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一番売れてる抗うつ剤は複数の重大事件犯も服用 放置される大問題 うつに非ず②

野田正彰著「うつに非ず」(2013年講談社)から、病気を新たにつくる「疾病化」の問題点を引き続き考えます。
 
「うつ病は心の風邪」という台詞をご存じの方も多いと思います。
しかし、風邪の割りには、とても強い薬が気軽に出されているようです。
<本来のうつ病は、ほとんどの人が年に1回か2回ひく風邪のような軽いのものではない。心の風邪と言われながら、強力な向精神作用を持つ薬が精神科外来を訪ねた人に多種類、長期に投薬されている。風邪で多剤、長期服薬を勧められはしない。いかに「うつ病は心の風邪」というキャッチフレーズが多くの人びとの人生を変え、不幸に突き落としてきたか、考えなければならない。>
 

うつ病を増やす詐術


うつ病の概念の拡大の理由は何でしょうか。
野田医師はこう指摘します。
うつ病を増やす詐術の元となったのが、アメリカ精神医学会によって書かれた「DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)」である。…この場合の精神障害とは「ちょっと変わっている」「少し変だ」程度の言葉である。元もとDSMの分類自体いいかげんなもので…日本の精神科医たちは翻訳書でさらに巧みに言葉を弄した。>
翻訳版では、精神障害が精神疾患に訳し替えたと言うのです。
<曖昧な「精神障害」を疾患であると思い込ませ、「精神疾患」の診断方法が確立されたかのように誤解させる詐術が用いられてきた。>
アメリカでは統計マニュアル目的だったそうで、日本で翻訳された途端に診断目的まで加わってしまったそうです。
9項目のうち5項目が該当すれば「うつ病(正しくは大うつ病エピソードに該当するだけ)」という診断マニュアルは、実際のうつ病でもめったにない症状であったり、不眠と睡眠過多のような正反対の状態を同列に並べたり、一読しても理解しがたい項目が多いものです。
ここで全項目を示そうと思いましたが、混乱しますので割愛させていただきます。
野田医師は「質問票に沿った面接が、聞かねばならない症状や情報からどれほど遠いか」と嘆きます。
<うつ病キャンペーンによる精神科受診への誘導、そしてチェクリストに基づく安易な診断が精神障害のラベル貼りだけで終わるならば、それほど弊害は起きなかったかもしれない。だが、いずれの精神障害名にも向精神薬の投与が結びついている。>
 

手術をリタイアした脳外科医


安易な診断と投薬については、国会会議録検索から、脳外科医で日本維新の会の宮沢隆仁氏が2013年の衆議院厚生労働委員会で興味深い発言をしています。
<右肩上がりで心療内科、メンタルクリニック等は町中にどんどんふえている。手術をリタイアした脳外科医がやたらにトランキライザー、向精神薬を出しているケースがある。いわゆるうつ病の簡易診断法を錦の御旗のようにして、一般の内科医でも、これに当てはまったら、ああ、ではパキシルでも出しておこうかといって、ずっと外来で出しておくことは可能。>
 
10年前の著作ではありますが、抗うつ剤市場の急伸がよくわかります。
莫大な研究費がかかる新薬の登場が抗うつ剤の売り上げを押し上げる格好です。
本書の日本における抗うつ剤の市場規模というグラフ(※最新の数字を盛り込みたかったのですが、高額なデータで無理でした)で示されているパキシル(2000年発売)、ジェイゾロフト(2006年発売)、サインバルタ(2010年発売)は<精神科クリニックに通う多くの人が処方される>
これらは旧来の世代の抗うつ剤に比べて高額で、特に有効というほどではないが、副作用が少ないと喧伝されてきたと言います。
しかし、
<最も重要な問題は、ほとんど副作用がないとされた新薬には、最も危険な副作用があったのである。
1999年、アメリカ・コロラド州のコロンバイン高校で銃乱射事件が起こり、犯人のひとりは強迫性障害の治療のためSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のルボックス(※ブログ主注:1999年発売、日本で最初に発売されたSSRI)を飲んでいたと報道された。その後、SSRIによる攻撃性や他人に対する思いやりの喪失、自殺衝動が問題になっていった。>
2003年広島県で民間人校長が自殺したのは、昼間、学校の一階正面の西、非常階段登り口であった。多くの子どもが目にする可能性のある場所である。…彼は精神科に一年たらず通院していたことは明らかになっているが、飲んでいた薬は分かっていない。>
1999年に羽田発新千歳行きの全日空機を乗っ取り、機長を包丁で殺害した男は大量の抗うつ剤を投与されていた。>
 
ベストセラー作家で精神科医の和田秀樹医師は「コロナのウソとワクチンの真実」(近藤誠共著、2021年ビジネス社)のコラムの中で同様の指摘をしています。
<SSRIというクスリは脳内のセロトニンが減っている高齢者には有用だが、40歳くらい以下の人に周囲を巻き込んでの自殺や大量殺人をして死刑にしてもらうといった目的で実行される「拡大自殺」の誘因となる説もある。実際、アメリカのコロンバイン高校乱射事件、あるいは日本の池田小学校事件(※2001年)、秋葉原事件(※2008年)などといった多くの大量殺人事件で、このクスリの服用が確認されている。>
 
そのほかにも2005年宇治学習塾小6女児殺害事件で当時23歳の犯人が事件前にSSRIを摂取していたとの情報もありました。(同事件のウィキペディアより)
 
製薬業界のニュースをまとめるアンサーズニュースの【2022年度 国内医薬品売上高ランキング】(データ元:IQVIA)によると、抗うつ薬の売り上げ上位1位、2位、4位はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と、セロトニンに加えてノルアドレナリンの再吸収も阻害するSNRIでした。
 
10年前の話ではありません。今もなお続く大問題です。
 
※追伸 前回不眠を訴えるとすぐに精神科の薬が処方されたと書きましたが、当時のおくすり手帳を見ると、退院後の通院時にも抗うつ剤が処方されていたことがわかりました。SSRIではありませんが、「心の風邪」をあっさり受け入れていた自分に驚きました。
 

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