までを網羅。そしてエンディングに流れるLittle Glee Monsterが唄う「紅」の合唱バージョンがまた素晴らしい!一つの映画でこれだけ「紅」が流れるのもそうそうないですよね(特に中盤で岡くんが狂児に、オススメ曲リストを渡し、狂児が1曲ずつ歌うたびになぜか「紅」を挟むというシーンも大爆笑でした)。ここまで常に狂児の熱唱を聴かせておいて、ラストは合唱バージョンで締めるという憎い演出!堪りません(笑)。

トータルとして全体のテンポ感がいいムードを醸成

とにかく「一人のヤクザがカラオケ大会に向けて、指南役としてある合唱部の男子中学生に教えを請う」というプロットで2時間突き進むわけですが、不思議なことに「飽きない」んですね。立て続けにシーンがたたみかけられる訳でもなく、ちょうどいい按配で多岐にわたる伏線が回収されたり、随所に笑いが込められていたり、しかもその笑いも大爆笑からクスッと笑えるものまで多種多様。そして全体を通じて「悪役」がいないのも、見ていて肩がこらない、心がしんどくならなかった要素だと思います。いいですよね、2時間楽しい気分で映画に浸れるというのも。

今のところロングラン中です・・・もし良ければぜひ劇場で!

2月13日現在、公開4週目を迎えております。昨今、成績が今ひとつだとあっという間にクローズしてしまう世知辛い映画業界においてはなかなかのロングラン中なのではないでしょうか。ましてや大作とはほど遠い佳作小品。とはいえ平日でもお客さんが入っていましたし、もうちょっと続くような感じもしています。もちろん配信やDVDでもいいかな、という声もあるように思いますが、綾野さんの大熱唱はぜひとも劇場で体感してほしい。いやー、あんなにコメディができる役者さんだとは知りませんでした!そしてラストはLittle Glee Monsterの「紅」を大画面で聞き入って欲しいですね。そして聞き切るまでは席に座っていることを強く強くオススメします!


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