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座敷童子に会った話し

2009年の6月頃だったと思います。

私は会社の有給を使って屋久島に旅行に行きました。

二泊三日。気軽な一人旅のつもりで、民宿は朝食付きで五千円程度の比較的リーズナブルな場所を選びました。

そこはインターネットで検索してもほぼ最上位にある人気の宿で、大きめの民家を改装した感じの、新しくて綺麗な印象の施設でした。

広い玄関に着くと明るくて感じのいい50代くらいのおかみさんが出迎えてくれて、すぐに二階の一室に通されました。部屋は八畳くらいの和室でしたが、特に古い印象はなく、畳も新しくて清潔な感じでした。

宿に着いたのは午後3時くらいで、その日の予定はありませんでした。

部屋で横になりながらガイドブックをパラパラと読み、夕飯はどこに行こうと思案しているうちに眠くなり、そのうち本当に眠ってしまいました。

それから次に気づいたときは金縛りでした。

久々に長距離の移動だったせいで少し疲れていたのかもしれません。体が鉛のように重苦しく、目も上手く開けられませんでした。


私は基本的に眠りが浅い性質で、特に慣れない環境にいると金縛りに遭う頻度も高かったため、この時も「やっぱり来たか」と内心で思いながら金縛りが自然と解けるのをじっと待っていました。

それからしばらくすると部屋の隅の、本来は壁しかないはずのあたりからすすすっと襖が開く音がしました。

その後に、ととととっと小さな子供(おそらく二人)、の足音と無邪気な笑い声が自分に近づいてくるのが分かりました。

子供達は早足で駆け寄ると、私の顔を覗き込み、それからすぐに何かに気づいたように黙り込みました。

そして少し間があった後に「いつものお兄ちゃんじゃない」と口にしました。

二人はすぐに元来た方角 へ走り去り、襖のしまる音がした後、金縛りは解けました。

その時にはもう夕方で、部屋は薄暗くなっていて、襖の開く音がした場所はやはり隣室を隔てる白い壁でした。

そもそも金縛りとは脳が半分覚醒して、半分は眠っている状態で、時に幻覚や幻聴を体験するのも珍しくないのだという事は当時から知っていました。

だからこの時も、不思議な夢だったなと思うくらいで大して気にもせず、夕食を食べる頃にはすっかり忘れていました。

それから次の日の早朝の事です。
屋久杉を見に行くために早起きして、民宿の食堂で腹ごしらえをしていると、例のおかみさんが話しかけてきました。

おかみさんは相変わらず朗らかな雰囲気で、私の年齢や出身地、他愛のない身の上話しを一通り聞くと、最後にポツリと、

「あなたの使っている部屋ね、以前は息子の部屋だったのよ」と言いました。


それから何の話しをしたのか覚えてません。

「いつものお兄ちゃん」と、「おかみさんの息子さん」が同一人物ではないかと気づいたのは東京に帰ってからです。

息子さんは今何をされているのでしょうか。たまにそれが気になります。

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